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2人のないしょの時間 With Bluesky サイドストーリー

作者: 白都里 優侑

 フレアバレーからラディエンに帰還したのは既に夕方過ぎだった。少し長い遠征に疲れつつも、リドルはジェイスと共に調査隊本部の受付の部屋の扉の前まで来ると複数の女性の話し声が扉を隔てて聞こえてきた。


「マリエラ、私たちも応援するからまずは行動あるのみよ」


「ロイゼの友達が占い師してるから一度行ってみるといいかもですよ~その時はお友達価格にしてもらうように頼んでみますからいつでもロイゼに言って下さいです」


「2人ともありがとう。また何かあったら話を聞いてね」


 ジェイスが扉を開けると同時に話をしていた当事者たちが口を閉ざした。


「ただいま戻りました…何か楽しそうに話してたみたいですけど?」


 ジェイスが3人にそれとなく探りを入れる。


「女同士にしか話せない事だってあるんだからそんな野暮な事訊いちゃだめよ、ジェイスくん」


 銀髪のショートカットが印象的な、ジェイス達の先輩でもある魔法剣士のケイトがそう言うと、共に組んでいる年下の白いロリータファッション風の格好をした金髪でまるで人形のような愛らしい少女、魔道士のロイゼは黙ってうんうん、と頷いている。


「ここは素直に謝るところでしょうか?ケイトさん」


「今回は赦してあげるけど、次はどうなるか分からないわよ?」


「まだ命が惜しいんで、肝に銘じます。ところで隊長は…?」


「一足先に帰ったわよ。戻ってきた事は私から伝えておくわ。今回は大変だったみたいね…2人ともお疲れ様」


 ジェイスの問いに普段は調査隊員たちからヴェンツェルと呼ばれている女性、マリエラ・ヴェンツェルが答えた。


「それじゃ、俺達はこれで…」


「そうだ、ジェイスくん、今から私達とお茶しに行かない?」


 不意にケイトに声をかけられたジェイスは驚愕の声をあげる。


「ケイトさんが奢ってくれるなんて何かあったんですか?」


「何言ってるのよ、ジェイスくんの奢りに決まってるでしょ!ささ、行くわよ」


「何で俺の奢りになるんですか…」


「ジェイスさーん、ロイゼはスペシャルマウンテンパフェが食べたいですぅ」


「寝言は寝てから言ってくれないか、魔女っ子ロイゼ」


 遠征の疲れと何故か奢らされる羽目になったジェイスは、げんなりしてロイゼに言った。


「魔女っ子じゃなくて魔道士ですよぅ!」


 ジェイスの発言に頬を膨らませて反論するロイゼと、ジェイスの背中を押しながらマリエラにウインク一つしてケイトは2人と出て行った。


「何か嵐が過ぎ去って行ったみたいになりましたね」


 リドルは苦笑いしながらマリエラに言った。


「そうね。それよりリドル、お疲れのところ悪いんだけど明日ちょっと買出しに付き合ってもらえないかな…無理にとは言わないわ」


「いいですよ。待ち合わせはどうしますか?」


「お昼前に本部の前でいい?」


「はい。それじゃ明日のお昼前に本部の前で。今日は失礼します」


「気をつけて帰ってね」


 マリエラの言葉を背に本部を後にするリドルを見送った。


(何とか第一段階の、“買出しを理由にかこつけてそれについてきてもらう約束をする”は何とか達成できたけど、第二段階の“本気のデートの約束をする”まであと少し…緊張するなぁ…)


 とは言いつつもマリエラ自身、楽しみで仕方なかった。まさかこんなに物事がうまく進むとは思っておらず寧ろ怖いくらいだった。

 

「戸締りして早く帰って明日着て行く服決めなくちゃ」


 実際、調査隊本部での仕事は既に終わっている時間帯であり、マリエラは急いでいつも通り戸締りをして本部を出て家に向かう。家までは徒歩10分程の距離である。

 数分後屋敷が立ち並ぶ中で、ひと際大きい屋敷の門を開けて鍵を閉め、敷地内の屋敷の扉を開けて中に入った。

 

「ただ今帰りましたー」


 マリエラが玄関ホールで言うとマリエラとさほど年齢差がない若いメイドが出迎え、マリエラの鞄を預かる。


「お帰りなさいませ。ご公務お疲れ様でございます」


「皆はもう揃ってるの?」


「はい。お嬢様のお帰りを待っておられます」


「鞄はいつも通り私の部屋に置いておいて」


「かしこまりました」


 足早にリビングへ向かってその扉を開けると既に家族全員が食卓の席についており、マリエラの帰りを待ち侘びている様子だった。


「遅くなりました」


「公務が少し長引くのは致し方ない。早く席につきなさい」


 と、父親に促されてマリエラは母親と向かい合わせの自席につく。家族全員が食事の前の祈りを捧げた後、食事を始めた。


「最近のご公務はどう?」


 母親から訊ねられ、


「忙しいけれどそれなりにやりがいがあって楽しいわ」


「ならいいけど。レイラスさんにご迷惑おかけしてないかお母さん心配で…」


「叔父さんにはよくしてもらってるから多分大丈夫…だと思うけど。それより、明日備品の買い出しに行かなければならないから少し早めに休みます」


「お休みの日もお仕事?」


「大した事ではないし、その後約束があるから夕食は外で済ませてきます」


「あまり遅くならないようにね」


「はい」


 マリエラは満面の笑みで返事をして、食事を終えると意気揚々とメイドが既に灯りを灯してくれた自分の部屋へ入ってクローゼットの中のお気に入りの服を数着取り出してベッドに広げる。


「どれがいいかなぁ…少し暑くなってるから色的にはピンクよりグリーンのこのワンピースよね…何かすぐに決まっちゃって、つまんない」


 学生だった頃にはクラスメイトからデートの話では着て行く服を選ぶのに時間がかかったけど、その時間がワクワクして楽しいと聞かされていただけに自分はすんなりと決まってしまってあまりにもつまらなく感じていた。


「次は別の服を着ていくし、今回はこの服で行けばいいかな。そうしよ」


 他の服をクローゼットに収めてミントグリーンの七部袖のワンピースを机とセットになっている椅子に皺にならないよう、広げたまま掛けると寝間着に着替えて化粧を落として灯りを消し、今までになかった高揚の気分を持ったまま床に就いたものの、興奮して寝つきが悪くなっていた。


(何も考えないようにしたら眠れるかな…)


 マリエラはなるべく明日の事は考えずに休み明けの仕事の段取りを考えているうちに眠りに入っていった。

 翌朝、結局眠れたのか眠れなかったのかよく分からないまま目が覚めたマリエラは寝間着から部屋着に着替えてリビングに顔を出し、いつも通り両親と朝食を摂り自室に戻る。


「早くお昼前にならないかなぁ…それまで読んでなかった本を読んで時間を潰すのも悪くないし…」


 マリエラは本棚を眺めるが、どれも既に読破した書物で一旦離れてベッドに横になる。


(早いけど本部に行って掃除して待ってる方がよっぽど有意義かもね)


 ベッドから起きて椅子に掛けていたワンピースに着替え、化粧をして小振りのバッグに必要な物を入れ、メイドに出かけることを告げると足取り軽く目的地に向かう。本部に着くと隊長でもあり、調査隊に指示等を責任者でもあるマリエラの叔父のレイラスが業務の為に早く来ているらしく、入口の鍵が開いていた。


(叔父さんには買出しに行くから足りない物の確認に来たついでに掃除するって言えば何とかなりそう…)


 そう思いながらいつも通り自分の席がある事務所のドアを開き中に入る。


「おはよう、マリエラ。今日は休みだったはずなんだが?」


 50台前半の齢で未だ独身、調査隊に移る前は近衛兵所属の人当たりの良い誰にでも好かれる人格者であり、縛られるのは仕事だけでいいという少し風変わりなマリエラの叔父、レイラス・ヴェンツェルが自席で目を通していた書類から視線をマリエラに移して訊いた。


「おはようございます。今日は消耗品の在庫確認と買出しついでにお掃除に来たのでお気になさらずご公務に励んで下さい」


「休みの日にまで気を遣わせて申し訳ないね。よろしく頼むよ」


 笑顔でそう言うと、書類に目を通し始めたレイラスを尻目に伝票やインク等の文具の在庫の確認をメモにとって手早く終えると部屋の隅に置かれた掃除道具が収納されている木製のロッカーからモップとバケツを取り出すと、バケツに半分くらいの水を入れてモップを濡らし、水拭きした後に乾いた布で乾拭きをする。

 それが終わると事務作業を行う机や受付カウンター、応接室のテーブルと至る所にあるテーブル類を全て拭き終わる頃にマリエラがふと窓の外に目を移すと朝より陽が傾いて昼と思わせる外の明るさであった。


「叔父さん、そろそろ買出しに行ってきます。買った物を置きにまた戻りますね」


「荷物は1人で持って戻れそうかい?」


「リドルに買出しに一緒に来てもらうので大丈夫です」


「リドルに、ね」


 レイラスは含み笑いをしながら呟く。


「あ、あのっ!リドルに手伝ってもらうからって特別な意味はないですからっ!」


「はいはい。気をつけて行っておいで」


 ニコニコしながら見送る叔父にムキになって言い訳をしたのは逆に悟られてしまったかと後悔したが、リドルが来ていれば待たせる訳にはいかないと、バッグを持って事務所を飛び出した。

 本部を出ると丁度そこにはマリエラを待っているリドルの姿があり、後ろから声をかけた。


「リドル、待った?」


 その声に振り返るリドルは少し驚いた表情を見せる。


「さっき着いたばかりです。ヴェンツェルさん、僕より先に来てたんですか?」


「買出しに行く物の在庫の確認とお掃除もついでにしようと思ってたから気にしないで。行きましょう」


「はい」


 マリエラは在庫が少なくなっていた伝票とインクとペン先のストックを買いに文具を扱っている店に向かってはいるものの、昼時になると否応なく客で混む出店が立ち並ぶ狭い路地を抜けた先にその店がある事だけがマリエラは憂鬱だった。

 マリエラはなるだけ早めに来たつもりだったが案の定、狭い路地は買い物客であふれかえりそうである。


「どうしよう…この道を抜けないと買出しに行けない」


「迂回路もないんですか?」


「一本道だからどうにも…」


「行きますよ」


「えっ?」


 困っているマリエラの右手を握ってリドルはマリエラと共にその狭い路地の人混みへと突き進んで行った。リドルが後ろにいるマリエラが通るスペースを作っているが、人混みですぐに狭くなるのを無理やり通って出店エリアを何とか通り抜ける事ができた。


「ちょっと無茶したかな…ヴェンツェルさん、大丈夫ですか?」


「ええ。ありがとう」


 リドルは路地を抜けても未だにマリエラの手を握り締めている事に気付いて慌てて離した。


「す、すみません!いつまで握ってるんだろ…」


「あの…リドル、一つだけお願い聞いてくれる?」


「僕にできる事であれば」


 言って嫌われないだろうかと気になって仕方なかったが、ここまで口にした以上言わなければならないと、意を決した。


「あ、あのね…私と2人きりの時は…その…マリエラって呼んでほしいんだけど…駄目…かな?」


 その言葉を聞いてリドルは一瞬時間がかかったが、すぐに理解すると少し顔を赤らませ、マリエラも恥ずかしさのあまり顔を赤らませて俯いてしまった。


「いいですよ。マリエラさん」


 リドルは、はにかみながら言うと、マリエラは顔を上げて見つめた。


「えっ…と、マリエラさん早く買出しに行きませんか?お店の在庫がなくなってたら困るし」


 照れて先に店に行こうとするリドルの左手を今度はマリエラが握って、


「そんなに急いで行かなくても、そこのお店にはたくさん在庫があるから」


 微笑んでリドルの横に並ぶとそのまま歩き出す。


 2人は店で買出しを済ませ、再び客であふれそうな狭い路地を人を掻き分けながら通り抜け、本部の事務所に向かい、マリエラは荷物を事務所に置いて外で待たせたリドルと共に町中を歩き始めた。


「この後、予定はあるの?」


「いえ、特には」


「リドルがよければでいいんだけど、今日一日付き合ってもらえないかな…昨日帰ってきたばかりで疲れてたら勿論無理にとは言わないし」


「僕もマリエラさんと同じ事考えてました」


「本当?無理に私に合わせてない?」


 リドルに気を遣わせてそう言わせているのではないかと気になってしまうマリエラにリドルは言った。


「遠征ばかりでマリエラさんとこうして話ができる機会が少ないし…それに…」


「それに?」


 その問いにハッとなるリドルは顔を赤くして慌てる。


「い、今のは何でもないです!聞かなかった事にして下さい!」


「そう言われると気になるわね…帰る迄に聞かせてほしいな」


「誰もいない場所だったら言えそうな気がします…」


(つい心の声が漏れてしまいそうになって止めたら余計に墓穴を掘るなんて…うう…なんて日なんだ)


 自分に呆れながら時間が戻ればこんな思いをしなくてすんだはずなのにと後悔ばかりがリドルの頭の中でいっぱいになった。

 昼食はやはり昼時になると店はどこも混んでいてゆっくりできるような状態ではないと判断してテイクアウトでパンを数個と飲み物を買って公園で食べる事にした。

 こんな風に外で食べる時といえば家族でピクニックに出かける時ぐらいで、2人にとっては新鮮でもあった。


「リドル、ちょっとじっとしてて」


 と、マリエラはリドルの顔に手を伸ばして口の端についたクリームを指で拭い取る。


「ありがとう…ございます。何か子どもみたいで恥ずかしいな」


「そんなところも私は好きなんだけど」


「今なんて?…」


「い、今のはただの独り言だから!」


 発言をなかった事にしようと誤魔化すマリエラは自分を落ち着かせようと飲み物を口にする。


「この後、どこか行きたい所があればどこへでもお供しますよ」


 リドルは今日一日マリエラが行きたい場所へはついて行く事に決めていた。幸いにも明日まで休みをもらえて、年間でまとまった休みは少ない。いつマリエラと出かけられるかも分からない今はなるべく彼女の傍にいたいと強く思っていた。


「そうねぇ…夕見の丘に行かない?夕陽を見るにはまだ早すぎるけど、あの丘からの景色が好きだから。それに好きな…」


「それに好きな、って何ですか?」


「あ、あのね、後で言ってもいい?ここじゃちょっと…」


「楽しみにしてますよ」


 リドルの屈託のない笑顔には母性本能をくすぐられるのか、キュンとしてしまう。そして胸の動悸が治まらない。恋をするのはこんなにも苦しくなってしまうのかと悩む事はほぼ毎日で、いつか死んでしまうのではないかと不安になる事はしょっちゅうだ。


(やだ、さっきのリドルみたいになってる…きっとお腹が満たされたせいで気が緩んでるのかもしれないわね。気を引き締めなくちゃ)


 2人は食べ終えると町の西側の外れにある小高い丘へと向かった。夕見の丘というだけあって、夕陽が沈む絶景を見られる人気のある場所で、夕暮れ時にはカップルが押し寄せるほどでもある。

 町を出て数分歩くと右手に丘の頂上へと続く緩やかな上り坂があり、それほど大きい丘でもないため既に頂上が見えている。


「夕方だったらすごく素敵な空が見られるんだけど、人も少ないしお互いに言いそびれてる事も言えるでしょ?」


「やっぱり言わないと駄目なんですね…」


「私も言うからそんな顔しないで」


 上り坂を登りながら不安げな顔をしてリドルにマリエラはお互いに公平である事を告げて不安を取り除こうとしてみるものの、逆にその不安を取り除けているのかどうかマリエラが不安になっていた。

 少し息を切らせながら頂上に辿り着いて辺りを見回す。城の高さには及ばないものの、城下町を見下ろすには十分だった。


「リドル、言いそびれたさっきの言葉聞かせてくれる?」


「今…ですか?心の準備がまだできてないからすぐには…」


「じゃ、私から言っていい?」


 マリエラはリドルの顔を真剣に見つめて言った。お互いの気持ちは十分、今日この時まで一緒にいて分かっていても言葉にして伝えなければと2人は思っていた。


「やっぱり、こういう事は僕から言います」


 女性から先に言わせるのは違うと思い直したリドルは一つ深呼吸すると彼女への思いを口にした。


「好きな人と一緒にいる時はいつでも幸せを感じるものだと思っていますから」


「好きな人って…私の事?」


「もちろん。僕が好きなのはマリエラさんだけです」


 その一言でマリエラは顔が一瞬にして熱く感じ、動悸も自覚するほど激しくなっていた。リドルが告白したその勢いに後押しされた気持ちになって後に続いて口を開いた。


「私…好きなあなたと一緒にこの景色を見たいって思ってた…」


(好きっていうだけで何でこんなに時間がかかったのかなぁ…やっと好きな人に好きって言えた自分を褒めてあげたい…)


 マリエラはさすがに言った後は恥ずかしさでリドルを正視できずに俯くと、抱き寄せられた。


「僕の傍にずっと、ずっといて下さい」


 リドルに言われたその言葉に


「はい」


 と答えるだけで精一杯のマリエラは幸福感に酔いしれていた。それからどれだけの時間が流れたのか分からないまま、ふとリドルが口を開いた。


「そろそろ町に戻りませんか?こんなところを知ってる誰かに見られたら…」


「そうね。行きましょうか」


 2人は町に戻って夕食を摂る時間までウインドウショッピングをして時間を潰し、比較的空いている店で食事をして出る頃には外で食事をしてくると言って出てきたマリエラにとっては丁度いい時間帯だった。


「家まで送ります。いくら歩き慣れた道でも女性の夜の一人歩きは危ないですから」


「ありがとう。リドルがいてくれたら安心して帰られるわ」


 店が軒並み並ぶ店の中や歩く道は喧騒が止まない。夜は昼間活動している人間を変えてしまう魅了する何かがあるのではないかと、仕事を終えて帰るいつもの道の近くを通るマリエラは思えてならなかった。

 その喧騒とは縁遠いひっそりとした住宅街を歩き続け、マリエラの家の前に辿り着いた。


「ここが私の家よ。今日は一日付き合ってくれてありがとう」


「僕の方こそ今日はいい一日が過ごせてよかったです。ありがとうございます。それから…」


 マリエラの肩を抱いて、耳元でそっと呟く。


「おやすみなさい。マリエラさん」


 離れて家路へと踵を返すリドルにマリエラは急いで声をかけた。


「ちょっと待って」


 呼び止められて振り返ったリドルはマリエラの少し悲しげな顔を見て少し驚く。


「少し屈んでくれる?」


「こう、ですか?」


 屈んだリドルにマリエラは軽く口づけをすると、照れたように離れる。


「おやすみなさい。気をつけて帰ってね」


 そう告げると足早に門を開けて家の敷地へと入って行った。

 呆然と立ち尽くすリドルは少しの間頭の中が真っ白になって何も考えられなかったが、ふと我に返る。


(マリエラさんの唇、柔らかかったなぁ……じゃなくてっ!こういう事って僕が率先してするべきだったはずなんだけどまだ早すぎると思ってしなかったらマリエラさんがこんなに積極的だなんて思わなかったし…でも今夜眠れそうにないかも)


 一方その頃のマリエラは家の敷地に入ったものの、家の前でリドルにした事に対する後悔と嬉しさとが入り混じる気持ちにどうしようもなく、入口のドアの前でウロウロしていた。


(とうとうやっちゃった…嬉しいんだけど、いきなりあんな事して怒ってないかな…あっ!次のデートの約束するの忘れてた…でも明日から仕事なのに今夜眠れなくなったらどうしよう)


 それぞれがそんな思いを抱いているうちに夜は更けていった。


 













 




 





 


 



 


 


 




 



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