名探偵シヴァ・助けて副所長!
1
「はい到着!」
フェニックスの羽根を使用して一秒後、シヴァはディンクの街へと文字通り舞い戻ってきた。正確には冒険者ギルドの横手にある小道。どうやら人気のない場所を自動で選んでくれたようだ。
その空気の読めるフェニックスの羽根はというと、ディンクの街に降り立ったと同時に光の泡となって消えていた。
さて、時間も惜しいしさっさと用事を済ませてしまおうと、ギルドへ入ろうとしたシヴァだったが――その入り口前でぴたりと止まった。
確か今日はリリィが出勤していたはず。往復だけで四日はかかるのに、三日で帰ってきたと知られたら……なんか良からぬことを勘ぐられそうな?
例えば、実はラウブ町に行っておらず、リリィには言えない、いや~んな場所に行っていたとか。
例えば例えば、リリィが知らない女性の所へ顔を出していたとか。
……そう勘ぐられでもしたら………うん、ろくでもないことになるな。
別にリリィとはお付き合いしているわけではないのだが、彼女がシヴァに好意を寄せているのは彼も知っている。シヴァは鈍感系主人公ではないし、そう気取って分からない振りをするつもりもない。
ただ答えを出していないだけだ。とは本人の弁。……それもわりと最低な気もするが。
ともあれ、ああ見えてリリィは結構嫉妬深い。痛くもない腹を探られた上に無実の火傷を負いたくはない。
そんな訳で、姿を見せたくない。
普通なら、居もしない女性の影を疑うよりも道中で何かあったのか心配しそうではあるが、リリィはシヴァの実力をほぼ正確に理解している。
世界最強。
そんな彼が進退窮まる事態に陥ることはそうそうない――というのがリリィの弁。
だから彼女は、いい意味でシヴァの身をあまり心配しない。
そんな彼女だからこそ、ここにいないはずのシヴァがここにいると知れば疑ってくるかもしれない。
結論――やっぱり、姿を見せたくない。
さてどうしよう?
2
「――ってなわけで、ちょっち困った」
「それは惚気なのかい? シヴァ殿」
「いや本当に困ったなーって話だよ?」
副所長の部屋で、テーブルをはさんで向かい合うシヴァとマルクス。
シヴァの話を聞いて、何かをこらえるようにこめかみを抑えて目をつむる副所長。今日も頭痛が痛い(語弊)。
「それでシヴァ殿はリリィ君に姿を見られないよう、前に見せてくれた件の魔法、『スケープ・ゴート』で姿を消してから僕の部屋まで忍び込んできたと……」
そういうことかい? と訊ねるマルクスに、百点満点の答えだと言わんばかりの笑顔でサムズアップのシヴァ。どついたろか。
「まあそれは分かったけども」
「も?」
「ラウブ町へ魔石を受け取りに行ったはずの君が、どうしてここにいるんだい?」
「あ、そういやそこはまだ話してなかったっけ」
「…………」
「いやそんな冷たい目で見なくてもよくない?」
「……シヴァ殿」
「はい」
無機質なその声に、シヴァの背筋が伸びた。
「僕はここの副所した長なのは分かるよね」
「はい」
「それなりに忙しいんだよ」
「すみませんでしたー!」
静かな口調に静かな怒気を含ませた声音には、さしものシヴァも素直に頭を下げて謝った。
「なるほど……誤認逮捕ねぇ」
事のあらましを聞いて、マルクスはふむりと頷いた。
職質で下位ランクの冒険者が高ランクの魔石を持っていたとなれば、それが正当な所持品かどうかの確認がとれるまでの間、詰所あるいは本部まで同行させる――なら話もまだ分かるのだが、それらを飛ばしていきなり犯人扱いした上で尋問はどう考えても異常だ。
しかもシヴァは、ギルド印の入った魔石の保証書を提示したというに。聞く限りだとその保証書の確認すらギルドに取っていないらしい。
マルクスの正直な感想でいえば、ありえないの一言。
ここ通商連合国『ブリタイ』に於いては、大陸中に販路を持つ特性上、各国からの人流の出入りが激しく、しかもその大半が商人だ。
ブリタイで買い付ける者、卸す者を問わず商品が飛び交う。
であれば当然、そこには様々な契約が発生する。
ブリタイが通商連合国と語るように、ここは商業を生業とした国だ。だからこそ、契約書や保証書などの書類関係は尊重・重視されるものであり、軽く扱っていいモノではない。
そうでなければ世界各国の信頼を得ることも、販路も構築できるはずもなく。
しかし一方で、契約にはトラブルもつきものなのも事実だ。
だからこそ、そういったトラブルを解決できるようにと、この国の憲兵隊には他国よりも多くの権限が与えられている。
ただし、冤罪を少しでも減らすためにできうる限りの捜査がなされるよう、通知もされているのだが。であるにも係わらず、シヴァが持っていた保証書は一顧だにされなかったという。
それはなぜか?
「――ふむ、考えられる理由は幾つかあるけど」
殺された被害者が社会的地位の高い者だったため早期の事件解決を狙ったか。
それとも遺族もしくは上層部から圧力がかかったか。
はたまた捜査に難航していて焦っているのか。
あるいはその全ての合わせ技か。他の理由があるのか。
どちらにせよ、一般人からすれば碌な理由ではないだろう。
「ともあれ、シヴァ殿の近況はあい分かった。こちらからラウブ町の冒険者ギルドへと一報を入れて、シヴァ殿の無実を証言させよう」
その言葉にシヴァが喜色を表して礼を言う。
「ただ……」
「なにか問題が」
「いやなに、ラウブ町まで片道三日の道程だからね。その間、シヴァ殿には我慢してもらうことになるけど……いいかい?」
「嫌なんだが?」
即答だった。シヴァの答えに「そうだよねえ」と苦笑で返すマルクス。
「そこで提案なんだけど、シヴァ殿がここに一瞬で戻ってきたその魔道具で、可能ならばウチの職員を一緒に連れて行ってもらえないかな」
そうすれば時間の短縮につながるだろう?
「なるほど、それは確かにそうだ」
フェニックスの羽根はパーティー単位での移動が可能だ。というか、そうじゃないとゲーム内でフェニックスの羽根を使うたびに味方を置き去りにしてしまう。
そんなわけで、職員の一人や二人連れていくのに支障はない。
「ん、オッケー分かった。一緒に行ってもらうよ」
「それは助かる」
シヴァは軽く言っていて、なんならマルクスも軽く返しているが、本来なら超長距離を一瞬で移動する魔道具など夢物語か御伽噺にしか出てこない妄想の産物だ。その使用を軽いノリで決めているこの様を他者が見れば卒倒ものであろう。
しかしてシヴァからすれば所詮ゲーム序盤に出てくる消耗品アイテムであり、所持している数もまだ九〇〇個以上もあるので使っても別に惜しくないのだ。
マルクスもシヴァの性格は、短い付き合いの中である程度把握している。希少な品々(だと思っている)でも必要とあれば出し惜しみしない。
そう理解しているからこその提案で、予想していたシヴァの答えだったから驚きもなかった。
そんなわけで、シヴァはマルクスが手配した信頼のおける男性職員、のっぽのマイヤーとともにラウブ町に戻ることとなった。
「向こうに着いたらあとはマイヤーがやってくれる。では頼んだぞ、マイヤー」
「分かった、色々ありがと。そんじゃ行ってくる。マイヤーさん、俺の近くにいれば大丈夫だと思うけど、念のため俺の肩に手を置いててもらえる?」
未だマルクスの部屋の中でのやりとり。
長距離移動を可能とする魔道具で、遠くラウブ町まで行って、このなにかと規格外のギルド期待の新星たる冒険者を助けてほしいと敬愛する上司から言われたものの、そんな魔道具などあるのかと半信半疑のマイヤーは言われたとおりシヴァの肩に手を置く。
そこではたと気づいた。待て、シヴァは初めに何と言っていた。行ってきます? ここはまだ副所長の部屋だぞ?
嫌な予感がマイヤーを襲っている間に、シヴァはどこからともなく、一枚の大きな鳥の羽根を取り出していた。鮮やかなオレンジ色をした大変美しい羽根だが、なぜ今それを?
「ふむ。シヴァ殿、それが魔道具かい?」
「おうよ。一度行ったことがある場所なら、どこにでも、どこからでも移動が可能だぞ。流石にダンジョン内では使えないけど」
「ほうほう。“どこからでも”と言ってたけど、もしかして僕の部屋から行くのかな?」
マルクスの問いにシヴァはニッコリ笑って「もちろんここから跳ぶ気だゾ」と答えた。マルクスの口元がひくつき、マイヤーの顔が青褪める。
「あ、跳ぶといっても天井を突き破って壊したり、怪我もしないから二人とも安心してくれ」
それを聞いたとして、実際に体験したこともないのに安心できる人がいるだろうか。とはいえ、シヴァはすでに使う気満々だ。止められないだろう。
マルクスにできる事があるとすれば、こちらに助けを求めるように見てくる部下に諦めろと意思を込めて首を横に振るしかない。
(許せマイヤー、これも職務だ。君の犠牲は無駄ではない)
(副所長ー!?)
マルクスとマイヤーが、どこぞのロボットアニメで大気圏に突入してしまった部下と、それを見殺しにした真っ赤な彗星さんのやり取りのようなアイコンタクトをしている間にシヴァの準備が済んだようで。
「よっし、行きますか!」
「――――――――――――っっっ!?!?!?!?」
シヴァとマイヤーの体がフェニックスの羽根と同じく鮮やかなオレンジに輝いたとかと思えば――マイヤーの声にならない悲鳴を道連れに、二人は目にもとまらぬものすごい勢いで天へと昇って行ったではないか。
驚きに目を見開くマルクスは慌てて上を見やるも、そこには何も変わらぬ天井があって。
魔道具を使った残滓なのか、あのオレンジ色の大きな羽根よりは一回りは小さな半透明の羽が何枚も宙に舞っていたが、それもやがて溶けるようにして消えていく。
しばし天井を眺めていたマルクスだったが、ため息を一つ落として業務に戻ったのだった。
3
ラウブ町から数百メートル離れた街道の外れ。そこに空からオレンジ色の光が超高速で降り立った――かと思えば、そこに居たのは青を基調とした全身鎧に身を包んだ冒険者と、見るからにデスクワーカーののっぽな男の二人組み。
シヴァとギルド職員のマイヤーだ。
「ん、リストにあった通り『ラウブ町近郊』に降りたみたいだな」
「ほ、本当に一瞬でラウブまで来たというのか……」
遠くに見えるラウブ町の防壁を眺めながらシヴァ。一方マイヤーの方は防壁を見て絶句していた。
冒険者ギルドでシヴァのスコアの出鱈目さは有名であるしマイヤーも知っていたが、どうやらそれは“知っていた気”になっていただけのようだ。
シヴァが持っていた羽根の形をした魔道具は今、彼の手の中で役目を終えたとばかりに光の粒子となって宙に溶けていった。それでもシヴァは一顧だにしない。
超長距離を一瞬で移動するという破格の性能であり、しかも一回こっきりの使い捨て。
この世界の住人であれば、その性能と使用回数を知れば使わずに家宝に……いや、下手をすれば国に徴収されて国宝に指定されてもおかしくない魔道具。
それを気軽に使ったとなれば、恐らく複数個もっているのだろう。
(そうなるとシヴァはこの魔道具を作れる? あるいは製作者と懇意の関係……いや、これ以上は藪蛇だろうな)
藪を突いて出るのが蛇程度ならば良いが、ドラゴンの類いでも出てきた日にはディンクの街が滅ぶな。と苦笑し、頭を振って思考を切り替える。
今考えるのは、この何かと規格外な男の無実を証明することであって、魔道具のことではない。
「こっからは町まで歩きになるけど、マイヤーさん独りで大丈夫? 流石に捕まっているはずの俺が一緒に行くわけにはいかないし」
一応、魔法あるいはソフトを入れ替えれば光学迷彩で姿を消せるが。
「いえ、大丈夫です。ここら辺に魔物は滅多に現れませんし、治安も良いと評判な田舎です。この距離なら一人でも問題ないですよ」
魔物も賊も滅多に姿を現さず、現れても町の憲兵隊と冒険者で対処できる程度。だからこそ各ギルドに所属するギルド員が少ない町ともいえるが、それだけ平和な証拠でもある。
ともあれマイヤーが大丈夫というならシヴァに言うことはない。
「それじゃ俺は牢屋に戻るよ。悪いけどマイヤーさん、後は任せた」
「ええ、お任せください。遅くても明日のお昼には出られるようにしますので」
「期待してる」
二人は笑ってから別れた。マイヤーは歩き出し、シヴァはフェニックスの羽根で元居た牢屋へ。
シヴァが光の尾となって天に昇っていくのを見ていたマイヤーは苦い笑みをこぼす。
「やはり複数持ってましたか……本当に出鱈目な人ですね」
今から助けるのは、そんな出鱈目の人物。
ディンクの利益面からいっても絶対に失敗はできないと気合を入れ直し、マイヤーはラウブの町を目指して足を進める。
この話、初期のころから考えていて、大まかなあらすじは立てていたもののサスペンスは苦手なので、そういうのが好きな友人に細かいところを考えてもらっていたのです。(Webで小説書いてるのは言ってないですけど)
それがもう数年前。んで去年、デスクトップパソコンがご臨終しまして。
当然データは全てパー。完全にHDDが死んだらしくサルベージも不可。
バックアップもこまめに取っていなかったので残っておらず、現在思い出しながら書く羽目になっているのですが、何せ数年前に考えていたものなので記憶があやふや。
そんなこんなで執筆スピードがガタ落ちになってますし内容も薄くなっているかとは思いますが、どうにか「あなたを犯人はヤス」までもっていきたいと思います。




