メイドと魔女と、夜を駆ける者たち(1)
今日も一日、メイドとしてのお仕事を終えて、ようやくほっと一息つける時間。
私たち使用人は、屋敷の奥にある大部屋に集まって、夕食をとったり、ちょっとしたおしゃべりを楽しんだりしています。
このアルピン家は、使用人の数も多くて、こうして皆が集まれる場所がちゃんと用意されています。
部屋の中は、まるで上等な客室みたいに居心地がよくて、暖炉の火がぱちぱちと音を立てています。壁には古い絵画が飾られていて、ふかふかの安楽椅子も並んでいます。
仕事の合間には来客対応にも使われるし、こうして仕事終わりには談話室としても使われてるの。
今夜も、みんながそれぞれの話をしてて、今日の出来事、ちょっとした愚痴、恋の話……。笑い声が絶えなくて、部屋の空気がほんのり温かいんです。
「ナーシャ、この間ギルド長のカールさんがお見えになってたんでしょ。いいなぁ、私も会いたかった」
声をかけてきたのはリリィ。彼女とはほぼ同じ時期に雇われたこともあって、すごく仲がいいの。
ちょっとクセのある金髪を短く整えていて、大きな瞳とふっくらした唇がとっても可愛らしい。私より少し年下かな? 背も少し低くて、よく「身長を分けて」って冗談を言ってくる。
「カールさん、かっこいいよね。私、一度でいいから、あんな人に告白されてみたい……」
リリィは恋愛話が大好き。まあ、ここで働いてる若い女の子たちはみんな、いつか素敵な旦那様と出会って、幸せな家庭を築くことを夢見てるから、自然とそういう話になるのかなぁ。
「ナーシャ、まさか、カールさんに食事に誘われたりしてないでしょうね?」
リリィが、まるで見ていたかのように言ってくるから、私は思わず言葉に詰まっちゃいました。
「いや、その……あ、あれは冗談で、カールさんは言っただけで……」
顔が熱くなるのを感じながら、しどろもどろに答えると、リリィは目を細めてにやり。
「やっぱり誘われてたのね。ナーシャ、美人だしスタイルもいいし……。前、隣町の大商店の若旦那様に声かけられてたよね」
うぅ……。そんなこと、みんなの前で言わなくても……。
「ナーシャはここの若い連中にも、一番人気だぞ!」
その声が部屋に響いた。料理長のアランさんです。
アランさんは、まるで戦士みたいな体格で、太い腕に赤い髪。大鍋を振るう姿は迫力満点で、“イフリートの料理人”なんて呼ばれてるくらい。
昔は王宮で料理人をしてたんだけど、あまりに奇抜な料理を作りすぎて、他の料理人たちと揉めちゃって……。それで王宮を辞めることになったらしいの。
でも、ケネス様がその料理の腕を気に入って、今はこの屋敷で料理長をしているのだそうです。
「お前も、もう少しおしとやかにしていれば、声をかけてくる男もいるだろうにな」
アランさんがリリィをからかうと、彼女は子供みたいな口調で言い返す。
「アランさんに心配されなくても、いいですよーーだ!」
そのやりとりに、私は思わず笑ってしまいました。
「おまえら、今日のまかない料理うまかったろう。久しぶりのヒット作だぞ」
その言葉に、私とリリィは顔を見合わせる。……嫌な予感がするのですが。
「アランさん、今日はいったい何の料理だったの? 私たちはチキンのサラダとトマトのリゾットとばかり思ってたんだけど?」
リリィが恐る恐る尋ねると、アランさんは満面の笑みで答えました。
「おう! 聞いておどろけ、お前達。今日のまかない料理は、海蛙の海草サラダとドレイントマトのリゾットだ」
……え?
海蛙は、まあ、魔物だけど薬効成分もあるし、薬の材料にもなるから、まだ理解できるのですが、
でも、ドレイントマトは……ない。絶対にない。
あれは“お化けトマト”って呼ばれる魔物で、人や魔物のマナを吸い上げる恐ろしい吸魔植物。
魔の森の奥に生息していて、近づいた者のマナを奪って、命まで奪うのです。蔦に触れただけで、普通の人間ならしびれて動けなくなるほど危険なの。
そんなものを料理に使うなんて……。
「まさか……、ケネス様にこの料理は出していないよね?」
リリィが震える声で尋ねると、アランさんは胸を張って答えました。
「喜んで食べておられたぞ。材料も尋ねられたので答えたら、笑っておられたよ」
……ケネス様、すごすぎます。
私たちは、ケネス様のその懐の深さに、ただただ感服するしかなかったのです。
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