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ヨーロッパの商品作物生産

 資料としては前話と同様、1880年にドイツで発行され、その邦訳農書である『通俗農家必携』(有隣堂,1884年)を使用しています。



■搾油料

(1)アブラナ

気候:寒冷なる山国を除くの外一般独逸国に於て耕作するを得へし

土壌:主として小麦に適当する肥沃なる深土を好む

   殊にメンゲル質或は石灰質の墳起したるものを宜しとす

   軽鬆重粘共に其度に過くるものは殊に多量の肥苴を与へさるを得す

   軽鬆地よりは寧ろ重粘地に能く登熟す

   湿地、泥炭地及沼沢地には成長せす

   甚た多量に施肥したる圃場を好む

播種:七月下旬既に播種すへし

移植:大圃場に在ては九月上旬犂を使用して之を移植す

油分:種子十貫目より油三貫八百六十目及搾糟六貫二百目を得へし


 現代ではパーム油と大豆油に一歩譲りますが、それ以前においては洋の東西を問わず、最もポピュラーな食用油原料です。

 油糧作物全般に言えることとして、植物が集めた栄養分を大量に持ち出すという性質があることから、非常に地力収奪的で、大量の肥料を要求する傾向があります。


(2)カブ

気候:蕓薹(アブラナ)に適当したる土質を好む

   気候稍寒冷にして土質少く劣れるも尚ほ能く成長すへし

土壌:多く山国の真土質砂壌に栽培す

播種:八月下旬或は九月上旬

油分:十貫目の種実より三貫二百十匁の油及六貫五百十匁の油糟を得へし


 カブは「アブラナ科」であり、品種は選ぶものの同様にカラシナ、アブラナ、白菜などでも、種子から搾油が行われました。

 生産性は一歩劣るものの、アブラナに不適な土地においても油の生産を可能としました。


(3)ケシ

気候:温暖にして過湿ならす春日成るへく早く耕作を始め得へき地方を佳とす

土壌:雑草なく肥沃にして粘脆適宜を得湿潤ならさるものを佳とす

   重粘に過くれは成長充分ならす

   軽鬆に失すれは強風の為めに倒れ易し

播種:三月下旬に始まり四月上旬に終る

油分:其油を含有するの量は平均百分の三十六分乃至四十分

その他:夏日に止まりて速に後作を播種し得る

    大農家に於て盛に之を栽培するに便ならす之に反して小農家に於て自己の家族のみにて収納し得へきときは利益あり

    罌粟より製すへき貴重なる副産物は即ち阿片なり


 アヘンの印象が強いものの、農耕最初期から栽培されてきた油糧作物であり、この時期のドイツだと特に規制も無かったようです。

 上の二種との大きな違いは夏作物であることであり、圃場を占有する期間を抑えることが可能であり、手はかかるものの小規模農家の自家生産には優位な作物でした。



■繊維料

(1)亜麻

気候:寒冷にして少しく湿気ある気候を好む

   殊に晴雨の変化多き所は成長す故に高き地方及山国に於ては亜麻を栽培するもの多し

土壌:重粘土及高燥なる砂地にあらさる以上は何等の土質たるを選ます

   最も好む所は粘脆適宜にしてメンゲル質の肥沃地なり

   軽鬆地に於ては気候湿ひたる年にあらされは成長せす

播種:多くの地方に於ては既に四月上旬に始まる

油分:亜麻実百分より平均二十七八分の油及七十二三分の搾糟を得へし


 ヨーロッパの衣料原料では羊毛が存在が大きいことから、こちらは高度に精製して高級布、あるいは紙原料などに用いられます。

 連作障害が長期にわたることからか、特に新開地で好まれた作物であり、蕎麦やカブと同様に焼畑などに対して作付けされることが多かったようです。 

 油は現代でも木製品の艶出しに用いられるほか、家畜に食ませると特に乳の出をよくしたとのこと。


(2)大麻

気候:温暖にして稍や湿潤なる気候を適当とす

土壌:肥沃地或は多量に施肥したる圃場を好む

   養魚池或は池、湖を乾涸したる所には能く繁茂せり

   真土質の圃場を深耕精砕して墳起せしむるは最も大麻に功あり

   重粘地及高燥なる砂地に在ては大麻委縮して充分に成長すること能はす

播種:温暖なる地方に於ては通常五月中半

油分:大麻実百分中二十二、五分の油七十六、二分の糟を製すへし

その他:其繊維を以て靭堅なる綱索を製すへし


 強靭ながら粗い繊維であることから衣料への利用は限定的なものの、船のロープなどに欠かせない、軍需物資としての性質も強い作物でした。

 油もとれるものの臭いがきつく最低の評価を受けており、基本的には灯りに使われるのみだったようです。



■その他

(1)茜

気候:寒冷なる山国を除くの外独逸国に於ては何れの処に於ても能く成長すへし

   温暖にして雨露多き谷間を以て最も適当なるとなす

土壌:深くして稍や軽鬆に湿気過多ならす又夏日甚しく乾燥せす

   腐植質に富みて且つ石灰を含有する土地

移植:五月下旬或は六月上旬


 まる一年以上にわたって圃場を占有するうえ、大量の肥料と労働力を必要としますが、貴重な赤色の染料として取引されました。


(2)ホップ

気候:険阻からさる南面の山腹にして北方に山嶺若くは森林ありて能く寒風を防き西方も亦森林之を塞ぎ暴風棚架を転覆するの恐寡き土地を佳とす

   霧多き深谷或は水辺は葎草(ホップ)の最忌む所なり

   日向良き場所を選むへし

土壌:適当なる土質は温和なる真土地なり

   其他稍や粘力ある真土及砂質地にも尚能く成長すへし

   森林を開墾したる圃場も亦可なり

期間:宜きを得たる葎草園は二十年間永続することを得へし


 近世以降ビールには欠かせないハーブであり、風味付け以上に保存性を高めるために重要な作物です。


(3)タバコ

気候:葡萄の如く温暖にして日向能く風害なき土地を好む

   秋霜早く降る地方は莨の栽培に適当せす

土壌:砂質にして石灰を含み温暖肥沃なる真土地を好む

   寒湿なる粘土乾燥し易き砂場過湿なる沼沢地を除くの外何等の土質と雖とも成長せさることなし

播種:三月上旬若くは中旬に播種して其苗を育てるを要す

移植:通常五月下旬或は六月上旬


 アメリカ原産で最も広がった作物の一つ。

 嗜好品として高い収益性があるものの、連作障害も強く暖地を選びます。


(4)ラシャカキグサ

気候:土質の適当する以上は温帯地方に在ては必す繁茂すへし

土壌:善良なる粘土地を好むものにして表土深く少しく石灰を含む土壌は其成長を促進す

   軽砂地は此植物を栽培するに適せす

   砂質の真土には尚能く成長す

移植:八九月に至れは距離を二尺として圃場に移植すへし


 ラシャとは毛織物の一種であり、その製造に用いられます。


(5)ブドウ

気候:独逸国に於ては温暖なる河岸の地にあらされは十分に成長すること能はす

   温暖にして暴風の恐れなき南方の山腹に栽培すへし

   樹木、森林、家屋の如きは暴風を防くの効あり

   谷間及沼沢地は霜露多くして葡萄樹うぃ害す

土壌:温暖にして墳起したる沃土を好む

   重粘寒湿なる土地及乾燥し易くて痩せたる砂石地を嫌ふ

   多く石灰を含有して墳起したるメルゲル地は葡萄樹に適す

   最良きは軽砂に小礫を雑へ葡萄根の成長し易き土質


 ヨーロッパの酒といったらワインが出ますが、ブドウ生産上位はイタリア、スペイン、ついでフランスと地中海沿岸の温暖な地域ばかりで、ドイツではあまり見ません。

 樹木であることからはじめ三年は収益がない中をやりくりする必要があるなど、大資本が要求される性質が強いといえます。

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