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苦悩

 ジャン・ジェイラヴは慎慈を見つめていた。


 「状況を打破するには、古い因習や価値観を一新しなければならない。魔法は奇跡の手段や力を見せ付けたり誇示したりするものではない。

 確かにあのサラリーマンには少しやり過ぎたと反省はしているが、慎慈を納得させるためには必要な手段だったんだ。


 私は『ディリラバ』だ。ディリラバとは魔法の防御や守護や医療専門の魔法。私はその専門の最高位の魔法使いだ。

もう1人いたが、先日、殺されてしまった。

この分野の魔法で残るのは私1人のみ。だから命を狙われているのだ。 本来ならば最高位の私が出向く事は許されなかったが、これからという未来ある若い魔法使いが無駄に命を落としてはならない。私が自ら志願して現時世に来たのだ。


 慎慈がこれから行くであろう魔法学校で学ぶために必要な基礎は4つの種類に分かれている」


 「僕が魔法学校に行くんですか?」と僕は畳み掛けるようにジャンに言った。

 「そうだ。いや、わからない。本来は3年間の修業が必要だが、慎慈の場合、短期集中コースの魔法術を学ぶ事になるかと思う。ただし慎慈の能力が目覚めれば行く必要はないかもしれない。侵略戦争が4年も続いていて我が国が危うい。時間がないのだよ…。


 慎慈の能力が早く目覚めてくれたら良いのだが…。

 話の続きだ。魔法には攻撃力、防御力、医療、未知なる潜在能力系がある。


 攻撃や防御や医療についての魔法は非常に発展していて、常に進化をしているが、未知なる力についての分野は未だに未解明に属していて、長年、この事に力を注いでいる研究家の頭を大いに悩ませてきた。


 正直に言うと分からないことだらけなんだ。


 シンプルな技術というのものがね。複雑な技法を会得するのは意外に容易い。シンプルな技術はパワーの度合いが桁外れだ。一筋の情熱こそがシンプルだという事は知っている。

未知なる力の実践が全く伴っていないのだよ。 もう一度、原点に戻って純粋な魔法の情熱を取り戻さねばならない段階にいるのだ。


 その失われたシンプルな魔法、いや、能力が今こそ必要なんだ。慎慈、慎慈にはその能力が秘められているんだよ」とジャンは悲痛な眼差しを宿しながら懸命に話をした。



 僕は話を聞いた上で、彼の立場は十分に理解できたが、自分にそのような能力があるとは到底信じられないでいた。


 なぜ、ジャンはそれほど僕に固執するのかが未だに分からないでいた。


 僕は何気なく目をそらして、横断歩道の向かい側のビルに設置された街頭テレビに写るジョージ・ウィングの顔を久しぶりに見た。 忘れかけていた記憶が一気に溢れ、脳裏に甦り愕然としてしまった。それは幼い頃の僕の記憶だった。



僕は思い出した。



 忘れかけていた記憶が一気に溢れ、脳裏に甦り愕然としてしまった。それは幼い頃の僕の記憶だった。



 子供の頃、念じたりすると物を動かせたり相手の考えを読めたりしていた。5歳くらいの時がピークで、思い出す限り凄まじい能力だったと思う。


 両親の目の前で念動を披露した時、優しい顔で見ていた両親が、一瞬で恐怖にひきつる顔に変わった。


 我が子に恐れを抱く顔色だった。


 世間では超能力ブームが沸いていてタイミングよくジョージ・ウィングが超能力者という触れ込みでイギリスから来日していた。


 彼が火をつけた。超能力者として老若男女、爆発的な人気を誇っていた。メディアが連日過熱した報道を繰り広げた。


 ジョージ・ウィングは右のこめかみ人指し指を当て眉間にシワを寄せるスタイルで相手の考えを読み、未来を予知をするという超能力を披露した。


 他にはスプーンを曲げたりはしないで、テーブルに置いたお皿を割るということを見せていた。


 この2つの力、早い話、後に全て明かされてパッシングされるのだが、見たことの無いリアルな雰囲気を宿した手品、マジックに日本中が熱狂していた。

 僕はジョージ・ウイングが披露したマジックを、トリックなしで出来ていたのだった。両親が驚くのも無理はない。




 「僕は俳優です。来週から仕事をしなければならない。たくさんの人に迷惑がかかるので、現実的に考えても無理な話だ。ジャンさん、申し訳ないが答えは、行くことは出来ない」


 「運命からは逃れられない」とジャンは悲しげな微笑を見せながら言った。


 「貴方が勝手に持ち込んできた災難を運命だからという言葉で僕を惑わすのは理解に苦しむ。君たちの問題は君達自身の力で乗り越えなければ意味がない。

 僕は今、必死なんだ。やっと掴んだチャンスを逃すことは出来ない」


 「そうか…残念だ」とジャン・ジェイラヴは立ち上がって遠くを見つめた後、ため息を1つ吐いて一瞬で姿を消えてしまった。




つづく

ありがとうございます。

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