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第十一話 危険な出逢い

 百六十七センチ、三十八キロ。


 それが、あとから教えてもらった、出会ったときの木村亜子の身長と体重だった。


 見た瞬間、心臓を射抜かれてしまった。


 光を帯びた黒髪、瀬戸物のような白い肌。


 憂いを湛えた大きな目、ヨーロッパ風の高い鼻。品のある涼しげな口元。


 そして、モデル顔負けのスタイル。


 こんな子が、どうして普通の喫茶店でウエイトレスなんかしているんだろうと、不思議でならなかった。


「きみ、バイト?」


 つい訊いてしまった。なにも時給何百円で働かなくても、その美貌でいくらでも稼ぐ道がありそうなのに。


「はい、さようでございます」


 やや甲高い声で、まるで深窓の令嬢のように、そう言った。


「若そうだね。大学生?」


「いえ、まだ高校なんでございます」


「ホントに? すごく大人びてるね」


「お褒めにあずかり恐縮でございます」


「将来はモデルだね」


「めっそうもございません」


「モデルになったら、きっと日本一、いや、宇宙一になれるよ」


「オホホ。お坊っちゃまは、とてもお口がお上手ですね」


「おぼ……エヘン。ぼくは三十超えてるけど」


「た、大変失礼をばいたしました。どうかこのご無礼、平にご容赦を」


 腰を折って深々と頭を下げて謝るので、ぼくはまわりの目を気にして言った。


「別に謝らなくたっていいよ。いつものことだから。ところできみ、将来を視てもらいたくはない?」


「将来、でございますか?」


 令嬢が、心を惹かれたのがわかった。ぼくはすっかり嬉しくなり、


「うん。ぼくの知り合いに、なんでも視えるアメリカ人がいるんだ。彼女に頼めば、たとえばきみがモデルになったらどのくらい売れるかとか、なんでも教えてあげられるよ」


「まあ」


 彼女は白く美しい手を口に当てて、大きな目をさらに大きく見開いていたが、


「それはぜひ、お伺いいたしたく存じます」


 にっこり笑って言った。その瞬間、ぼくの目に、バラがいっせいに咲くのが見えた。まさしく女神の微笑だ。


 バイトは午後六時までで、そのあと一時間くらいなら時間があるという。ぼくの探偵事務所まで来るかいと訊くと、彼女はうなずいた。


 ぼくはふわふわと宙に浮きながら、喫茶店〈ルイーズ〉を出た。


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