よくも希伊人をっよくも希伊人をっ!
夕日が射す家庭科室で、俺が宇宙真オクトパスと濃厚なキスをした後。
うえぇ、気持ち悪い……。
水道水で何度も口をゆすぐ。
「うぅ……希伊人がタコなんかとキスを……。」
がっくりと膝から崩れ落ち、その場に伏せるターニャ。
「希伊人……大胆。」
ニーナが口を両手で隠しながらおおげさに目を丸くしてこちらをみてくる。
「キシャアーっ!!!」
引き剥がされたタコも俺とキス出来て嬉しい(そんなことはないだろうが)のかまた元気に声をあげた。
くそ、今日はついてない気がする……。
「では、気を取り直して調理に入ろう。」
暫くして立ち直ったターニャが裸エプロンの紐をキュッと締めなおし、調理台に立つ。
「んで、何作るんだ?こんなゲテモノ使って。」
ちらりとまな板に置かれたタコの方を見る。
流石に弱ってきたようで鳴き声はあげず鍋で茹でた野菜のようにげんなりしている。
「ふむ、特に決めていないのだがな。大会用にいくつか試作しようと思う。……まずは。」
調理台の引き出しをガサゴソと漁り、包丁を取り出した。
「このタコを細かく切っていこう。」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるターニャ。
よく研がれている包丁の刃がきらりと光り怪しさを増している。
「ふふっタコ助め、よくも希伊人の唇を奪ってくれたな。」
ダンッ!
「ぎゅえぇ……。」
ターニャが包丁を振り落としタコの足を切断する。
包丁がまな板に突き刺さる音とタコの断末魔が家庭科室に響く。
「よくも希伊人をっよくも希伊人をっ! 」
ダンッダンッダンッ。
リズム良く、小声で何かを呟きながらタコの足を切っていくターニャ。
その度にタコが悲鳴をあげ、血飛沫がターニャのエプロンと顔に飛まつする。
なんか怖いんですけど……。
やがてタコは悲鳴をあげるのを止み、ターニャの包丁を動かす手が止まった。
「ふぅ、切り終えたぞ。」
飛まつした血を拭い一仕事終えた様に爽やかな笑顔を見せる。
だから怖いってそれ。
「さて、ニーナの方はもう出来たか? 」
「うん……いい感じ。」
ニーナが手に持っていたのは銀色のボウル。
その中には何か白い固体じみた液体が入っている。
「うむ、いい感じに仕上がってるな。では次の工程に入ろう。」
ターニャが調理台に備え付けられている戸棚を漁る。
そしてよいしょと何かを持ち出した。
「おいおい、それって……。」




