奇妙な世界
まったくの新しいジャンルに挑戦しました!どうなることやら(汗)本当に心配です!気に入ってくれる方が、少しでもいますように!!ぜひ、よろしくお願いいたします!楽しんでくださいねっ!
僕は街なかで立ち尽くしていた。
もがくような孤独に苦しんでいた。
「やれるだけはやった」と自分に言い聞かせた。
僕は強烈な孤独に心が打ち砕かれてしまい、見るも無惨な姿に変貌していた。鏡で自分の顔を見ると痛みを感じさせるほどの深い悲しみがあった。
苦悩した眼差しは自分自身を見つめ続けた結果であろう、というのは容易に十分に納得ができた。
『孤独は人を強くして魂を蘇らせる』
誰の声かは分からないが、この言葉を聞き終えたところで目が覚めた。
今朝、目覚めた瞬間から確実に妙な現象が起こった。
小さな異変はここ数日にあったのだが特に気にはしてはいなかった。
僕は布団の中にいた。探していたテレビのリモコンが足に触れたので、掛け布団をよけて、体を起こした時に問題が起こった。リモコンが勝手に独りでに動いて手元に移動してきたのだ。
まだ完全に頭が7割以上も寝ている状態なので、僕は『寝ぼけているんだな』と思っていた。
「フフ。ありえないね」と僕は呟き、笑って誤魔化していた。勘違いで済めばそれで良かったのだが……。僕は不安で気づかないフリをしたかった。
僕は立ち上がって今度は枕元にあるスマホを見下ろした。面白半分、冗談半分で手を前に差し出した後に「ここへ来い!」と叫んでみた。
スマホが宙に浮かび上がって漂いはじめ、僅かに揺れると滑らかにスライドをしながら僕の左手にゆっくりと近付いてきた。掌に吸い込まれた。
僕は手の中にあるスマホをしばらく見つめていた。冗談じゃすまないことが目の前で起こったのだ。
『これはマズイ……。ただ事ではないと思う』僕は心の中で考えた。気が動転し激しく脈打ち呼吸が荒い状態になった。
念のためにテーブルに置いてあるコップに向かって「浮かべ!」と叫んだ。
勢いよくコップが真っ直ぐ浮かび上がり、そのまま天井にぶつかって激しい衝撃音とともに割れると、破片が四方に散らばって飛散する間際を見計らい「止まれ!」と叫んだ。
破片が空中で静止した。朝日に照らされて煌めく破片は美しい涙のように見えた。僕はこの現実をどう受けて止めて良いのか分からなかった。
僕は目を閉じた。心の中で『浮かんでみろよ!』と念じてみるとコップと同じように体が勢いよく浮き上がって、天井に頭をぶつそうになった。
急いで体を旋回させると天井に背中を張り付けた状態になって部屋の中を見下ろした。なぜだか分からないが、部屋の扉が何度も開閉していた。
僕は汗だくになり体力の消耗が激しいことに気付いた。まだ起きたばかりなのに眠気と吐き気がする。全身の筋肉が痛い。
ゆっくりと体を床に降ろした後、僕は重い足取りで台所に行って開けるのも一苦労な冷蔵庫から冷しきった麦茶のペットボトルを取り出して飲み干した。
腰を曲げて歩く姿はまるで老人のようだ。僕はソファに座ると、深いため息を吐いた。
一体なぜこんなことになってしまったのか?
それは今から遡ること3日前の話から始めなければならない。
3日前の夏の夕方。
僕は本屋の帰りに顔馴染みのカフェ「ワン・デイ」に行った。
「マスター、久しぶり。こんばんは」
「お〜っ、慎二。いらっしゃい。元気かい?」
「お陰様で。流さんは?」
「まあ、なんとかね!」
「顔色が良いですね。痛めた背中の具合はどうですか? 元気に仕事をしているから、すっかり収まったみたいですね」
「ありがとう。もう背中はこの通り大丈夫さ。ジムで激しい運動をしたのが悪かった。自分の歳を忘れていたよ」
「今後は気を付けてくださいね」僕は流さんの背中を擦った。
「今度からは無理しないよ。ところで、慎二、映画のオーディションは受けているのかい?」
「ええ。1ヶ月前に受けました。3本受けて2本落ちましたが、1つ、わき役に選ばれました」
「おお! それは凄い! おめでとう! 良かったなぁ! 舞台かい? それとも映画?」
「映画です。2週間後の木曜日に撮影が始まります」
「どんな物語かは、まだ言えないんだろう?」
「すみません」僕はハニかみながら笑って頭を下げた。
僕の名前は三杉慎二。23歳。新人の俳優だ。まだまだ駆け出しだが、子供の頃にハリウッド映画を見てから『俳優になりたい』という夢と目標ができた。
中学生の頃から演技の勉強を本格的にしてきて、高校、大学と演劇部と映画研究会に所属し仲間と共に映画を撮ったりしてきた。撮影機材の進歩に感謝しかない。今は根気さえあればスマホでも映画を作れる時代になったのだから。
さすがに大学時代にスマホを使って映画を撮ることはしていないけど、仲間でお金を出し合って立派な撮影機材をレンタルして映画を作ってきた。撮影日数が増えるとレンタル料金が増えるため急いで長回しをしたり、撮影許可が降りなくてゲリラ的に無断で撮った事もあった。どれも幸せな時間で良い思い出だ。
独学で演技力を高める勉強をしてきて自分なりに演技術を磨いてはきた。劇団の先輩達からもたくさんの指導を受けてはきたが、最後は自分自身で演技技術を見つけていくしかない。その事に早い段階から気付けないと、迷いと混乱が生まれてしまう。自分なりに判断しなければ演技を身に付ける事は出来ない。
好きな映画は……、たくさんあって選べないけど、今日の気分だと「エデンの東」と「モンパルナスの灯」だ。実は来年の6月にニューヨークに行って演技の勉強をしてくる。
「流さん、なにか面白い話はないの?」と僕はコーヒーを飲みながら話した。
「そうだな、あっ、そういえばな……」流さんは腕を組んで真剣な顔をした。
「流さん、珍しい。深刻な顔をしちゃって。なんですか? 夏にふさわしい怪談話ですか?」僕は笑って言った。
「慎二、この話は誰にも言ってはいないんだ。ここだけの話にしてくれるかい?」流さんは落ち着いた声で言った。
「わかりました。一体、どんな話なんですか?」僕は座り直して流さんの話を待った。
つづく
読んでくれて本当にありがとう!アドバイスや、感想や、コメントも、メッセージも待っています!どうもありがとうございました!