逃亡
続きが閃いたので、一気に書き上げました。楽しんでくださいね!
宜しくお願い致します♪
ではでは!また後でね!
太った男はトイレを出た瞬間に全力で走った。
乗車券を買いに切符売り場まで行くが人が並んで混雑していた。
『並ぶのは危険大だな。遠くへ行くためには、仕方がないか』と太った男は列に並んで、トイレから距離があるとはいえ、トイレの方向を睨むようにして見続けていた。
沢木怜音が自分に迫って来るという無言の恐怖に耐えられそうもないと太った男は悟り、呼吸が激しくなって苦しさが増していた。
太った男は今すぐにでも体を温かいベッドの上で横にしたいと思った。
駅員が太った男の異変を察知して駆け寄って来た。
「お客様、体の具合でも悪いのですか? 顔色が青ざめていますし、大変な量の汗が出ていますよ。今から一緒に医務室に行きましょうか?」と眼鏡を掛けた実直で真面目な青年の駅員は早口で捲し立てた。
「結構だ」と太った男は荒い呼吸の中で返事を返した。
「本当に大丈夫ですか? 無理をなさらない方が身のためですよ。遠慮しなくて良いのですからね」と優しい笑顔を浮かべた駅員は太った男の背中を擦ってあげていた。
「心配はいらん。駅員さんよ、急いでいるんだ。北の方に行きたいんだ」と太った男は電光掲示板を見ながら行き先を適当に選んで言った。
「そうだ、できれば今から北に行くならば、沙秋県か妃森か海道地辺りに行きたいんだ」と太った男は思い付くままに言った。
「急行なら今から40分後の7時10分行きがあります。普通だと30分後にありますよ」と駅員は電光掲示板と持っていた手帳を捲りながら言った。
「分かった。40分後の急行にする。駅員さん、さっきトイレで血まみれの不審な男がいたぞ。警察に連絡をした方がいいぞ。危険な感じの怪しい男だった」と太った男はトイレの方角を指差して言った。
「本当ですか!? 分かりました。ご協力を感謝致します。どうもありがとうございます。体にお気をつけて、旅行を楽しんでくださいね」と駅員は太った男に頭を下げると無線連絡で他の駅員に緊急連絡の情報を迅速に伝えた。
駅員は事務室に向かって右手で帽子を押さえながら駆け出した。
前に並んでいる人が残りあと3人となったので『今、この場を離れずに、トイレ付近の様子を警戒しながら切符を買おう』と太った男は考えていた。
5、6人の駅員が構内にある交番から4人の警察官を引き連れて戻ってきた。
『実に素早い行動だな』と太った男は感心をしながらその動きを楽しんで見ていた。
『沢木怜音の、あの姿だと何かの事件性と考えられて連行されるに違いない。ざまあみろ。クソ野郎め』と太った男はほくそ笑み、怜音の黒い皮の財布を握り締めて弄んでいた。
10分後、駅員と警察官がお互いに話をしながら、首を捻って傾げているのが見えてきた。
駅構内に戻って来ると、そのまま直接、太った男の元へと真っ直ぐ歩いて向かってきた。
『居なかったのか?』と太った男は思った。
「お客様、トイレには誰もいませんでしたよ。本当に見たんですか? 嘘の情報だとお客様に虚偽罪の罪が問われかねませんよ」と警察官が顔色ひとつ変えずに太った男に話した。明らかに疑いの目を向けていた。
「確かにいましたよ。トイレの入り口には防犯カメラがあるはず。確認したらどうですか? 確かにいたんですから」と太った男は悠然とした態度で話した。
「分かりました。今から防犯カメラの映像を確認してみますが、お客様、もし、お時間がありましたら一緒に事務室までの同行を願えますか?」と先程の実直な駅員は丁寧な口調で言った。
「ええ、構いませんよ」と太った男は余裕を見せて笑いながら言った。
事務室へ向かう途中、駅構内のカフェの前に設置されているベンチに見覚えのある顔が目に入ってきた。
太った男は激しく動揺をしていたが、ベンチに座る者の強い視線を浴びつつも目を合わせる事をしないで前を素通りした。
ベンチには紫のシャツを着た男と髪を赤く染めた男が濡れ鼠のような状態で座っていた。
駅員の1人がベンチに行って2人に話し掛けた。
太った男はアイツらが口を割らないかと不安な気持ちになっていた。
太った男は駅員と警察官の後方をゆっくりと歩いていた。
「待ってください。すみませんがトイレに行きたいのですが」と太った男は言うと、お腹を擦ったり押さえたりして顔を歪めた。
「分かりました。できたら早めにお願いしますよ」と警察官は時計を見ながら言った。
警察官と駅員は明らかに苛立だった顔をしていた。
太った男は、お腹を擦りながらトイレに行くと辺りを睨み付けながら素早く扉を開けた。
太った男は背筋を伸ばして、急いでトイレの窓際へと走り、焦りながら窓の鍵を開けると、太っている割には身軽な動きで窓から慌てて逃げ出した。
太った男はF駅の入り口の前に戻ると、自動販売機の横にある火災警報器のボタンを押して、その場を身を屈めるように離れると走って逃げた。
通行人や駅構内は一気に人で込み合ってきた。身動きが出来ずに恐怖を感じる者や大声や怒鳴り声を挙げる人で溢れかえり、辺りは重苦しい喧騒に包まれていた。
消防車のサイレンが近くまで聞こえてきた。
「誰か助けて、足を踏まれて凄く痛い」
「おい、お前。押すな! 危ないじゃないかよ」
「ちきしょう、このままだと仕事に遅れるだろうがよ。まったく。参ったなぁ」
「今ね、7時。えっ、うんうん、遅れると思うわ」
「どこかの馬鹿がイタズラしたんじゃないのか」駅構内の人々は口々に文句を言っていた。
太った男は辺りの様子を見計らってからタクシーに乗ると、F駅から少し離れた場所にある高級ホテル、ワンデイズ・ホテルに向かった。
ワンデイズ・ホテルのスイートルームは1泊50万円もする。太った男はフロントでチェックインの受付を済ますとエレベーターで15階のスイートルームまで案内をされた。
スイートルームに入った太った男は窓辺に寄って見晴らしの良い景色を眺めると、ご満悦な状態になっていった。
ボーイにチップの2万円を手渡すとボーイは笑顔を浮かべて「ありがとうございます! 何なりと申し付けてください」と言って部屋から出ていった。
太った男はベッドに座ると財布の中の札束を数え始めた。
『まだまだ金はある。残り130万円近くもあるんだ。この金を軍資金にしてよ、一気にまとめて、たくさん金を増やしてやるぜ』と心の中で高らかに笑い、冷蔵庫に行って高級なシャンペンを取り出すと栓を抜いて飲み始めた。
太った男は朝早くから飲むシャンペンは格別に美味いはずだと思っていたのだが、味が全くしないことに戸惑った。
『間違ったのかもな?』とシャンペンのラベルを見ると確かに1本20万円はする物だった。
太った男は気に食わなくなりシャンペンの瓶を持って風呂場に行くと瓶を浴槽に叩き付けて割った。粉々に砕けた瓶の破片を眺めながら太った男は蛇口を捻りお湯を出した。
部屋から電話の音が聞こえてきた。
太った男は蛇口から流れる水をボンヤリと見つめて、持っていたシャンペングラスも浴槽に強く投げ付けて割った。
電話の音が耳障りだった。
太った男は目を見開いたままガラスの破片を手に取ると重い足取りで部屋に戻った。
つづく
ありがとうございました♪続きを楽しみに待っていてね!