希伊人っ!下がってっ!
ターニャを何とか落ち着かせ取りあえず椅子に座らせた後で。
「はぁー死ぬかと思いやしたぜ。」
葉についている汗を拭うブライヤ。
「ったく急に暴走してどうした?お前らしくもない。」
「あ、ああ。すまない。取り乱した。」
シュンっと肩を落としションボリと椅子に腰掛けるターニャ。
まぁ、気持ちもわからないでもないがな。
俺だって少しマシになったとはいえまだ冷静を装ってるだけで精一杯だし。
つかそんだけ恥ずかしいなら最初からやるなよって話だけどな。
「あの、大丈夫ですかターニャちゃん?」
心配そうに見つめる友子。
「大丈夫だ。問題ない。」
それを虚ろな目で返事をするターニャ。
そして。
「悪いが今日の所はこの辺で失礼するよ。」
フラフラと立ち上がりそのまま力なく図書室のドアを開けて彼女は去っていった。
「お姉ちゃん……。」
ニーナが閉められた図書室のドアを見つめながらポツリと一言呟いた。
「ったく、あの馬鹿は。」
俺の言葉にも返す人物は今この部屋にはおらず、図書室にはただ沈黙だけが佇んでいた。
その日の帰り道、結局あれからターニャと会話がないまま放課後を向かえてしまった。
「お姉ちゃん居なかった……。」
横を歩くニーナがショボーンっと肩を落としながら歩く。
今日はターニャとは帰らない、否、帰れなかったのだ。
そろそろ帰ろうとした時にはもう彼女の姿は無かった。
暫く校門の前で待ってみたが現れず。
なのでニーナと二人で帰っているのだ。
「はぁー、どうしてこうなった。」
茜色に染まった空に呟く。
その呟きに返事は返って来ないがその代わりにまん丸な夕日がどこまでも大きく、街と俺達を照らしていた。
と、その時だった。
「へい、小僧止まれっ!」
前方で誰かが俺を止める声が聞こえた。
俺は言われた通りその場で足を止めて声の主に視線を向ける。
声の主は全身をトレンチコートで身を包み顔はハットを深く被っているためよく見えない。
怪しい、明らかに怪しい。
こんな格好している奴なんて変質者なのか。
それとも。
この場合、普通の人間なら変質者だと断定するだろう。
そう、普通ならば。
だが俺は違う。
別に俺は特別な人間だとかそういう意味ではない。
俺は普通の人間とは違う経験をしているからだ。
俺が考えているもう一つの可能性。
それは。
「お前、エイリアンだろ。」
そう、相手がエイリアンである可能性だ。
確信はないが確証はある。
それは俺がエイリアンに狙われているという事。
それを考えれば変質者とエイリアンに遭遇する確率を天秤にかければ自ずと答えは見えてくるはずだ。
俺は目の前の変質者、もといエイリアンは少し驚いたような仕草を見せてから低く笑い出して。
「バレちゃあ、しょうがなねぇな。まっ元々バラすつもりだったしな。」
ガバッ!
勢い良くコートと帽子を脱ぎ去る。
そして現れたその姿はまるでワニのような大顎に全身重厚そうな鱗で覆われており、おまけに尻尾まで生えていた。
「俺はドラゴ型エイリアン、パイクだ。安藤 希伊人っ!お前を攫っていくぜっ!」
「希伊人っ!下がってっ!」
ザッとニーナが俺の前に立つ。
「ふん、お前が護衛のエイリアンバスターか。情報とは少し見た目が違うが……まぁいいだろう。まずはお前から相手してやろうっ!来いっ!」
グオオオオオッ!!
パイクの咆哮が辺りに響き、鼓膜が破けそうだ。
そんな中、それを開始のゴングかのように瞬発的に飛び出すニーナ。
ここに今、死闘が始まる。




