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切ない男

レインの強さの秘密とは?楽しんでくださいね!

慎慈、絵莉、レイン。

彼らの周りで、今、世界が揺れている。

 レインは怒りに震えていた。川口が住むマンションはワンデイズ・ホテルから5キロ程の距離にあった。


 レインは一流の魔法使いだか頭に血が上りやすく、悪と付くものに対し見境なく敵意を剥き出して、常に攻撃的になっていた。


 以前、敵対する魔法国との争いでは、先陣を切って血の雨を降らせた。


 戦いとなれば、誰よりも真っ先に怒り荒れ狂うレインの容赦しない真意を、誰もが首を捻って分からないでいた。


 敵を壊滅するには好都合の存在で頼もしいのだが、仲間内にも、ある種の恐怖を抱かせてしまう。


 レインにしてみれば『ひた向きに戦っているだけに過ぎない』としても、存在感と威圧感があるために、仲間内でも、たじろいてしまうのだった。


 切ない戦い方をする、レインの胸の内を確かめる術はない。本人が固く口を閉ざしている限りは、誰にも触れることなど出来やしなかった。


 レインは孤独を好む性質で、他の魔法使いとのコミュニケーション不足が原因で、よく誤解を招いた。


 魔法国『デュガムバス』から8ヶ月間も追放されたのもそんな大きな誤解によるものだった。


 今では、お互い(ある仲間の魔法使い)との誤解が溶けて、1年前の春先に円満な和解が成立していた。


 レインがデュガムバス国に無事に戻れる事になり、魔法使いとしても復帰が出来るようになったのだが、レインは、しばらく、現世に留まって『他の世界を自分の目で確かめてみたい』とのことでデュガムバス国には戻らずに、艷夢(あでむ)市という、この街に住み着く事になった。


 艷夢市は人口300万人の大都会だ。住み着く切っ掛けは、妹の樹里愛(ジュリア)が人間に憧れたことが大きい。


 レインはジュリアが人間に憧れる理由が全く分からなかった。


 欲深くて、常に争いがあって、環境も悪化の一途を辿っているような世界に住む人間が不憫でならなかった。生きる権利や愛する権利を放棄しているようにさえ見えた。


 ある日、どこかのお店から「イマジン」という歌が流れてきた。レインは立ち止まって聞き入っていた。

 『こんな素晴らしい歌があるとは知らなかった』とレインは驚愕して愕然となった。歌い手は作詞も作曲もしていた。


 ビートルズというバンドのリーダーらしいというのは分かったが、名前は分からないでいた。


 月日が経ち、偶然、ビートルズのアルバムの中に、「ジュリア」という曲を聞いた時の喜びも忘れ難い。 この曲も同じ歌い手が作ったと、誰かがレインに教えてくれた。


 『これほどまでに、素晴らしい音楽や歌があるならば、この世界も捨てたものじゃないな』とレインは考えを改めた。


 異彩を放つ美が確かにこの世界にはある。


 魔法国、デュガムバス国は、全体的にモノトーンの世界だった。

 レインはどちらかと言えば、人間の持つ美や、鮮やかな色彩の方に強く惹かれて憧れを抱いていた。


 艷夢市は一見、平和に見えた。確かに、温かい市民が多いし争いがほとんどないと言ってもいい。


 だが夜ともなれば、艷夢の雰囲気は一変した。


 何処にでも、それなりに悪は蠢き潜んでいるのだ。

 狭山みたいなクズな輩は腐るほどいるのだ。


 レインは『1度だけでもクリーンになった人間の世界を見たい』と思った。


 『人を支配したり、コントロールするのではなく、気づきや、理解すること、自ら考えて行動できる人間が増えていけば、更に心が豊かになって、進化やステップアップが出来るんじゃないのか?誰かに委ねて、任せて生きるのは、生きることの放棄なんじゃないのか?』と人間を見ていて思っていた。


 レインは微力ながらも、魔法界、魔法国でのルールを違反してでも『人間の力になりたい、助けたい』との思いで、弱者を守るためだけの犯罪撲滅活動をしていた。




――――――――――――



 川口が住む高級マンションの部屋には明かりが点いていた。


 レインは最上階の10階まで飛び上がって 窓をノックした。


 人影が驚いたように動きを止めて、窓を見つめているのが分かった。


 カーテンが勢いよく開いた。部屋の中には、川口らしい男が机に座っていて、中岡を含めた子分が7人、驚いた顔でレインを見つめていた。


 中岡が窓を開けた。


 「貴様も化け物か?」と中岡は、剣幕だけは一丁前にほざいた。


 レインは中岡に手を向けると、中岡は浮かんで、閉じてあるガラス窓に頭から突っ込んだ。

 ガラスは鋭くて耳障りな高音を響かせて割れると、中岡は下に墜落した。


 6人の子分は逃げ惑っていたが、レインは6人とも静止させた。呼吸以外は身動きできないでいる。


 部屋の中に入ると川口が座る机の前に来た。


 「貴様が川口だな?」


 「いや、違いますよ」と川口は自分の身元を否定した。


 動きを止めている子分たちは、一斉に口をパクつかせていた。


 「あの中に川口がいるんですね?」とレインは子分を見ながら、机に座る川口に言った。


「さあ、どうかな?それは私にも分からない」と川口は言ってから煙草に火を付けた。


 レインは小さく息を吹き掛けると、川口の煙草の火は消えた。


 「吸わせてくれてもいいじゃないですか? ここは私の部屋なんですから」


 「人が真剣に話しているんだよ」とレインは穏やかな声で言った。


 「分かりましたよ。良い機会だ。健康のために禁煙をすることにしましょう」と川口は煙草のケースをゴミ箱に投げた。


 「あの中に川口がいるんですね?」とレインは同じ質問を繰り返した。


 「連中に聞いてみたらどうですか?」と川口は薄ら笑いを浮かべながら机の引き出しにある銃に手を伸ばした。


 「分かりました。では、君達に質問だ。この机に座っている男が川口だね?川口だと言うなら頷いてくれるかな?」とレインは子分を蔑むように見ながら聞いた。


 子分達は全員、首を立てに何度も振っていた。


 「わかった」とレインは言って目閉じ、小さく息を吐き続けている。


 「次はマトモになれることを祈って」とレインが静かに言うと、子分達はダイビングするかのような速さで、壁や窓を突き破って下に落ちていった。


 川口は体を震わせながらレインを凝視していた。


 「机の引き出しの銃だけど、こうすることも出来るんだよ」とレインが囁きに似た声を出して言った。

 川口の銃はバナナに変わっていた。川口はバナナを取り出して机の上に出すと自分の目を何度も擦った。


 「狭山は俺から金を奪い取り、60万円もの大金を使い込んだ。もう狭山はこの世にいない。時間がないんだ。川口、お前が狭山の代わりに支払え」とレインは言って、川口の後ろに飾られている絵を指差した。


 「なんのことか分からないですよ。狭山なんて男は知らないし、関係がないんですよ」と川口はバナナの皮を捲りながら言った。


 「額縁の後ろに隠し金庫があるな。番号は1007だ。そこにある9000万円もの大金は盗んだか、騙し取ったものだろう?」とレインは言って指を鳴らすと、絵が赤く燃えあがり、一瞬で灰になった。


 隠し金庫は悪びれることもなく無機質に鈍く輝いていた。


 「こんなことをして、済むと思っているのか?」と川口が頭を掻いて、薄ら笑いを浮かべ、リモコンを手に取りテレビを付けた。


 樹里愛が泣きながら猿ぐつわをされて、目隠しと両手を縄で縛られた状態で、椅子に座らされている映像が映った。


 「樹里愛!」とレインは叫んだ。


 「俺は、貴様と同じような奴を前から雇っていたんだよ。ほら」と川口がリモコンで操作をするとカメラが横に移動し、樹里愛の隣に見覚えのある男がいた。


 「ファルグガス!?」とレインは驚いて画面を見つめていた。


 「その通りだ。ご名答。ファルグガスだ。確か貴様のライバルだろう? ここ最近、この世が妙に騒がしい。金儲けには丁度良い。奴は、魔法国についてや、魔法界の仕来たりについて詳しく教えてくれた」


 「何が目的だ?」


 「この世を変えるチャンスが遂に巡ってきたという事さ。分かるだろう?」


 「今すぐに樹里愛の居場所を教えろ」


 「待て待て、焦るなよ。良い話があるんだ。俺と手を組まないか? 悪い話じゃないだろう? 仲間になれば金は腐るほど貴様にもくれてやる。


今の5倍の給料をやるよ。可愛い妹も無事にお前に返してやるよ。貴様には好条件を提示するよ。どうだい? 興味が出てきたかな? ここではないが、立派な高級マンション、高級車、何人も良い女を用意する」と川口は次から次へと捲し立てた。


 レインは腕を組んで考えていた。部屋の中を歩き回り思案していた。指折り数えたり、宙に何かを書いたり、川口に笑いかけたりしていた。


 「なあ、どうだい? 楽しいことになるぜ」川口は言って笑顔で両手を上げておどけていた。


 「川口、ピカソの絵を燃やしてすまんな。ピカソに悪いことをしたよ」


 「気にするなって」


 「今の話の条件は間違いないんだな?」


 「間違いなく本当さ。お前の能力の高さから、給料はさらに上がるだろうな」


 「そうか…、妹は無事に返してくれるんだな?」



 「仲間に入ればな」



 「話は分かった。妹とファルグガスは何処にいるんだ?」


 「言えないよ。あんたの答えをまず知りたい」


 「そうか、よし、握手」とレインは優しい笑顔を川口に見せて、何度も頷きながら強く握手をした。


 「ぐっ、痛い、離せ、離せよ」と川口は顔を充血させて大声で喚いた。


 レインは無表情で川口を睨んでいた。


 「熱い、熱い、熱い」と川口は白目を剥いて叫んでいた。


 「妹の場所は何処だ?」


 「言わない、仲間に入ればな、言うよ」と川口は、全身、汗まみれで言った。


 「最後だ。場所は?」とレインは川口の手を燃やして言った。


 「誰が言うか!」と川口は右手の骨が見えても口が固かった。


 「山紙埠頭だな」とレインは川口の意識に入り込んで呟いた。握手したのは川口から確実な情報を直接得るためだった。


 川口はひたすら苦笑いを浮かべた。


 「川口、救急車のサイレンがマンションの下から聞こえている。救急隊員に、お騒がせしましたと言って挨拶してこい」とレインは言うと、川口を宙に浮かせて窓の外へ飛ばした。


 レインは手の汚れを払い落とした後、山紙埠頭の倉庫まで瞬間移動をした。





つづく


ありがとうございました!また読んでくださいね!



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