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ヨーロッパ農業の展開 - 近世

これまであった「ヨーロッパの農業の歴史」を解体。

分割と詳細な記述に書き換え作業が凍結中……。

 中世末期から近世のヨーロッパ農業で見られた現象としては、「特産地の形成」が挙げられます。

 例を挙げればスペインやイギリスでは羊毛生産のための牧羊業、オランダ北部やユトランド半島では乳製品生産のための酪農業、東ドイツやポーランドでは輸出向けの大規模穀物生産、といった具合です。

 以前であれば輸送コストが嵩むことから、居住地のごく周辺で地産地消にせざるを得なかったわけですが、造船・航海技術が発展していく中でそうしたコストは切り下げられていき、その地域の条件にあった作物を作って不足するものは他の地域から輸入する、という現代に続く生産方式が確立されていきます。

 教科書でも「イギリスの毛織物とポルトガルのワインを取引」として比較生産費説が出てきますが、一部の高級品・必需品に限られた貿易から、今度は単価が安く重くかさばる穀物や木材といった重量材まで、自由貿易のメリットが拡大する時代の到来です。


 とはいえここでそれら地域ごとの発展について見ていく、なんてわけにはいきません。

 記述も煩雑になりますし、何より作者の手に負えない。

 そんなわけで以下は、農法の発展段階として理解されてきた三圃式→穀草式→輪栽式の流れに従い、必要となる箇所について見ていきます。



■穀草式農法

 農法を発展段階としてとらえる場合、三圃式農法から輪栽式農法の間に過渡的存在として位置づけられる農法であり、特に近世のイングランドやドイツ北部などで見られたものが有名です。

 18世紀メクレンブルクの例を挙げると、冬穀→数年間の夏穀→数年間の草地化→休閑の順序でローテーションさせるものです。

 イメージ

冬穀:■■■■■■■□□□□□

夏穀:□□■■■■■■□□□□

夏穀:□□■■■■■■□□□□

草地:□□□□□□□□□□□□

草地:□□□□□□□□□□□□

草地:□□□□□□□□□□□□

休閑:□□□□□□□□□■■■(施肥)

 穀作比率が2/3から3/7になっていることから、穀物生産が減退したような印象を与えますが、実際のところこれは三圃式農法で不可欠だった草地や、周囲に存在する藪地を丸ごと取り込んで、ローテーションに組み込むように耕地化した結果であり、実際の穀作面積は変わらないか、むしろ増える場合も多かったとのことです。


 この農法と三圃式農法で最も大きな違いとなるのは、「全ての土地が必ず犂耕される」点にあります。

 まず三圃式農法の草地は「~年ライムギ地」を除けば基本的に犂耕されることはなく、毎年の採草によって土壌養分の収奪の対象となり、長期的には草生力が減退してきます。

 しかし穀草式農法の管理下では数年に1度必ず犂耕されることによって土壌は膨軟に保たれ、また家畜放牧においても必要な草地に必要な時期に必要な頭数を飼養する管理が容易となり、地力を良好に維持して収量と家畜頭数の増大が可能になりました。


 問題点を挙げるとすれば労働力の確保です。

 単純に言うと、三圃式農法であれば3の面積への犂耕で済んでいたものが、この農法では7の面積への犂耕が必要になり、さらに数年間草地化した耕地は、毎年犂耕されていた三圃式農法の休閑地と比べると、犂耕の負担は大きくなるといえます。

 また家畜頭数が増えるのであれば当然それらの調達費、飼養するための設備、区切りとなる新たな柵や生垣など、別の費用もかかってきます。

 そうしたコストは必要なものの、労働力の「運用」について『合理的農業の原理』で見てみると、「他のどのような農法とくらべても、作業がより秩序づけられており平準化されている」「労働は四季を通じてできるかぎりうまく配分されている」と同時代で非常に高い評価を得ていたようです。



■輪栽式農法

 ヨーロッパの経済発展の中で形成された農業方式が輪栽式農法です。

 これまで見てきた農法の耕地利用は、穀物のみあるいは穀物+牧草という形でしたが、この農法では「耕地の栽培作物として」根菜類が加わることが大きな違いです。

 根菜類自体はそれこそ有史以前から利用されてきた作物ですが、それはあくまで家屋に付随する小規模な菜園での話であり、穀物を栽培するような非常に広い耕地に根菜類が導入されるというのは、まずありえない話でした。



(1)フランドル農業

 項目こそ作りましたが、「フランドル農業とは何か?」というのは非常に難しい問題と言えます。

 ノーフォーク農業が形成される中で参考にしたといった話こそあるものの、実態としては決まった輪作形式や栽培作物を持つというわけではありません。

 フランドル農業というものを端的に表せば、「都市近郊での園芸農業」です。


 少しばかり歴史について。

 ここでは「フランドル」ではなく、もっと大きな「ネーデルラント」という枠組みで見ていきますが、この地域はヨーロッパ大西洋地域の商業・流通・金融において中心的な存在でした。

 フランドルは中世後期の時点で毛織物生産が発展し最も工業化が進んでいた地域でしたが、大西洋とライン川交通の結節点に位置する優位性に加え、北海漁業による造船技術の蓄積もあり、17世紀には「大西洋で活動する船舶の7~8割はオランダ製」と、海運業において絶対的な地位を占めます。

 16世紀のアントウェルペンや17世紀のアムステルダムは、イタリア産絹布にイギリス産毛織物、バルト海地域の穀物にポルトガルの香辛料などあらゆる商品の集散地となり、大西洋地域の流通センターとして機能しました。

 そうした背景から金融や情報においても中心的存在となり、スペイン・ポルトガルへの投資によって新大陸銀の集散地になり、16世紀後半にはこの時期のヨーロッパでは異常ともいえる10万人超えの都市も成立しています。

 その後オランダの覇権はイギリスに移行し、相対的な地位こそ低下させますが、その高い購買力は維持されます。


 こうした背景から、農業についてはこれまでの労働節約型のものから、高度な集約化が求められていきます。

 大都市が形成され購買力が高まったことで、作れば作るほど有利という状況が生じ、可能な限り土地を遊ばせることなく、連続して作物を生産することが求められるようになったわけです。

 『ベルギー農業入門』を書いたシュヴェルツ曰く「勤勉と肥料とのみが、耕地において不可能を可能とする」とのこと。

 1人あたりの耕地面積は縮小しましたが、大都市にプールされている労働力を農業に季節利用できるようになったほか、廃棄物として人糞尿や灰などが無尽蔵に供給されるなど、大量の労働力と肥料を投じる農業方式へと移行していきます。

 有利な栽培物としては、傷みやすい野菜や果物、高価格で取引されるアマやナタネといったものが代表的ですが、穀物についてもより土地生産力を高めて生産されています。

 『孤立国』(1824)を参考にイメージの一例

ジャガイモ:□□□●●●●□□■■■

冬穀+カブ:■■■■■■■●●●□□

エンバク : □□□■■■■■〇〇〇〇

クローバー:〇〇〇〇〇〇□□□■■■

冬穀+カブ:■■■■■■■●●●□□

 施肥についてはジャガイモと、エンバクに間作するクローバーに用いられ、穀物への施肥は倒伏の危険性から行われません。

 上を見て分かる通り、畑を遊ばせている期間はほとんど存在せず、二毛作のような土地の高度利用さえ見られます。


 特に重視されたのが飼料作物の生産です。

 たとえばクローバーの栽培について『孤立国』では、「(条播された)燕麦の間に、深き種条を作り、之に多量の底肥を施せる後、其上に三葉草(クローバー)を播種する」としています。

 またそれ以外に春先にも追肥が行われ、厩肥や汚水、灰や石灰や鳩糞が撒かれるなど、多量の施肥が行われていたことが伺えます。

 クローバーについては現代だと窒素固定による土壌肥沃化がよく言われますが、栽培牧草は本来的に実取りするものではなく、茎葉が繁ればよいものであるため、とにかく多量の施肥が行われています。


 またカブについてシュヴェルツは『ベルギー農業入門』でコンチ地方について挙げ、穀物が収穫されると直ちに、第一に犂耕、第二にハローがけ、第三にローラーで填圧、第四にさらにハローがけ、第五に穀物の根株と雑草を熊手でかき集め、第六に再度の犂耕、第七にまたまたハローがけによって平坦化して汚水と灰を撒き、第八に播種、第九に種子をならし、第十に填圧したとか。

 7月の中頃に播種されたカブは手作業で除草と培土がなされ、9月末頃から収穫可能となり、その後仕事量と相談しつつ12月半ばまでかけて収穫されていったとのこと。

 カブのような根菜類は利用部分が地下で生育することから、非常に膨軟で雑草から清浄な土壌が不可欠であり、非常に手間がかかり短期間に大量の労働力を必要とする作物と言えます。


 こうした事情については、次回でも詳しく見ていきます。

■主要参考文献

奥西孝至他『西洋経済史』(有斐閣,2010)

飯沼次郎『農業革命の研究』(農山漁村文化協会,1985)

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