気配―けはい―
女は眠る。
今日も睡眠薬で、女は薬無しでは眠れない体質だ。
いつもの薬を流し込みベットに潜り込む。
ダサいことに気に入りのぬいぐるみを抱きしめて。
10分、40分、1時間?
時間は判別しないが、女は不意に目を醒ます。
ボーッとする微睡みのなか女は、ある気配に気づく
傍らに黒い気配を。
瞬間、女は思う。
泥棒だ!と。
女は戸惑いながらも寝惚けたふりをし、呟く。
「おかあさん?」
途端に何とも言えぬ感情を味わう。
そして、一度口をついてしまった台詞は何度も零れゆく。
「おかあさん」「おかあさん」「おかあさん」とっ。
気配は、それまで微動だにしなかったのに、それを合図にするかのように女にのしかかって来た。
女は、朦朧とするなか尚も呟く。
しだいに女の目からは涙が溢れゆく。
けはいは、女の目の下を拭うように優しく触れる。
ふいに女は思い出す。
ヤバイ、泥棒だ、どうしよう?と。
どうにかしなくてはと。
警察?
警察に連絡しなきゃ!
ケータイ、携帯は?
女が、混乱し涙を流してる最中ふいに気配が女の目の下をぬぐった。
優しく、愛しそうに。
そこで女の意識は途切れてしまった。
どれくらい時間は過ぎてしまっただろう?
女は、ふいに目覚めた。
無意識のまま、突然身体をガバッ!と起き上がった。
そして囈言のようにつぶやく。
「おかあさん」「おかあさん」「おかあさん」と。
そこで女は初めて気づく。
自分が泣いている事を。
女は呟く。
「くそみたいな悪夢」だと。
女の母親はとうに死んでいる、1年半も前に。
女は母親の重みを知る。
卵巣ガンで亡くなった彼女の、その重みを。




