【第一章1】サディスティックな出会い
昼寝から起きた時のような、おぼつかない感覚。頭がボーッとする。
「異世界か……?」
すぐに正気に戻り周囲を見渡すと扇形に囲む人だかりができていて、皆息を飲むように黙ってこちらを見ていた。
どうやらここは建物の中で、左には酒を飲む厳つい筋肉の男達、見るからに魔法使いだろうと判断できるような人もいた。おそらく酒場だろう。
右には大きな木の板に沢山の紙が張り付けてあった。これは言うまでもなくクエストボード。クエストを受けるための受付だ。
ゲームの勘と経験から推測すると、俺が居るのはギルドと言うことだろう。
目の前の少女がカードのような物を拾い上げた。
天使の言っていたステータスが書いてある身分証だろう。
少女が小声でボソッと言うのを合図に喝采と歓声が上がった。
「URだ…………」
「「「「「おーー!」」」」」
ギルド中の視線は俺に集まり、立ち上がって口を開けている人もいる。
「URが出た瞬間を見るのは久しぶりだぜ!」
「あの子、引き運良すぎだろ」
「まさか単発1回で出しちまうなんてな!」
そうだ、俺はガチャから異世界召喚されて…………。
振り返ると俺の背後には大きなガチャマシーンがあった。金属や宝石でドラゴンと騎士らしき形をした細工がされていて迫力がある。俺はここから召喚されたって訳だ。
それはそうと今、確かにURって聞こえたよな。俺がURと考えてよさそうだ。
URとはソシャゲの中での最高峰のレア度を意味し、ステータスが全体的に高い。即ち俺には伸び代が有る!これは異世界無双ができる予感。
そうなると目の前の少女が俺のご主人様か?━━いや、訂正しなければならない。凄い美少女だった。
年齢は同じぐらいだろう。白のラインが入った黒いジャケットを羽織り、肌の露出面積が少々多いのだが胸が少々小さい。銀髪ツインテールにピンク色に近い赤眼の微ロリっ子だ。なぜか左手には首輪が握られていたがペットでも買っているのだろうか。
銀髪に赤眼、生で見るのは初めてだ。アニメやゲームではよく見ていたが生だとなんかこう、感動する。
女子運が無い俺でも美女にありつけた。自分でも正直怖いくらいだ。それに、これ程の美女と釣り合う自信が全く無い。俺には持った得ないぐらいだ。
完全に自分の世界に入り込み考えていた俺に突き刺さるような冷酷な視線がこちらを見ている。
「ジロジロ見るの辞めてくれませんか変態」
美少女の言葉に観衆たちは皆やれやれと苦笑いしている。
「相変わらずだねぇ。家族になる相手にもドSなんて」
えぇ…俺の家族になる人、ドSキャラなのか…?銀髪ツインテールドS………。しかも「相変わらず」。定評のあるドSなのか?
観衆と俺を無視し再びカードを見て指でなぞり何かを確認している。
「九鬼 勝也………。あなた家名が有るの…?」
家名……?名字の事か?
「あぁ、九鬼が家名で勝也が名前だ。よろしく」
俺の声に周りが再びざわつき始めた。ドS美少女も驚いた顔をして後退りしているぐらいだ。
「ガチャから高族が出るものなのか?」
「前代未聞だぞ」
「これは貴族達が黙っちゃいないな」
なんかいきなりヤバそうな展開だな。
やっぱりあれか?庶民には家名なんてたいそうなものは付いていないパターン。
いやでも俺の名字を家名と言って良いものなのか正直分からない。けど江戸時代の時代背景を考慮すると家名になる。難しい所だ。
「なんか家名があると不味いのか?」
「後で教えてあげるから、今は着いてきて。首輪があるから付けておきなさい」
差し出された首輪。どうやら俺用だったみたいだ。本当に犬につけるようなただの首輪。
観衆もこれには若干引きぎみで口を開けている人もいる。
さて、俺はこれをどうしたらよいのだろうか………………………………………。
暫くの沈黙が続き自ら切り出した。
「………………俺たち家族になるんだよな?」
「そうね、私のペットよ。迷子になっても誰かに見つけてもらって戻ってこれるように首輪に住所も書いておいたから」
ペットとしか思われないのか。ペットでも愛されれば良いのだが、このドSが俺に愛を注いでくれるだろうか。━━━いや、無いな。
ともかく首に着けるのは御免だ。
「腕とかじゃいけないか?」
「腕だと邪魔になると思うけど、それで良いなら好きにしなさい」
俺はMでもSでも無い。こんな事されても嬉しくないが美少女の命令なら許容範囲。と自分に言い聞かせて事を穏便に済まそうとしている。
「行くわよ」
そう言われ腕を強引に左腕に着けた首輪を引っ張られ半分引きずられつつ誘導される。
あぁ、俺何してんだろ。こんなSM異世界生活になるのか…?
ガチャマシーンがある建物を出るときに2階から視線を感じた。
見上げると高貴なドレスを身にまとった女性がいた。
一発で「貴族だろう」と予想がつくような容姿で、こちらを眺めていた。