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レインの微笑

今月中に何とかこの小説を2回も更新できました!

嬉しいです!楽しでくださいね!ただし、所々、多少酷い描写が見られます。

正義は勝つので、そこを汲み取ってくださいね。

悪を倒すのが正義の務めで使命ですから。宜しくお願い致します。

 T公園のベンチで若い男が横になって寝ていた。


 肩まである髪が顔に掛かっていた。男は長身なのだろう、膝を曲げて足を組んでいた。


 だらしなく左腕をベンチからはみ出し、朝日が眩しいためか右手でこめかみを押さえて瞼を覆っていた。


 男は喉か渇いていた。何度も唇を舐めて唾を飲み込んだが体を起こす気は全くなかった。抗うようにして眠った姿勢を保っていた。


 お腹の音がした。男は空腹を誤魔化すために夢を操つる事にした。この場は自分が満腹になった状態の想像をして凌ぐしかない。


 『3日もまともに食べていないと、流石にしんどいよな』と男は思いながら夢の中に逃げ込んでいく。

 男は着古した白い長袖のシャツと黒いジーンズを穿いていた。


 男は思い出した。ハッカ味のアメ玉がシャツの胸ポケットに2個あった。

 ポケットをまさぐって取り出すと、暑さのため溶けかかったアメ玉が指に引っ付いた。

 男は手を振って取ろうとしたら、アメ玉が真上に飛んでいった。

 『思考能力の低下。ブドウ糖が足りない』と男は薄ら笑いを浮かべて思った。


 顔に影が覆ったので男は目を開けた。


 「おい!コラ!今、あめ玉が飛んできたが、投げたのはお前か?」と3人組の男のうち、赤毛に染めた男がベンチで寝ていた男に言った。


 「だったらなんだ?」と男は言ってベンチから体を起こすとアクビをした。


 「俺の左目に当たったんだよ。何も見えねえんだ」と赤い髪の男が右目を閉じながら話した。


 「ふざけるな。左目で俺を見ているだろうよ。消えてくれよ」とベンチの男は手で払う仕草を二度した。


 「オメェの聞き間違いだろうが。右目だよ、右目」と赤毛の隣にいた、紫のシャツを着た男はヨダレを足らしながら言った。


 紫のシャツの男は目の下のクマが異様に濃かった。


 「薬物中毒か?」とベンチの男は言って、蔑むような目で紫のシャツの男を見据えていた。


 「あー!?うるせえいよ」と紫のシャツを着た男はベンチを蹴りあげた。


 「やめとけ」とベンチの男は首を回してヨレヨレの自分の白いシャツを叩いてホコリを振り払う仕草をした。『消え失せろ』というシグナルだった。


 「なめとんのか!?」と太った男が臭い息を吐きながら言うと、ベンチの男に唾を吐いてジーンズの後ろポケットにある黒い財布を抜き取った。

 太った男は財布の札束を数えて興奮をし出した。


 「おいおい!? マジなのかよう!! 180万円も金があるんじゃないかよう! 免許証はゴールドだぜ! なかなかだな。悪いがどっちも戴くぜ。慰謝料としてな。全部、お前が悪いんだからな。まだ24歳か。沢木怜音(サワキレイン)さんよ。可哀想になあ」と太った男は油汗の薄汚い顔をテカらせて、品のない笑い声を挙げて言った。


 「返せ。それは俺の妹に必要な金なんだ。明後日の午後に手術を受けるんだ」と怜音は冷たい静かな口調で言った。


 「こいつをシメようぜ」と太った男は仲間の二人に言った。


 紫のシャツの男が最初に怜音の脇腹を殴った。怜音は苦痛に歪んだ顔をしてベンチから転げ落ちた。


 赤毛の男が倒れた怜音の顔を思いきり蹴った。

 怜音は顔を抑えて苦悶の表情を浮かべた。

 太った男は怜音の財布を調べていた。

 中から怜音の妹の写真が出てきた。


 「すげぇ、美人だぜ。この女も戴くからな」と太った男は妹の写真に何度もキスをした後に舐め続けた。


 赤毛が怜音の胸元を殴り続けて、紫のシャツの男は怜音の顔を殴り続けた。

 太った男は怜音のお金を何度も数えて、満足そうな笑みを浮かべていた。


 『朝の5時半に、なかなかの出来事に遭遇したな』と怜音は思いながら殴られていた。


 怜音は赤毛の男に、着ていた白いシャツを剥ぎ取られて上半身が裸になった。


 怜音の左肩には赤いハートのマークの形に似た5センチ位の生まれつきのアザがあった。


 太った男はアザを目にした途端、体の動きを止めて顔が一気に青ざめてしまった。


 「や、や、やめろ!」と太った男は震えた声を出して仲間に命令をした。


 振り返った仲間の二人は不思議な物でも見る眼差しで太った男を窺った。


 怜音はゆっくりと立ち上がると、地面に落ちて汚れた白い長袖のシャツを拾いあげてホコリと汚れを叩き落とし、シャツを真新しいシャツのように丁寧に着こんだ。


 「どうしたんだ?」と赤毛の男が太った男に苛立って言い放った。


 紫のシャツの男が命令を無視して怜音の腹を蹴ろうとした時だった。


 ゆっくりと広げていく怜音の両腕は、翼を綺麗に見せるための、天使の優雅で誘惑的な振舞いに見えた。 白い朝の光を浴びた怜音は血まみれの顔を天に向けていた。左目から一筋の涙が血と混じって流れた後、怜音は微笑んだ。


 顔の傷から血が流れ落ちて顎に一旦止まると雫のように滴り落ちていった。

 血は点滴のように規則正しい落ち方をしていた。


 蹴られて青くなった怜音の胸元のアザが濃くなったように見えた。

 怜音は両腕を広げたまま3人の男を見据えていた。

 怜音の血まみれの笑顔に恐怖を感じた3人の男たちは顔を引き吊らせていた。

 3人の男たちは寒気が体を貫き、開いた口が塞がらないで言葉を出せずに突っ立っていた。


 「動けないように、締め挙げろ」と太った男は二人に命令をすると、怜音の財布を盗んだまま後ろへ走り出した。太りすぎのせいか足をヨタらせて走った。


 紫のシャツの男が助走をして怜音に飛び掛かった。

 怜音は微動だにしないで小さく「ジギヴズ」と囁くと紫のシャツの男は足元から地面に沈んでいった。


 赤毛の男は、以前、底無し沼に沈む子供の映画をテレビで観ていた。

 『あれ、これってさあ、映画にソックリな沈み方だよなあ』と思いながら黙ってその光景を眺めていた。


 「た、助けてくれよ!!」と紫のシャツの男が叫び声を挙げたので、赤毛は我に返り、慌てて手を引っ張ったが、既にどうすることも出来なかった。紫のシャツの男は手をバタつかせて地面に沈んで消えた。


 赤毛は走って逃げようとしたが、体が宙に浮くと、そのまま公園の砂場にあるコンクリートの壁に強く叩きつけられた。砂場に横たわったまま身動きしないでいると、砂の中に体が早く沈んでいくのが分かった。 慌てて立ち上がろうとするが体が動かない。


 オツムの弱い赤毛の男は怜音に対して『自分はアイツに凄い悪いことをしたのかもしれないよな』と思いながら砂の中に沈んで消えていった。


 太った男は公園を出て、荒い呼吸をしながら逃げていた。


 かなりの距離は走っただろうと太った男は思っていた。大きな通りのある所までは来れた。


 『今は遠くに逃げるしかない。これだけの金があれば十分に楽しめるぜ。ボスには黙っておこう』と太った男は盗んだ金を独り占めをする事を考えた。



 太った男は時計を見た。朝早くの電車が出る時間帯になっていたので、心から安堵のため息をした。


 太った男は怜音の財布を開けて、1万円を取り出すと止まっていたタクシーに乗り込んで「F駅まで」と運転手に告げた。


 太った男は汗が吹き出て止まらないので、窓を開けて外の景色を眺めていた。


 しばらくタクシーが走っていると、太った男は交差点の手前で血まみれの男が逆方向に歩いていく姿を目にしたので、慌てて体を横にして隠れた。


 「お客さん、大丈夫ですか?どうしました?具合が悪くなったんですか?タクシーを止めますね」と言って運転手はタクシーを止めてから後部座席を見ると、太った男は慌てふためて、「早く早く! タクシーを出して」と小声で言った。


 「わかりましたけどね、何かあったら言ってくださいよ。タクシーの中では吐かないでくださいよ」と運転手は言って嫌な顔をすると不安げなままタクシーを走らせた。


 F駅につくと太った男は運転手に1万円を出して、「釣りはいらない」と言ってタクシーから降車した。

 F駅は仕事へ向かう人で混雑していた。


 太った男は急いでトイレに駆け込むと洗面所で顔を洗い、蛇口に口をつけて水を飲んだ。飲んでも飲んでも喉の渇きが無くならないような気がしてきて胸焼けがした。


 太った男は一息をついた後にトイレのドアを開けて便器に腰を掛けた。財布の中の180万円近くの札束を確認して顔が綻んだ。ヨダレが止まらないでいた。太った男はニヤけながら呼吸を整えて用を足した。


 『あいつが噂の男だったのか。マジでヤバかった。【ハートの男】には気をつけろと、仲間内やボス、他の組織の連中の間でも警戒されていたからな。


 うちらみたいな小さな盗賊団の組織でも嫌でも噂は耳に入ってくる。詳しくは分からんが、なんでも、悪とつくものを次から次へと片っ端から消していくんだとか。


 警察も一目置いた存在となれば、相当に厄介な奴には間違いないな。たぶん、あいつらは、無事ではないだろう。ボスに連絡を入れた方が良いが、金のことは黙っていよう…』と太った男が考えていた時だった。


 トイレの入り口の扉が開く音がした。


 『誰か来たな。そろそろ行くか。どこか知らない街へ行くのも悪くないな』と太った男は考えながら腰を上げて、トイレのドアを静かに開けた。


 沢木怜音が壁を向いたまま小便をしていた。


 太った男は全身の血の気が引いた。


 早鐘の動悸と吐き気が一挙に押し寄せてきた。


 怜音は前を向いたまま黙って小便をしていた。白いシャツは真っ赤な血で染まっていた。


 『しめた! 全然、気付いてはいない。今しかないな』と太った男は忍び足で怜音を見つめたままトイレの入り口の扉まで足音を忍ばせて歩いていった。


 背中に汗が吹き出てきたのでシャツが気持ち悪く感じていた。


 手のひらが汗でいっぱいなので、扉のノブが滑って回らず開けられないかもと少し不安になってきた。


 太った男は来た時よりも喉が渇ききっていた。

 怜音の黒い財布だけが安らぎを与えてくれていた。 財布を握り締めた手は充血していた。


 太った男はトイレの入り口の扉を開けたまま怜音の姿を確認すると、怜音は前を向いたままの姿勢で小便をしていた。





つづく

ありがとうございました♪

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