剣と微笑と、メイドの一日(2)
都市エルクの繁華街にある酒場「戦士達の休息」。
引退した剣士たちが営むこの店では、今日も武勇伝が飛び交っている。
その一角では、ギリクと弟子たちが今日の一戦について語り合っていた。
「ギリク師範、あの剣技……まるで舞のようでした!」
「そうだな……手応えのある奴だった。剣をかすめられたのも久しぶりだ」
ギリクは、裂けた袖口を見ながら苦笑いを浮かべる。
(あの剣筋は天性のものだ。あと数年実戦を積めば、俺に肩を並べる騎士になるかもしれん……)
別れ際のルーファスの言葉が脳裏に浮かぶ。
「次にお会いしたときには、もう負けは致しません」
若者らしい挑発に、ギリクは若き日の自分を重ねていた。
(俺も無謀な挑戦ばかりしていた。殺されかけたことも一度や二度じゃない。今でこそ笑い話だが、よく生き延びたものだ……)
弟子の一人が、最後の一撃について尋ねる。
「師範、最後の剣……いつもと違うように見えましたが?」
「ああ、ケネスの息子に“隙を見せるな”と教えるためだった。剣を彼の脇に飛ばすつもりだったが、少し狙いが外れてしまった。歳は取りたくないものだな」
弟子たちは、師の指導精神に感嘆の声を上げる。
だが――ギリクの心には、妙な違和感が残っていた。
(……いや、あの一撃。狙いは完璧だった。手元が狂った感触はなかった)
(それに……あのメイド。悲鳴をあげた瞬間、空気が揺れたような……)
(剣の軌道が、ほんのわずかに逸れた。まるで、何かが干渉したかのように)
ギリクは、自分の思考に苦笑する。
(馬鹿な。俺に感じ取れない技など、S級スキルでも難しい。焼きが回ったか……)
だが、心の奥に残る微かな違和感は、酒の酔いでも消えなかった。
「さあ、飲め食え! 明日からの修行は、もっと厳しくなるぞ!」
弟子たちの悲鳴が酒場に響き、夜は何事もなかったかのように更けていく――。
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