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オリジナル

レイン。彼はただ者ではない。

 レインは病院の9階にある待合室にいた。待合室にはレイン以外は誰もいなかった。


 時刻は午後10時を回ったところだった。レインは苦痛のせいだろうか、夜景が味気なく見えていた。綺麗だとか美しいと思う感情が全く消えていた。緊迫した状態だと世界は白黒に見えてしまう。悲しいけれどこれが現実だった。愛する人が辛い立場にいたら世界は輝きを失うのだ。


 ジュリアの腰の手術は大変難しい手術で、執刀する担当医によれば、長い時間が掛かるとの事だった。


 予定では8時間を目安に手術を終わらせたいと話していたのだが、既に手術時間は14時間も経過していた。レインはこんなに不安で苦しい気持ちになったのは初めてのことだった。


 待合室は恐ろしいほど静かで心細い場所だった。

 クーラーの音がやけに耳障りだった。不快な音が止む事なく持続していて、聞いていると苛立ちが増していった。


 レインは誰かに見られているような気配を感じていたり、闇に襲われそうな強い孤独感に陥っているために、突飛で不自然な行動をしかねない状況にあった。


 例えば、突然、歌ってみたり、独り言を言ってみたり。病院内をうろつき回ったり。見知らぬ方が入院する病室に顔を出して励ましてみたり。


 待合室は灯りが薄暗くて不吉な場所に見えた。

 テレビが置いてあるのだが《設置している小型のテレビは故障のために使用できません》と画面に貼り紙があった。


 時間だけが無情に過ぎていく。レインは窓辺に寄り掛かり空を見上げた。

 月明かりに照らされた街並みは穏やかで平和に見えていた。


 レインはやりきれない気持ちを味わっていた。

 レインはジュリアの事が心配でならなかった。たった一人の肉親で可愛い大切な妹だ。妹のためなら命さえ惜しくはなかった。


 レインが不安定なのはジュリアの心配からくるものだった。

 ジュリアを治してあげたい気持ちはあるし、代われるものなら喜んで代わりたいと思っていた。

 さすがの魔法使いと云えども、命に対しての魔法は限られている。健康を与えたり、障害を治したり、永遠の命を授けたり、死んだ者を生き返らせたり等は不可能な話だった。


 魔法で可能なのは、軽い傷から重傷までの重い傷を治したり、疲れを取ったりする癒しの魔法などは、たくさん存在していた。


 魔法界の中でも古くからの伝説や神話によると『命を甦らせる事が出来る魔法使いもいた』という言い伝えも、確かに、それなりに存在はする。存在はするのだが、今となっては確証はないし、文献も石板も存在はしていない。


 魔女たちが細々と口伝や伝承として伝え続けてきたという事実はあるし認めてもいる。

 現在においても、長老たちの中には、『命を甦らせる魔法使いが本当にいた』と信じている方が何人かいるのも知っている。


 永遠の命、再生、復活は魔法界においては、難しい立ち位置にあった。秘術の部類になるし極一部のトップしか知らない事なのかもしれないし、踏み込んではならない領域なのかもしれない。


 レインは「復活の魔法。やれやれ」と呟くと首を横に振って微笑んだ。


 テーブルに置いてある飲み掛けのペットボトルが小刻みに震えている。


 振動がしてきた。


 「なんだ? 地震か?」レインは窓を開けて外の様子を見てみた。


 ここから2キロ先の地面から火の柱が一気に噴き出していた。高さ30メートルはあろうか。


 火球が空から降ってきてビルを破壊していた。


 火球が次々と空から降ってきて、ビルや道路、コンビニや車を破壊していく。

 遠くに見える民家にも火球が落ちていて、火災が至る所で発生して火の海になっていた。


 レインは窓から地面を見下ろした。人が慌てふためき逃げ惑っていた。叫び声や悲鳴が至る所から聞こえてきた。大体500人近くはいるだろうか。道路には人が一杯で、車道にまで溢れていた。


 『これは、決して空から火球が降ってきているわけではない。《誰か》が火球を落としているんだ』とレインは直感で思っていた。

 レインは暗闇にそびえ立つビル郡の頂上に目を凝らした。


 「一体、誰が、何処のビルから撃っているんだ?」とレインは睨み付けながらビルを見ていた。


 閃光が待合室の窓の外から降り注いできた。倉庫で見た閃光と同じだった。


 固まった影が人影になって見えてくると、閃光が萎んでいった。

 男の姿が朧気ながらにレインの前に現れた。


 「貴様、何者だ?」とレインは鋭い目付きで宙に浮かぶ男に話し掛けた。


 男はそのまま病院の窓から静かに入ると音も立てずに着地した。


 「私はジャン・ジェイラヴだ。御存じかな?」


 「ああ。予々、名前は聞いている。バルドギュラス国の魔法使いで、命を狙われているということも」


 「話は早く済みそうだ」


「俺に話とは? どうやって俺の事を知ったんだ?」


 「レイン、君はデュガムバス国、建国以来、最高の魔法使いと言われている。いや、魔法界においても、歴史上、最強の魔法使いだと誰もが認めている。知らぬはずがなかろう」


 「ゴマすりか?」


 「違う」


 「突然俺の目の前に現れて、『話があるから、聞いてくれ』等と、一方的に言われたら、不信感や疑念を抱くのも、持つのも、腑に落ちないと感じるのも当然の事だろう?」


 「驚かせるような真似をして本当にすまない。ただこれだけは信じて欲しい。レイン、私はずっと君を探していたんだ。君が行方を眩ませてから『人間の世界で暮らしている』と風の噂で耳には届いていた。


 我が国バルドギュラス国はジルアズバ国に侵略されそうなのを、どうにか瀬戸際で食い止めている状況なんだ。それでも、若い魔法使い、魔女や長老も罪の無い一般の魔法人達も殺されている。力を貸してほしいんだ」


 「その話は聞いている」


 「ではもう1つ。この話を聞いてどう思うかを判断して欲しい。どうだ? まだ話を聞いてくれるか?」


 「ああ」

 「ジルアズバ国のボス、《ガルジェイム》が『バルドギュラス国の次は、デュガムバス国を滅ぼす。必ず滅ぼしてみせる。我が国こそ最高の魔法国だ』と連日のように話しているのだ」


 「それは本当か?」


 「事実だ」


 「……。分かった。時間が欲しい。3日だけ待ってくれ」


 「なぜだ?」


 「妹のジュリアが今も手術中なんだ。目覚めた頃には、妹にも事情を説明したい。ところで、俺だけで満足する話なのか? 他に誰かいないのか? 大丈夫なのか?」


 「三杉慎二という名前に心当たりは?」


 「ないね」


 「彼は人間なのだが、とてつもない力を秘めているんだ。ひょっとすると…、レイン、レインよりも力があるかもしれない」


 「ぜひお手合わせ願いたいところだね」


 「レイン、冗談で言っているんじゃない。本当に三杉慎二という男のパワーは凄まじくて、とてつもないとだけは自信を持って断言できるんだ」


 「分かった。他には?」



 「絵莉という名の女の子は?」


 「さあね。知らない」


 「まだ、彼女とは接触が出来ていないが、彼女の祖父とは古い友達なんだ」


 「絵莉という子は魔法使いなのか?」


 「そうだ」


 「話は分かった。ところで、街が燃えている。俺の第2の故郷、艷夢市を痛め付けている奴がいる。俺はそいつを消す」 「ジルアズバ国のスパイか、下っぱの魔法使い崩れの奴だろう。あの高層ビルの屋上に5人いる」


 「ジャン、夜間の戦いは大丈夫なのか?」


 「なんとか」


 「俺は魔法使いだが、残念ながら鳥目でね、夜間の戦いは、かえって被害が拡大して拡がるかもしれないよ」とレインは軽く笑いながら言うと顎を擦った。


 「冗談にしては面白い」とジャン・ジェイラヴは言って、ハニかんだ。


 「あの高層ビルだな。ついて来い」とレインは言うと瞬間移動で消えた。


 「了解」とジャン・ジェイラヴも瞬間移動をして消えた。


 待合室には、冷たい風に揺れるカーテンと、レインとジャン・ジェイラヴの温もりが残っていた。




 高層ビルの屋上には5人の男がいて、両手で火球を作り出しては地上に目掛けて何発も投げていた。


 「燃えろ。ハハハハハ」


 「最高だぜ」


 「憐れな人間どもよ」


 「人間の世界を乗っ取るにはまだ早いが面倒くせ。一気にやっちまおうぜ」


 「逃げまくる奴等を見てみろよ!」


 魔法使いの男5人は面白半分で街を破壊していた。停電が街を覆っていく。交通渋滞、交通麻痺、地面の陥没、火災、我先にと逃げる人々。悪夢の世界が広がっていく。


 「ハハハハ、次は…」と魔法使いの男が1人何かを言い掛けた所で突っ伏して倒れた。男は既に息が途絶えていた。


 「おい、どうしたん…、ギャーッ、痛い」と2人目の魔法使いは泣き叫んだ。男の両腕は無かった。血は一切吹き出ていなかった。


 「どうしたんだ!?」と残り3人の魔法使いが倒れている2人に駆け寄った。

 倒れている2人の瞳は大きく見開いたままで、瞳孔が開いていた。


 「一体何だよ!?」と3人の魔法使いは背中合わせの状態で叫ぶと、空を見上げたり、怯えながら辺りを繰り返し見回していた。


 レインとジャン・ジェイラヴは宙に浮かんでいた。

レインは右手で「ファム」を作り、左手で最近編み出した「ファズディライン」というオリジナルの魔法を作り出した。


 《ジュディアンフ》というエネルギー体で作られたファズディラインはファムよりも20倍は速度が速くて、命中率は98パーセント以上の高い確率。レインの創作能力の高さが窺える魔法だった。


 オリジナルの魔法を生み出せるという事は、いかに魔法使いとして優れているかの証明になる。


 ジャン・ジェイラヴは手を出さずに、レインの魔法を見ることにした。


 レインは3人の魔法使いのうち2人にファズディラインとファムをぶつけた。

 2人とも倒れて動かなくなり、残り1人がやけくそで空に向かって火球を投げまくった。


 レインとジャン・ジェイラヴは屋上に着地をすると下っぱの魔法使いに無言で近寄っていった。


 「近寄るな!てめえらは何もんなんだ?」と魔法使いが、顔中汗だくになって叫ぶと、レインとジャン・ジェイラヴに火球を連射し出した。


 レインは両手で火球を掴むと恐ろしい笑顔を浮かべて火球を握り潰した。


 「クソッ」と魔法使いは怒鳴ると、火球の速度を上げて投げ付けてきた。


 レインは火球を体に受けたがビクともしないで歩みを進めていた。


 「不死身か?」魔法使いは驚愕していた。


 レインはファムを2発、魔法使いの両足に当てた。


 魔法使いは膝をついた。


 「俺の質問には絶対に正直に答えろ」

とレインは怒りを込めて話した。


 「うるさい。覚悟は出来ている」と魔法使いは決心して言ったようで言葉に力が入っていた。


 「誰の命令だ?」


 「言うもんか」


 「ジルアズバ国の頭の悪いバカなボスか?」


 「侮辱は許されんぞ」


 「質問に答えろ」とレインは言って、ファムを2発魔法使いの両腕に向かってぶつけた。


 魔法使いは苦痛で顔面が蒼白になっていて、あめ玉並みの汗を流していた。


 「た、助けてくれ」と魔法使いはジャン・ジェイラヴに救いの眼差しを向けて言った。


 ジャン・ジェイラヴは何も答えずに静かに首を横に振った。


 「ジルアズバ国のイカれたボスの仕業だな」とレインは畳み掛けて言った。


 「そうだ」と魔法使いは観念して言った。


 「命だけは助けてやる。その代わり、おまえのバカなボスに伝えろ。『お前は俺を怒らせた』とな。もう1度だけ言う。『お前は俺を怒らせた』分かったな」レインは哀しい眼差しをしていた。


 「わかった。だがな…」


 「吐き捨てると命を粗末にすることになるぞ」とレインは強い警告を込めて話した。


 「ふん」と下っぱの魔法使いは言うと瞬間移動で消え去った。


 ジャン・ジェイラヴは体が震えていた。


 レインが、これほどまでに強いとは思ってもみなかった。強いとは想像していたが、それ以上だと確信を持った。『だとしたら、三杉慎二の能力はどんなことになるのだろうか?』とジャン・ジェイラヴは武者震いをさせてレインを見つめていた。





つづく

ありがとうございました♪また読んでね♪



(‘ー‘)/~~

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