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日本の各種農産物の生産性比較

2017/08/14に投稿したものに加筆修正です。

■各作物1反あたりの収入と支出

挿絵(By みてみん)

 この表はまず各作物1反あたりの石高、次にそれを全て売却した際に得られる売上金、そして1反あたりの栽培に必要となる経費、最後に得られる収益がまとめられた資料です。

 収支が甲乙で分かれているのは、労働に関するコストを具体的な数字として計上するかしないかの差です。

 農業を行う以上労働そのものが発生するのは当然なのですが、労働力を家族や小作農で賄える場合は「賃銭」という形でその費用が発生することはなく、目に見える費用の数字として出てくるのは乙の数値になるといえます。

 逆に労働力を全て他所から雇い入れて農地を経営する、といった場合には甲のような数字になることでしょう。



■食用農産物の生産性比較

挿絵(By みてみん)

 こちらの表は上にある作物のうち、食用農作物に絞ってその特徴を分析した数字となります。

 具体的には上の数字から労働に関するコスト(費金甲-費金乙)を求め、土地生産性に加えて各作物の労働生産性を算出しています。

 ちなみに供給熱量に関しては、あまり正確性のある数字ではないことをご了承ください。

 生産高は石高(容積)で算出されているのに対して、熱量計算は重量が必要になります。

 甘藷なんかは元の数値からして重量ですし、米1石(180l=150㎏)を基準としてそのまま計算式にあてはめられますが、麦はともかく雑穀となれば形状も米とかなり異なり、それなりの変動が見込まれます。


 ではここからそれぞれの作物について見ていきます。


 まずは米ですが、他の全作物の中でも非常に特徴的な数字です。

 穀物の中では圧倒的に多い反収を誇り、その売上ともなると麦類の約2倍、蕎麦と比べれば3倍強の価格で売却できます。

 その反面、必要労働量もまた莫大であり、大麦・小麦に対しては1.7倍強、粟だと約2倍、蕎麦だと3倍弱というコストがかかるわけです。

 米は高値で取引してもらえる「商品作物」としての性質が非常に強く、超高コストながら高リターンを返す作物であったといえます。

 生産費あたりの供給熱量がワースト2位というのは、結構驚きの結果でした。


 次に麦類についてです。

 それぞれの生産量については明治17年で、大麦が600万石、小麦が266万石、裸麦が426万石といったもの。

 収量の多い大麦と裸麦は基本的に麦飯として消費されるものであり、反収としては大麦が圧倒的に多いものの、西南日本で裸麦が好まれたのは微妙な取引価格の差異によるものかもしれません。

 小麦については便利なこともあってか、やや少ない収量にも関わらず、取引価格はかなり大きいものであったようです。


 次に雑穀についてです。

 反収こそパッとしないものの、必要な労働量もまた非常に小さく、低コスト低リターンな作物といえます。

 特筆すべきは大豆でしょうか。

 主食ではないですし、連作もできないことから、割引く必要はありますが、労働量あたりの収益性は穀物中トップとなっています。


 最後は甘藷についてです。

 必要な労働量が米の半分でありながら、供給熱量では米と同格というチート作物っぷり。

 とはいえ注目すべきは「1石あたり収益」の部分で、取引価格は大体の作物の半分以下であり、米と比較すれば3分の1未満なんてことになります。

 どういうことかといえば、都市での利用を考えた場合、穀物と比べれば圧倒的に腐りやすいのはもちろん、同じカロリーを得るにも2倍3倍の量を輸送して貯蔵スペースを確保しなければならない問題があり、かなり近距離間でしか取引が成り立ちません。

 「自給用」として考えると前近代日本で間違いなく最強の作物ですが、一方で「販売用」として見るとあまり有利ではないと言えます。



■現代では

挿絵(By みてみん)

 上の表は農林水産統計から平成29年の作物別の数値をまとめたものですが、パッと見るだけでもかなり特徴的な数字が読み取れます。


 特に象徴的なのは米と甘藷です。

 反当たり生産費や労働時間が桁違いに高く、反比例するように1経営体当たり面積は小さいと言えます。

 米はこの10年でも4時間と、労働時間が劇的な減少傾向にあるものの、水田というという生産手段の制約により、単純に大規模化すれば生産効率が上がるというものでもないことからか、まだまだ面積当たりで多くの労働を要する作物です。

 甘藷については馬鈴薯が欧米の機械の流用から大規模生産が進んだのと対照的に、国内でサツマイモ需要が減少する中で、機械化・大規模化から取り残されたということでしょうか。


 また蕎麦の反収の低さも目を引き、対して重量当たり生産費は極端に高くなっています。

 労働量はそれほどでもないものの、雑穀の類全般に言えることとして、現代的な肥料の多投→多収を可能にするような品種改良が進んでいません。


挿絵(By みてみん)

 そしてこちらは上と同様の方法で求めた供給熱量になります。

 こちらは元データが全てkg表記なので、カロリーの誤差はほとんど無いかと思います。


 反あたり熱供給量で圧倒的なのは甘藷であり、米の2倍近いというのは明治のデータと同じですね。

 馬鈴薯は昭和40年代に甘藷の反収を追い抜き、非常に大きな面積当たり生産高を持つことから、水分で大きく割り引かれるものの供給熱量は大きいです。


 労働当たり供給熱量については明治のものとそれなりに差異があります。

 米が非常に低いのは変わりませんが、以前トップであった甘藷はそれ以上に低くなっています。

 対して機械化の進んだ麦類や馬鈴薯は逆転していますね。

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