教えてやろうか、私は今怒っている。
「ターニャっ!」
俺は彼女の方を振り向き、そう叫んだ。
すると、ターニャはフッと俺の顔を見て笑みを零す。
「ほう、新手か。見るところ貴様もエイリアンバスターのようだな。」
パイクもターニャの方を見て。
「さぁ命を賭けた勝負といこうじゃないかっ!」
高々とそう宣言し、口角を上げる。
しかし。
スタスタッ。
「なっ!?」
ターニャはそれを無視したおろかパイクを過ぎ去って歩いていく。
そして。
「ニーナ、偉いぞ。よく頑張ったな。」
「お、お姉ちゃん……。」
傷つき倒れているニーナの傍に寄り、しゃがんでから彼女の頭を優しく撫でた。
「ここで休んでいろ。すぐに終わらせて手当てしてやるからな。」
ターニャは立ち上がりパイク睨みつける。
「勝負がしたいと言ったな。いいだろう受けて立つ。」
「そうこなくてはなぁっ!!」
ダンっ!
パイクが地面を思い切り踏み込みターニャに襲い掛かる。
まずいっ!俺はそう悟った。
ターニャの武器はサイコガン、つまり中距離から遠距離に特化している。
近距離戦に持ち込まれると圧倒的に不利なのだ。
サキュバーナ戦でもそうだった。
「どりゃあああっ!!!」
パイクの拳がターニャの顔面目掛けて振り下ろされた。
「ターニャっ!!!」
このままではニーナだけではなくターニャまでパイクに倒されてしまうっ!
しかし。
シュンっ。
「何っ!?」
鮮やかにターニャはそれを回避した。
そして。
「はぁっ!!!」
ターニャの拳がパイクの隙が出来た腹に一撃を喰らわせる。
「かはっ!」
思わず息を漏らすパイク、その一瞬をターニャは逃さない。
回し蹴りをパイクの顎に一発、そして回転した遠心力を使ってもう一蹴り食らわせる。
思いもしない連撃に一歩身を引くパイク。
口から零れた紫色の血を拭って。
「この俺に素手でダメージを負わせるとは……な、中々やるな。」
「褒めてもなにもでないぞ。」
「くくくっどうやら久しぶりの好敵手のようだ。今度は本気でいくぞっ!!!」
再びターニャに襲い掛かるパイク。
ニーナの時よりもより一層破壊力と鋭さを増した攻撃がターニャに振りかざされる。
しかしターニャはそれをもろともせず簡単に回避、しかも回避と同時にパイクを殴りつけていた。
それは段々とターニャの攻撃する場面が増えてきて、そしてついには完全に形勢逆転した。
「ふんっ!」
力のこもった拳がパイクにクリーンヒット。
パイクはその場でうずくまった。
「くっ何故このような女にこれほどまでのパワーがあるのだ……。」
「教えてやろうか、私は今怒っている。」
ターニャがサイコガンを構える。
「希伊人や妹のニーナをひどい目に合わせたお前にっ!そしてこんな自体を巻き起こす原因を作った私に怒っているのだっ!全身から血が沸き立つ程にっ!」
サイコガンが眩い光を放ちながらも、その光はどんどん大きくなる。
今まで見たことないほどに膨れ上がってる。
「今お前にありったけの怒りをぶつけるっ!喰らえっ!!!」
バキューンっ!!!!
サイコガンから閃光が放たれた。
それは一本の光の支柱のように大きい。
「ぐっ!」
パイクはそれを腕で受け止める。
だが。
「ぐ、ぐぅっ!」
段々と後ろに押されるパイク。
そしてついには。
「ぐはあああああ!!!!」
ドカーンっ!!!
凄まじい爆音とパイクの断末魔が辺りに木霊し響き渡る。
ターニャはそれを見つめた後、傷ついたニーナを抱えてから。
「さぁ帰ろう希伊人、ニーナの手当てをしなくては。」
いつも通り、穏やかで爽やかにニカっと笑った。
ああ、終わったのだ。
これで何時もの楽しい日常に俺は戻れるのだ。
そう思うと頬が緩み涙が自然と零れた。
「ああ、帰ろ」
「待て。」
帰ろう、そう言い掛けた時に遮られた。
思わず声が聞こえた方を振り向く。
パイクが、立っていた。
腕を押さえ、呼吸は荒く、それでも彼は気高く立っていた。
「……まだやる気か?」
抱えていたニーナをそっと地面に下ろしサイコガンを構える。
しかし帰ってきた返事は意外なものだった。
「女、名はなんという?」
ターニャは腕を組み、暫し考えた後で。
「私はターニャブラウス、宇宙の平和を守るエイリアンバスターだ。」
「ターニャブラウス、くくくっ良い名だ。……改めて名乗ろうっ!俺はドラゴ型エイリアンパイクっ!最強の血を受け継ぐ者なりっ!戦場こそ我が聖地っ!戦闘こそ我が生きがいっ!」
猛々しく宣言するパイク。
「ターニャブラウス、貴様を強者と認めようっ!そして次また拳を交える時、俺は貴様を越えて真の強者になるっ!!!」
ブオンッ!
尻尾を振って砂煙を上げる。
その中にパイクは紛れ、そして消えていった。
「逃がして良かったのか?」
「ああ、今はニーナの治療が先決だ。……今度戦う時は必ずしとめる。」
砂埃が晴れ、完全に消えたパイクの影を見据えながら。
こうして強敵パイクとの決戦は幕を閉じたのであった。




