日本の農具
「ヨーロッパの農業の歴史」を解体、書き換え作業が凍結中……。
ながら「農業と地域性」「日本の食糧生産」を資料差し替え実施。(11/2)
この節では日本で使われていた農具について載せています。
説明や図表は『農用器具学』(博文館,1925)より。
■耕耘用具
耕鋤器は土壌を切り起して其の下層を上層に反転し、つよめて多くの土粒面を空気に触接せしめ若くは唯土壌を撹擾して其状態を膨軟ならしむるの器なり
鍬
鍬は打込みの作用を以て土壌を切り然る後にそれを発起するの耕鋤器
(1)風呂鍬
風呂鍬は其鑱、風呂と称する部分に嵌入せられ、柄は此の風呂に穿たれたる孔に嵌入して楔によりて結合固定
最も広く耕作の用に供せらるるものなり
(2)金鍬
金鍬は其柄が直接に鑱板に結合せらるるものにして風呂と称する部分を有せざるものなり
其構造一般に堅牢なるを以て砂礫多き土壌・粘重なる土性の水田及び林野の開墾等に用ふるに宜し
(3)備中鍬
備中鍬は柄と鑱とより成りて風呂を有せざること金鍬の如し、されど其鑱は一の平板をなさずして分れて二本以上の指状杵をなせり
重量を減じて、而かも土中に打込みて抵抗を感ずること少く、水田の耕起、粘重なる畑地の荒起し等に用ふるに適せり
鋤
鋤は圧込の作用を以て土壌を切り然る後にそれを発起するの耕鋤器なるが故に単に手を以て使用するにあらずして足を以て其圧込を行ふを法とす
一般に鍬よりも深耕に適し殊に穴を穿ち溝を掘る等に用ひて最も便なり
(1)普通鋤
い:京鋤→砂質壌土の湿気ある処に用ふるに適せり
ろ:関東鋤
は:風呂鋤→大阪付近に於て土工、植木職等の用ふる
に:江州鋤→多少深耕には不適当なれども、しかも土塊を掬ひ上ぐるに便にして水田の二毛作に対し其整地を行ふなどに良なり
(2)踏鋤……ぬる
主に関東に於て畑の整地に使用せられ、又桑園の中耕などに用ひらる
深く耕すこと能はざるの失ありと雖も其面積上の効程は頗る大なり
(3)金鋤……ほへと
(4)股鋤……ちり
恰も鍬に備中鍬あるが如きにして主として粘重なる土性の地に用ふるものとす
犂
犂は牽引の力を以て鑱を土中に侵入せしめて土を切らしむると共に其力の分力を以て其切られたる土壌を発起反転せしむるの耕鋤器
(1)床犂
床犂は長き犂床を有するものなるが故に耕鋤の深さは一に全く此床の為に制御せられ
浅耕を免れざると地床を押し固むるの失ありと雖も使用に熟練を要せざるは其長所なり
(2)抱持立犂
鑱を地に入らしむるの深浅は自在にして地床を押し固むるの失なし
使用者は専ら其手加減によりて其浅深を調節するを要し且其顫動を支えざる可らざるが故に使用に熟練と労力とを要する
■耙砕用具
耕鋤器によりて反転撹擾せる土壌は更に其上層を粉砕して其土塊を小にし且つ其表面を均平ならしめざる可らず
粘重なる土壌に於ては殊に此器を用ふるを必要なりとす
馬鍬
馬鍬は水田の代掻或は一般に犂耕後の田畑を耙するが故に為に従来我邦にて用ひたるもの
主として土塊を砕き表面を均らすにあれども或は緑肥・藁肥等を土中に圧入するの用をなさしむるにも供す
手耙
手耙は其構造備中鍬に似て其歯探勝其数やや多くして一般に甚だ軽量なるものなり
何れも皆表層を把して土塊を砕き表面を均平し清掃或は播種後の土かけ等に用ふるもの
小圃に於て使用すべきものなり
塊割
塊割は槌又は杵に類し円柱形・方柱形・又は樽型の木柱に長さ三四尺の柄
粘重の土塊を破砕するに用ふるものなり
■鎮整用具
鎮整器は耙砕器を用ひたる後に於て一層よく地面を均平ならしめ其膨軟に過ぎたるを圧鎮し尚よく土塊を細砕
或は播種後に於て趣旨を埋没し覆土を圧鎮する等の目的に使用するもの
朳/柄振
主として圃面を摩して均平砕土圧鎮等の用をなさしむるものなり
穀物を蓆上に広げて乾かす等の場合にも用ふることあり
刮板
刮板は土壌を圧鎮することなくして唯其表面を均平ならしむる為の用具
■除草用具
畑地用
畑地の除草器として用ひたるものには草取鎌及び鍬の外に向突及び万能と称するものあり
向突は前方に向て草根を突き切るもの(図のホ)万能は草根を引き切るものにして共に其長柄を取りて立ちて使用するものなり
水田用
水田に用ひて稲の株間の土を軟げ其雑草を殲滅するが為には蟹爪、田打車、豊年車、八反取、草取爪等の手用具を用ふ
■灌漑用具
(1)振釣瓶
口径深さ共に八九寸の桶に四本の縄を付して二人にて之を用ふるもの
通例之によりて一日に二三反の田畑に潅水するものとす
(2)踏車
広く揚水器として諸方に使用せらる
通例僅かに三尺許の高さに一時間に十五石前後の水を揚げ得るに過ぎざるものなり
■収穫用具
鎌は手用の刈取器にして其構造は至て簡単なれども其形状大小等種々様々
鋸鎌は平刃の鎌の如くに物を打ち切るには適せざれども引て切る為には好適のものにして且つ平刃の鎌の如くに屡々研ぐことを要せざるの便あり
いろ:西洋大鎌
は:西洋小鎌
に:普通小鎌
ほ:目立鋸鎌
へ:研出鋸鎌
■脱穀用具
脱穀の方法には打落の法と扱落の法との二様ある
麦・粟・大小豆等多くの穀物は多くは打落の方法によりて脱穀す
麦は扱落の方法にもよることなきにあらず
稲は専ら扱落の方法による
(1)扱箸
篠竹を嘴の如くに作りたるものを用ひ僅に一二穂づつを扱きたる
(2)稲扱
麦の扱取に用ふる麦扱と称するものは其構造稲扱と相異なることなし
但し其歯間の間隙は稍広きを常とす
(3)穀打台
之に穀穂を打ち付くるときは穀粒飛散して頗る広き面積を要すと雖も麦の如きは麦扱によるよりも其効程大なるの利あり
(4)打棒/唐竿
稲も麦も単に扱きたるのみにては其脱粒未だ完全ならずして穂の切断して粒穀の付着せしままに落つるものあり
落穂より穀粒を脱離せしめ又は芒を除く等の為には打棒を以て之を打つ
豆類などは始よりして打棒を用ふること多し
■調整用具
脱稃器
穀粒の稃皮は或はその脱穀の際に既に剥脱し畢るものあれども或はさらに特別なる脱稃器を用ひて之を剥脱するを要するものあり
前者:小麦・裸麦・荳菽類
後者:稲・大麦・稗・粟・黍・蜀黍
後者のうち稲の外は大抵臼搗によりて脱稃するを例とし稲に就ては古来専ら籾磨臼を用ふ
精選器
(1)唐箕
筐内に設けられたる四乃至六枚の薄板を輻状に装置せる翼車
其筐内に車軸の付近より入り来る空気を遠心力によりて一方の外側にやや上向的に吹き出さしむるものなり
(2)千石蓰
玄米は篩の目を通じて裏面より落ち籾米は表面を流下して前方に落つる
大抵三十六七度にして其篩目は上部に小にして下部に至るに従て大なり