希伊人にこれ以上触れるのは私が許さんっ!
「行っちまったよ……。おいどーする?」
雑踏の中に消え入ったターニャの影を見ながら俺は友子に訪ねた。
「そーですねぇ。……ほっといていいんじゃないですかぁ?」
「ほっとくっていってもなぁ。」
「クスっじゃあ私達もそろそろ帰りましょうか。」
そう言って残りのドーナツを食べ終え、不敵な笑みを残して友子がポツリと。
「お、おう。」
おかしい、何か絶対におかしい。
俺は不気味とも言える先程からの友子の行動に不安と疑問を残して、彼女に腕を引っ張られる形でドーナッツ屋を後にした。
そのまま暫く、彼女がリードしていく形でショッピングモールを後にして帰宅途中。
終始俺の腕を組みながら笑みを零している友子、やはり何かおかしいので直接彼女に聞いて見ることにした。
「なぁ、やっぱ今日のお前なんかおかしいんじゃないか?」
「えっ?どこがですかぁ?私は別に普通ですよぉ?」
やはりおかしい。
正確に言うとトイレから帰って来た時から何かおかしい。
……まるで別人が成りすましているように。
「……おかしい話するけど、お前本当に友子か?」
俺は本屋でターニャが言っていたある事を思い出していた。
『擬態型エイリアンならありえるかもな。』
擬態型エイリアン……特定の物や人に化けて周囲に溶け込み、対象者を欺いてからゆっくり、ゆっくりと捕食していく生物。
もし、もし今ここにいる友子が実はエイリアン、しかも俺を狙っている輩の一人だったとしたら。
トイレに行ったタイミングで本物と入れ替わっていたのだとしたらこの不可解な状況も理解出来る。
緊張が一気に身体の奥底からじわじわと滲み出てくる。
友子に繋がれた腕からは冷や汗が垂れ、心臓の鼓動も加速してくる。
生唾を飲みながら友子の返事を待つ。
そして、彼女はまたしても不敵な笑みを浮かべてから。
「いやだなぁエイリアンだなんて、そんなのいる訳ないじゃないですか。」
「あん?」
思わず声が出た。
彼女は今エイリアンなどいないと言った。
そんな筈はない、それはありえないのだ。
何故なら。
「……お前、ブライヤの事忘れたのか?」
緊張で喉が震えながらもこの不可解な状況を確信めく一言を口にした。
実際に襲われ、それでもブライヤを最終的には庇って、今も水をやっている彼女ならそんな事を言わない。
彼女は紛れもなく偽者だ。
なら、なら今俺の目の前にいる蔵書宮 友子は……。
「クスっ、クスクス……あははははっ!」
何か枷が外れた様に笑う友子。
そして。
ドンっ!
「おわっ!?」
彼女に強引に倒され地面に伏す。
そのまま彼女が俺に跨る格好になって覆い隠す。
そして。
「クスクスっばれちゃしょうがないわねぇ。」
ぐしゃりと彼女の顔が歪み、そして見る見る内に変形していく。
とぐろを巻いた禍々しい双角に淡い紫の髪の毛、ギラリと光る赤い瞳。
そして何より目を引くのは。
「褐色の女……!」
以前ブライヤが言っていた俺を狙っている女と特徴が一致しているのだ。
「あたしはインマール星のサキュバーナ、クスっ本当はバレないように隙を突くつもりだったのに、中々やるじゃない。」
「お前かっ!俺を狙っているって奴はっ!?」
「クスっそうね、貴方を人目見たときからビビっときたわぁ。素敵な男だってねぇ。」
「なにが目的だっ!?」
「あたし達インマール星人はねぇ、生命の精気を源にして生きているの。好みは色々あるけどあたしは地球人がお好みでね。」
するするっとしなやかな手が俺の制服のネクタイを緩める。
そしてその手はだんだんと下へ伸びていき。
「その中でも年頃の男の子の精気って甘くってね、とっても美味しいの。」
俺の太ももを優しくねっとりと弄りながらその手は俺のベルトへ向かう。
「だから……ねぇ、あたしと良いことしましょ?」
や、ヤバイっ!このままじゃまずいっ!
誰か助けてくれ……!
俺の悲痛な叫びも虚しく、ここは人通りの少ない路地だ。
ここまで計算して彼女は俺をエスコートしたのだろう。
「さぁ、観念してねぇ。……ちょーっとチュウチュウするだけだからねぇ。」
ついにベルトが外され、ズボンを脱がされた。
だ、誰か助けてくれっ!誰かーっ!
「……そこまでだっ!」
凛々しい声と共に眩い閃光が放たれる。
とっさにそれを回避したサキュバーナ、回避したお陰で俺の身体も開放された。
「ちぃっ!良い所だったのにっ!誰よ邪魔する奴はっ!」
閃光が放たれた方をサキュバーナが睨みつける、俺もその方を見る。
だが見る前に俺はその正体が分かっていた。
凛々しくも聞き慣れたその声は、見覚えのあるその閃光……。
「希伊人にこれ以上触れるのは私が許さんっ!」
エイリアンバスター、ターニャブラウスがサイコガンを手に立っているのが。




