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ヨーロッパの飼料生産

 資料としては前話と同様、1880年にドイツで発行され、その邦訳農書である『通俗農家必携』(有隣堂,1884年)を使用しています。



■菽類

(1)ヤハズエンドウ(カラスノエンドウ、ベッチ、ウィッケン)

土壌:豌豆の成長する土質には凡へて能く成長す

   豌豆及大麦の成長せさる重粘地或は湿地にも亦能く登熟す

その他:時々播種して苜蓿の絶へたる時の補給料と為すの益あり

    燕麦と混して緑草を芟刈して飼料と為すへし


(2)ルピナス

気候:冷爽なる気候に於ても尚ほ能く成長す

土壌:温暖なる砂壌を好む

   粘土を含む土地には充分に成長せす

   水湿多き沼沢地には適当せす

その他:莢実は多く毛を被り子実は苦みを帯ひて人食に供すへからす

    畜食となすにも特別なる調理法(強く煎て苦みを失はしむ)を施すを要す


 どちらもローマ時代の『農耕詩』などに登場し、これらを栽培した後の土地は休まず小麦が作れると書かれるなど、非常に古くから利用されてきたマメ類です。

 食用には向かないものの、細かく大量の種子が得られるという性質から、栽培牧草や緑肥として長く扱われてきました。



■牧草類

(1)赤クローバー

気候:春日雨多くして気候冷爽に夏日温暖にして亦湿気に乏しからされは最も良し

   四五月旱天なれは必す其収納を害す

   冬穀の成長すへき土地には皆能く繁殖す

土壌:脆粘中等にして少しく石灰を含み表土深きものを好む

   肥力と湿気に欠乏せさる以上は重粘地、軽砂地と雖も敢て多穫なきにあらす

   粗漏なる純粘土地及乾燥痩薄なる砂地には苜蓿を培養するも利益あることなし

   軽鬆地には冬枯し易く湿地及心土の岩石多き土地には収穫少し

播種:チモシーグラス、伊国ライグラス、英国ライグラスの如き禾本牧草を混して栽植するを良とす

   大麦、裸麦(ライムギ)、燕麦、小麦、ジンケル(スペルトコムギ)を栽培したる圃中に播種すれは其稚苗は是等の植物の為めに保護せられて成長する

   同地に栽培するを嫌ふか故に八年と過きされは再び播種すへからす


(2)白クローバー

土壌:紅花苜蓿(赤クローバー)の成長せさる痩薄地と雖も尚ほ能く繁茂すへし

その他:緑肥となること多し

    花時には蜜蜂に善良なる飼料を給す

    種子を結ふこと稍や紅花苜蓿(赤クローバー)より多し


 日本でクローバーと言った場合は、一般に公園の下生えになっている白クローバーを指すことが多いと思われますが、農業革命でより大きな役割を持っていたのは赤クローバーの方です。

 双方を比べると赤クローバーは草丈が高く、1~2年程度の短いサイクルで穀物栽培と組み合わせた輪作に用いられたもので、主には刈り取られて飼料となり、対する白クローバーは草丈が低く、数年間にわたって牧草地を形成し、踏圧への耐性から主には放牧用に用いられました。


(3)アルファルファ(ルーサン、ルツェルン、ムラサキウマゴヤシ)

気候:温暖なる気候をこのむ

   紅花苜蓿の凋枯すへき炎熱乾燥する気候に耐ふ

   雨多く寒冷なる年には零陵香(アルファルファ)の収納少し

土壌:壌土深くして地下常に過湿なきを要す

   根は水湿に逢へは腐敗し易きを以てをり故に零陵香(アルファルファ)は少しく傾斜ある圃場に栽培するを宜しとす

   石灰質及ひメンゲル質の土壌を好む

播種:三年乃至十五年間同圃場にあらしむるか故に一定したる輪換法を行ふこと能はす

   気候の温暖なるを要するか故に春日寒気の発芽力を害せんことを恐るる間は播種すること勿れ


 曰く「牧草の女王」

 ローマ時代の『博物誌』においては、紀元前500年頃にアジアからもたらされたと書かれており、当然ながら中東ではさらに古くから栽培されてきた牧草の中の牧草です。

 非常に深根性であり、その範囲に水が溜まってしまうような層があるとダメなど結構土地を選ぶものの、その収量は牧草類の中で圧倒的です。

 あくまで中東起源の植物であることから、気候の異なるアルプス・ピレネー以北の土地では栽培適地が少ないものの、赤クローバーに次ぐ主要牧草でした。


(4)サインフォイン(イガマメ)

気候:零陵香(アルファルファ)と比すれは更に寒冷なる気候に堪ふ

土壌:日向善くして石灰に富み心土に湿気なき深き土壌を好む

   沼沢の如き湿地は此培養に不適当なり

   表土深からさるも地底に石灰石塊と混して高燥なる圃場には能く成長す

   土地高燥なる以上は稍や痩薄なる土地にも尚ほ能く成長することを得へし

播種:三月中旬より四月下旬を播種の期節とす

   適当したる土地に在ては十年乃至十五年間同地にあらしむを得へし

その他:凡て苜蓿類は緑草の儘まて家畜に与ふれは腸中に入て瓦斯と生し腹部の膨張する恐あれとも此土耳古苜蓿(サインフォイン)に至りては此憂あることなく最も完全なる牧草となす

    蜜蜂は好んて此花中の蜜を吸ふものなり

    乾草の価格は此(赤クローバー・アルファルファ)に優る


 石灰を含んでいるのであれば、寒冷地や砂礫を含んだ劣等地にも栽培できる強い作物です。

 収量はやや劣るとされるものの、含有するタンニンが家畜の鼓張症を防ぐなどその品質は最高であり、最も高価格で取引される牧草でした。



■需根類

(1)ジャガイモ

気候:禾穀の成長し得る場所なれは何等の気候何等の土質に於ても能く繁茂すへし

土壌:重粘地及高燥なる痩砂地を嫌ふ

   最も好むものは真土に砂を混したる軽鬆なる圃場

挿植:四月或は五月初旬


 最も有名なアメリカ原産作物の一つであり、1570年頃にスペインに伝来とされますが、普及するまではかなりの時間を要しました。

 よく「ヨーロッパの冷涼な気候に適した」とは言うものの、元々赤道直下で栽培されていた作物を高緯度に位置するヨーロッパで栽培するというのはかなり無理があり、適切な日長性を持つ品種が生まれるには多くの時間が必要でした。

 労働力こそ穀物よりも必要なものの、面積あたりの生産力は非常に高いです。

 また貯蔵性も低く輸送も困難なことからほとんどの地域で穀物にとってかわることはなかったものの、自由に経営できる土地が限られたアイルランドの小作農などには広く主食として受け入れられました。


(2)テンサイ

気候:気候の寒暖を選ます

   甚た乾燥したるものを嫌ふ

   最も好む所は気候温暖にして雨露多し

土壌:脆粘適宜にして石灰を含み能く湿気を保持し地層深きもの

   重粘寒湿磽埆地は大に其成長を妨け軽鬆に過きたる地も亦多穫なし

挿植:温暖にして墳起し雑草なき圃壌に播種するに宜し


 1747年に砂糖を含有していることが確認されたものの、その率は僅か1.6%程度。

 その後1784年から品種の選抜と育種が進み、6%の含有量を持つホワイトシレジア種が誕生、1801年には工場が成立して大規模生産も始まります。

 特にナポレオン戦争でヨーロッパがイギリスから孤立した際に、輸入が途絶えて砂糖価格が高騰し、それ以降サトウキビの代替としての生産が進みました。


(3)ルタバガ(スウェーデンカブ)

土壌:軽鬆なる深き砂壌を好む

   甚しき乾燥には耐へす

   肥沃なる大麦地域或は裸麦地を以て最も適当なる圃場となす

   寒湿地は総て需根類に適せす

播種:休田莱菔(ルタバガ)は五月中旬より六月下旬

   刈跡莱菔(ルタバガ)は七月下旬或は八月上旬

   気候の温暖なる場所に於ては冬穀を収納したる後十一月初旬まてに播種すへし

その他:蕪菁に比すれは耕作の懇到なるを要すれとも其収納も亦多し

    需根類を家畜に与ふるの順序は最初に莱菔(ルタバガ)次に甜菜最後に蕪菁及馬鈴薯とす


 カブとよく似たアブラナ科の品種であり、近世に成立したとされます。

 第一次世界大戦中のドイツでは「ルタバガの冬」と呼ばれたことがあったほど、食糧難の際の救荒作物にも用いられました。


(4)カブ

気候:蕪菁は稍や寒冷なる気候に於ても尚能く成長すへし故に山国に之を栽培するを見る

土壌:砂地よりは寧ろ真土地にして湿気を保持する土地を好む

   軽鬆地に於ては偉大なるものを得へからす

   重粘地には甜菜を培養するより蕪菁を以てするを益ありとす

播種:春日温暖なる時に播種すへし


 中東起源の作物であり、洋の東西問わず非常に古くから栽培されてきた作物であり、ローマ時代のガリアでは大量に栽培されて家畜の飼料になっていたなど、食用だけでなく飼料としての歴史も非常に古いものがあります。

 新開地に適しているとされ、日本でもヨーロッパでも蕎麦と並んで主要な焼畑の作物です。

 水分が多くジャガイモよりも栄養分の総量が少ないと見られていたものの、ジャガイモを食わせた牛の乳からは粉っぽいチーズができ、カブを食わせた牛の乳からは甘いチーズができるとされ、酪農においてはより重要な作物でした。


(5)ニンジン

気候:温暖にして少しく湿気ある気候を好む

   寒冷にして乾燥し易き土地に適せす

   霧深き山間の地方に宜し

土壌:土壌深くして雑草及礫塊なく肥沃なる砂地或は真土は胡蘿蔔の最も喜ふ所なり

播種:休田に培養し或は春日大麦、裸麦(ライムギ)ジンケル(スペルトコムギ)等の下たに播種す


 現代で普通に口にするセイヨウニンジンは、農業革命期の17世紀オランダで生まれたとされます。

 他の根菜類よりも虫害や病気への耐性が高いとされました。


(6)キャベツ

気候:禾穀の成熟すへき気候なれは甘藍も亦能く成長すへし

   旱燥を嫌ひ雨湿あるを好む故に雨露多き山国に多く栽培するを見る

土壌:粘脆適宜なる真土或は耕耘施肥を懇到にしたる粘土質にも適当す

   寒湿なるへからす

   殊に泥土の沈殿して形成したる河添の沃地を好む

   砂地に培養するには湿地なるか雨多き地方にあらされは不可なり

播種:春日土地の適宜に乾きたるとき

移植:五月中旬或は六月初旬を以て移植の好期節とす


 何故根菜類として出てくるかと思うかもしれませんが、根菜類は利用部分が地下で生育する性質上、通気性のよい砂地気味な土壌を好むのに対して、キャベツは粘質土にも好適し、その住み分けとして最適な作物でした。

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