渇いた音
今日も頑張って更新出来ました。読みに来てくれて、どうもありがとう(照)
川谷亮三郎は両手を合わせると天井を見上げて祈り始めた。
「偉大なるグザリフ様に栄光の光を! 聖なる使者ムデグパ様に大いなる力を与えたまえ!」と川谷は突然絶叫した。
川谷は自分の声に興奮を覚えたのか、恍惚とした顔を浮かべて喜びに身を委ねると、よだれを途切れることなく垂らし出した。
曇りのない狂気に満ちた目、焦点が定まらないまま宙をさ迷ったかと思うと、目の光が消え視線を止めて夢中で一点を見つめた。心ここにあらず、自分の世界に酔っているよう眼差しだった。
「お前ら、手を上げて並んでいろよ。いいな? 俺を信じろよ。分かったな」と川谷は、慎二と銀次を含めた人質の数14人に向かって大声で怒鳴った。
慎二と銀次は両手を挙げながらレジの前にいる人質の元に行くと、そのまま静かに端の方で並んだ。
『慎二、警察官が踏み込む前に何とかしなくちゃいけない。どうする?』と銀次は慎二にテレパシーを送ってみた。
『タイミングを見ているからもう少し待て。川谷に聞きたいことがある』と慎二は、わざと落胆した表情を作って銀次にテレパシーを送り返した。
『慎二、せめてタイムリミットを教えて欲しい』
『15分以内だ』
『分かった』銀次は咳払いをして鼻を啜った。
「さっきから2人で何を目を合わせてイチャついているんだ?」と川谷は慎二と銀次に交互に銃を向けながら話した。
「ひょっとしたら、あの有名な俳優さん、芸能人で人気者の川谷亮三郎さんなのかなぁ? なんて2人して考えていたんですよ。川谷さん…、川谷亮三郎さんで間違いないですよね?」慎二は川谷の自尊心を満たすような甘い言葉のエサをあえて投げ掛けてみた。
慎二は落ちぶれた芸能人であっても、気持ちをくすぐらせる『名声』という名の果実に食いつくのを、しっかりと確認するしか突破口はないだろうと判断していた。川谷の人間性の変わりようについて、とやかく言うつもりも考える必要もない。
ピカソは、『名声は残酷な野獣と同じだ』と言っていたのを思い出していた。
「今更だけど、そうかもしれないね」と川谷は言葉を濁して意味あり気な返事をした。
「川谷さん、こんなことをしてどうするの?」と銀次は悪さをした子供に対して優しく諭すように話し掛けた。
「世界を変えるためさ。艷夢が燃えているのが幸運の知らせなんだ。今まで俺の話を小馬鹿にして誰も聞かなかった。始めから、こうすれば良かったよ。久々にマスコミが来ている」川谷は、また何処か遠くに行ってしまったような顔をして話していた。
「その考えは何かしらの切っ掛けがあったのか?」と慎二は少しずつ探りながら話した。
「それを話してどうなるんだ? 納得や理解や賛同を得られたのなら、貴様もこの偉大な計画に参加する意思が生まれるのかな?」川谷は本心を悟られないためにバリゲードを張り巡らせていた。
慎二は川谷の考えを今回の事件の証拠として人質に聞かせる目的があった。
犯罪者の言い分というものは、正義の前では理解する価値もないし意味がないものだ。
ましてや、平和に暮らす世間には、まかり通らないし絶対に通じない。裁きをここでするのではなく、川谷を不可解な行動に駆り立てた発生源を知る必要性があった。
「さあ、それは、どうかな? 君の情熱か信念なのかは判らないが、僕に説き伏せるだけの説得力があれば、多少なりとも気持ちに変化が生まれる可能性があるかもしれないよ」と慎二は肩を竦めながら苦笑いをして話した。
「俺を含めてだが、弱い者に強さを与えるためには力が必要になるんだ。蔑まされて、馬鹿にされて、憎まれてきた連中は、社会の御荷物、ゴミだと昔から言われ続けてきた。力で訴えるしかない。『攻撃は最大の防御なり』と言うことなのさ。まあ、在り来たりかもしれないがね。破壊しなければならないんだ。苦しいからね。こんなところでどうかな?」と川谷は笑いながら話した。
「川谷さん、どうも話が見えてこない。貴方は本当に弱いのか? 僕が見たところだと、川谷さんが自ら弱さを望んでいる節があるような気がするんだ。それに川谷さんの言う力というものは、暴力を意味していて、暴力を肯定するという考え方じゃないのか?」と慎二は脇道にそれずに、単刀直入な言い方をした。
「暴力かは分からない。たまたま力が暴力的に見えるだけかもしれない。俺は昔から弱い意思に振り回されて導かれているのさ。フフフフ。悪さをしてもだ、いつも最後は許されると思いながら人と関わってきたからね。皆、甘いね。同情してくれるし、俺の言い成りになってくれるんだよ」川谷は活躍していた時期が甦ったような雰囲気になっていた。
川谷は気持ちの中で、過去の栄光がオーバーラップしているようだった。
「なるほど。弱さを振り翳すという訳なんだね。暴力的な振る舞いは、幼児性な性格によるものだと解釈した方が話は早いようだ」と銀次か口を挟んだ。
「なんだと!?」川谷は立ち上がると銀次の胸元に銃を突き付けた。
銀次の隣で震えている若い女性の唾を飲み込む音が大きく聞こえた。
「ガキ扱いするとは、いい度胸をしているな」と川谷は銀次の顎を銃で殴り付けた。銀次は腕を上げたまま後ろによろめいた。
「人質に手を出すのは違反だよ。こんな状況に置かれているから始めからルールなんてないけどね」と銀次は顎を擦ろうとした。
「誰が腕を降ろして良いと言ったんだ? そのまま上げてろ!」と川谷は更に銀次の肩を殴り付けた。
銀次は痛みに堪えて川谷を睨み付けた。
「偽善者の屁理屈は何時の時代も変わらない。川谷さん、あんたは精神的な未熟さが原因だと自分で罪を自白している」と慎二は吐き捨てるように怒鳴った。
「な、なんだと!?」川谷は初めて狼狽えた。
「お願いですから、た…助けてください。仕事に遅れるし、女房が妊娠していて、もうすぐ赤ちゃんが産まれるんですよ」と20代後半くらいの若いサラリーマンが額に汗をかいて、セールスで鍛えた笑顔を見せて話した。
「ガキか。面倒なガキは人生の足枷になるぜ。お前の女房に何か言い残す言葉はあるか?」と川谷は若いサラリーマンの前に立って言った。サラリーマンは緊張で体が震えていた。先ほど見せた笑顔は嘘のように消えてしまった。
「ちょ、ちょっと勘弁してくださいよ。結婚したばかりなんですから」とサラリーマンは何とかして川谷の気持ちを変えさせようと必死になっていた。
「川谷さんにも綺麗な奥さんや可愛い子供がいるじゃないですか?」と慎二は穏やかに話し掛けて川谷の気をそらそうとした。
「……。そんな話は聞きたくない」川谷は憎々しい顔を向けて慎二に話した。
「本当に川谷さんの子供が悲しむだけですよ。川谷さんは子供に好かれやすいんだから」慎二は情を見せつつ話続けた。
「うるさい!!」川谷は慎二に向けて発砲した。銃は至近距離から発射したが、当たらなかった。
「クソ!!」川谷は、もう一度銃を撃ったが慎二にカスリもしなかったので、顔色を変え黙ってしまった。
「川谷さん、これは貴方が自ら起こした行動か、考えなんですか?」と慎二は話の核心に迫る。
「何が言いたいんだ?」
「かつて俳優をしていた貴方の事だ。シナリオがあれば役に入りやすい。役に取り憑かれて演じるタイプの俳優は日常生活にも支障をきたす。役に成りきるために、自分に暗示を掛ける事も多い。貴方は誰かに心酔いしているだろう? 黒幕がいるはずた」と慎二は躊躇いなく話の的を絞って進めていった。
「何の事だ?」『川谷はシラを切るつもりだが、絶対にそうはさせない』と慎二は思っていた。
「あんたが誰かに命令を受けている場合を考慮して聞いているだけだ」と銀次が唇から血を流し、慎二をフォローして言った。
「グザリフ様やムデグパ様のような偉大な導師は人生を変える、とだけしか言えないね」と川谷は急激な考えの変化で白状した。黒幕を早く言いたくて仕方がなかった、とも思えた。
川谷は瞳を爛々と輝かせて、喜びに満ちた笑顔を浮かべると、心臓を強く叩き始めた。肉体を叩く音ほど耳を塞ぎたくなるものはない。
「川谷さん、どうか少しだけで良いから落ち着いて欲しい。グザリフ様? ムデグパ様? という方々は偉大なのか?」慎二は怒りの眼差しを川谷に向けないように気をつけながら話した
「悪魔を越えた偉大な存在だ。彼らを信じたら君たちも救われるぞ。どうた? 信じてみるか?」と川谷は慎二たちの左に並んでいる人質たちに銃を突き付けて、順番に独りずつ、信者になるように迫った。
「はい。信じます」
「私も信じます」
「もちろん信じますよ」
「本当なら信じます」
「救われたいので信じる」
「助けてくれるなら」
「そうですね、信じます」
「信じます…助けて」
「信じます。…、グスン」
川谷は白い歯を見せた満足そうな笑顔を銀次に浮かべていた。
「次はお前だ。可愛そうに血が出ているな。お前はどうた? 信じるか?」川谷は銀次の顎に銃を当てながら言った。
「クソくらえ!!」銀次は口の中に溜まった血を川谷の顔に吐き飛ばした。
「キャー!」銀次の隣にいた女性が思わず叫んだ。
「お前は本当に生意気な奴だよ」川谷は腕で顔に掛かった血を拭うと、銀次の赤く腫れ上がった顎を何度も強く銃で殴った。
銀次は踏み留まりながら耐えていた。銀次の目に殺気が宿っていた。
「次はこいつよりも、もっと生意気な貴様だ。どうだ? 信じるか?」と川谷は慎二の頭に銃を突き付けて迫ってきた。
人質は皆、青ざめた顔をして泣いていた。
銀次は慎二の考えを読もうとしていたのだが、慎二の心には無音のような静けさが広がっていて、何も判らないでいた。
「信じるか? お前は、かなり頭が切れる男だ。どうだ? 俺の仲間に入らないか?」川谷は慎二の頭に強く銃を突き付けていたので、慎二は痛みから眉間に皺を寄せていた。
「残念ながら信じない」と慎二は哀しそうな顔をして微笑んでいた。
「惜しいな」と川谷は引き金を引いた。
カチッ
カチッ
カチッ
カチッ
カチッ
カチッ
カチッ
カチッ
カチッ
カチッ
川谷は何度も引き金を引いたが弾は出なかった。
人質はあまりにも信じられない光景を目撃したので驚愕していた。
「なぜだ? クソッ。弾切れの筈はない! クソックソッ」と川谷は絶叫しまくっていた。
「あと、たぶんだけども5分かな?」と銀次は口を拭い続けながら割り込むように慎二に言った。
「グザリフとムデグパという奴はどこに潜んでいるんだ?」慎二は川谷を真っ正面から睨み付けた。
「言えない。世界を変えようとする偉大な導師は命を掛けて守る」
「川谷、あんたは洗脳されている。場所を言え」今度は慎二が立場を変えて、川谷に迫っていく。
「俺は終わりだ」
「言え」
「見られているかもしれないから言えない。俺は終わりなんだ」川谷は僅かに左の窓を見た。
慎二は、その一瞬の動作を見逃さなかった。
視線を移した先がグザリフとムデグパがいる場所だと察した。
慎二は、直ぐ様、川谷の意識にダイブをした。
『洞窟』というイメージが浮かんできた。
「なるほど。分かった」と慎二は頷くと川谷の脚を地面にめり込ませて身動きを取れなくした。川谷は驚いて脚を見ていた。慎二は銃を浮かせて天井に貼り付けた。
銀次は指を鳴らすと人質全員を眠らせてしまった。
銀次は顎を擦りながら慎二の傍に来て「行こう」と促すとトイレに向かった。
「貴様らは何なんだ? 言え言え言え言え言え」と川谷が脚を動かしながら叫び続けていた。
慎二は川谷の耳元で何かを囁くと川谷は涙を流しながら眠ってしまった。
「銀次、行くぞ」
「了解」
二人はトイレに入り、すぐに瞬間移動をして消えてしまった。天井に貼り付けていた銀色の銃が床に落ちて渇いた音を響かせた。
つづく
ありがとうございました♪また宜しくお願い致します!!




