見知らぬ人
「うーん……」
頭が重くて起きるのが億劫だったけれど、太陽の光が私の二度寝を邪魔してくる。陽射しのせいで瞼の裏が赤い。
まだ起きる気分じゃないのに。
日陰に逃れるように寝返りをすると「起きた?」と誰かの声が聞こえた。聞いたことのない声。私に話しかけているのだろうか。いいや、無視しちゃおう。
「コハルってば、狸寝入りでしょ、今」
コハルって呼んだ? 私のことを知っている?
薄っすらと目を開けると、どうやら私は部屋の中にいるようだった。けれどここはどこだろう? 覚えのない部屋だ。薄茶色の壁紙に板張りの天井。部屋の広さだって、私が住んでいる家よりもずっと狭い。それに私の家にはフローリングの部屋しかなかったのに、今は畳の上に敷かれた布団に寝転んでいる。
待って。私が住んでいる家? 私は昨夜、あの家で眠りについたのだろうか? 何か大切なことを忘れている気がする。
「ほら、起きて」
再びかけられた声に飛び起きる。
「あなたは誰!?」
あれ? 私ってこんな声だったっけ?
「誰って、まさか忘れた訳じゃないよね」
半分呆れたように笑っている目の前の男性には、やっぱり見覚えがなかった。
「とりあえず鏡を見に行ってきなよ」
手を取られ、洗面所へ連れて行かれる。
え? 私の手?
「ほら、コハル。これが君だよ」
私に向けられた言葉に鏡を見つめると、そこには高校生くらいの女の子がいた。隣には二十代半ばから後半と思われる男の人が立っていて、鏡越しに優しく見つめている。
「まさか、本当に分からない? と言うか、記憶、もしかして飛んじゃってる?」
急に慌てだす男性は放っておき、鏡の中に自分の姿を探す。間違いなく私も鏡の前にいて、鏡を見ているはずなのに、何度見ても自分を見つけられない。
「どうして……」
私の心のつぶやきを、女子高生が代わりに呟く。
「コハル、本当に分からない? 僕だよ、リュウだよ」
リュウ……! その名前で、私の記憶は一気に遡った。