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第05話 初めての村と異世界人

 草原を適当に東にひた走ること一時間弱。飛ばしていたドローンのセンサーが集落を見つけたようで、どこからかピピピと効果音が鳴った。

 ゲーム内では自分もしくはドローンが埋めた広域マップに集落等が表示されると、効果音で教えてくれるのだが、その機能も再現されているようで地味に助かる。それにしても効果音はどこから鳴ったのだろうか。不思議現象である。

 相馬(そうま)が端末から広域マップを呼び出すと、確かに集落、というか村らしき建造物群がここから北東の方にあるのが分かる。距離にして十キロ以内だろうか。

 パワードアシスト機能全開で走ればすぐに着く距離ではある。なんせ数分間の制限があるとはいえ、最高速度が時速九十キロなのだから。全速力の馬並みである。

 だが、不用意に近づくのもどうだろう。

 村に住むのが人間ならば良いが、Web小説で読んだような凶暴な亜人種だったりしないだろうか。いや、亜人種に限らずもし盗賊などのアジトだったりしたら……。

 自分の想像に肝を冷やし、ゴクリと唾を飲み込む。

 いくらチートな装備で身を包んでいるとはいえ、相馬はごくごく普通の一般市民である。臆病になっても仕方ないだろう。

 他の問題として、そもそも言葉は通じるのだろうか?

 疑問や不安は尽きないが、だからといってここで尻込みしてたら何のために各ジャンルのゲームを集めてまで来たというのか。

 そう、今の俺はチートなはず。俺は強い! 俺TUEEEだ!

 相馬は自分を奮い立たせる。


「よしっ! とりあえず近くまで行ってから工学迷彩で隠れながらドローンで様子を見てみよう!」


 村に行くかどうかはそれから決めようというのだ。

 本当に締まらない男である。



 上空を飛ぶ四機のドローンは工学迷彩を搭載しているのでステルスモードにし、北東に走っていくこと数十分後、遠くの方に村と、その周囲に広がる田畑が見えてきたので相馬は工学迷彩を起動し、身を伏せてから自分の上空を飛ぶドローンの一機を『端末』で操作して村へと向かわせる。操作といっても脳内コントローラーなので実質、思考による操作なのだが、この男、意外と上手い。

 相馬に操られるドローンが危なげなく村の上空に到達。

 今、相馬の視界にはドローンから届けられる映像が映し出されていた。

 見えるのは村を囲う石垣と、数十軒の木造住宅。どの家も年季が入っているように見えた。ありていに言えばボロい。

 殆どの道は舗装されておらず、土がむき出し。舗装されている道もコンクリなどではなく石畳だ。

 そして道を歩くのは――人間だ。亜人ではない。そのことにホッと息を漏らす相馬。

 だが安心するのはまだ早い。ここが盗賊のアジトだという可能性もあるのだから。相馬は気合いを入れて村人を観察する。

 服装は全員似たり寄ったり。男性はチュニックを身に付け、腰帯を巻き、農作業をしやすいようにか膝下のところで紐を結んでおり、靴は布製に見える。腰から提げている袋は巾着みたいなものなのだろうか。

 女性も同じようにチュニックだ。スカートは足首まであり、腰に前掛けエプロンを巻きつけ、頭には頭巾やスカーフを被っている。靴は男性と同じく布製だろう。やはり巾着袋を提げている。

 男女ともに服の所々にぼろを重ねて着ていることから、この村の生活水準はそれほど高くないのかもしれないと相馬は思った。


(というか、絵画とかで見る中世の農民衣装そのものだな……)


 十四から十五世紀といったところだろうか。

 服装からも彼らが盗賊の類ではなく農民であることは間違いなさそうだ。

 思えば村の周囲には田畑が広がっているのだから、その可能性は高かったのだが。


 とりあえず村人たちの会話を聞いてみようかと、相馬はドローンに搭載されている集音マイクを深刻そうな顔で井戸端会議をしていると思しき女性たちに向けた。

 この集音マイク、とても高性能で向けた方向のみの音しか拾わない。盗聴にはもってこいだ。

 早速マイクが女性たちの声を拾う……が、


『―――、――』


『――? ――――』


(な、何語?)


 何を喋っているのか聞き取れないのだった。

 当然日本語ではないにしても、英語でもなさそうであり、ニュアンスからしてフランス語やドイツ語などでもなさそうだ。

 相馬にそう判断させたのは、恐らく地球人には発音できそうにもない音を所々に聞き取ったからだ。

 ニュアンスとしては「い゛」や「あ゜」だろうか。

 つまりは何を喋っているのか分からない。

 分からないのだが、会話の内容自体は分かる。

 なぜなら相馬の視界の下には、こんな感じで字幕が表示されていたからだ。


―――(それじゃ)――――(やっぱり)?』


――(ええ)――――――――(間違いなく例のヤツよ)――()


 まるで洋画を見ている気分である。


(どうして字幕が? ……あっ)


 首を(かし)げる相馬だったが、思い当たる節があったので、ゲーム内メニューからコンフィグ画面を呼び出し、その中から目的の項目を探し出す。


(あった、字幕表示のON・OFF機能! やっぱONになってる!)


 この機能が働いて視界に字幕が出ているんじゃないかと推測した相馬は、試しにOFFにしてみると……予想通り字幕が消えた。

 再びONにすれば字幕が表示されて会話の内容が分かる。

 これは便利だ。便利なのだが、根本的な悩みの解決には至らない。

 相馬がこちらの言葉を喋れないことには、会話ができないからだ。


(駅前留学の如くリスニングで覚え――って無理か)


 こちらの言葉を覚えようにも、さっき言ったように地球人には発音できない音がけっこうあるようなのだから。

 だがしかし、相馬はここであることに気付いた。


(字幕のON・OFF機能があるなら自動通訳機能も……あった!)


 二十一世紀末現在、世界規模で国際化は進み続けた結果、あらゆるジャンルの規格はほぼ統一化されている。

 それは無論、ゲーム業界も同じであり、ゲーム機もゲームソフトも規格は統一化されており、どこの国でゲームソフトなどを買っても問題なく使用できるのだ。

 それに応じて対応する言語も増える結果となったのだが、それを解決したのが某ベンチャー企業が開発した自動翻訳ソフトだ。

 このソフトの凄いところは、喋っている人の声に限りなく近い合成音を瞬時に作成して相互通訳してくれるところだ。言ってみれば本人がいろんな国の言語で吹き替えをしてくれるようなものである。

 さっきの字幕機能も実はこのソフトの機能の一つなのだ。


 相馬が考えたのはこの自動翻訳機能を使えば字幕無しでも会話ができるのではないか、ということだ。

 現に目の前の自動翻訳機能はOFFになっている。

 相馬はごくりと唾を飲み込むと、OFFからONへと切り替えて、コンフィグ画面を閉じた。

 すると――


『あら、マリーったら可愛そう。まだ新婚なのにねぇ』


『他人事じゃないわよ、まったく。いつうちで出てもおかしくないんだから』


 ちゃんと翻訳がされていた。

 よし! と思うのも束の間、よくよく考えてみたら何で異世界の言葉を翻訳できてるんだ? と思い直す。が、考えても仕方ないだろうとすぐに諦めた。


 会話が聞き取れるようになったので、相馬は字幕機能をOFFにしてからさらに村人の会話を拾うべく辺りにカメラを向けると、剣を持って歩く男性を見つけた。


(おお、剣だ! 一気にファンタジーっぽくなったな!)


 相馬、大興奮である。

 さっそく相馬はその男性のあとをドローンに追わせた。


『ようルカ、見回りご苦労さん。外の様子はどうだった』


『なんにも。魔物の魔の字もないさ。あっても困るがな。これから村長んとこに剣を返しにいってくるんだが、そのあと一杯どうだ?』


『いいね、じゃあ先に店で待ってるよ』


 その後も道行く人から話しかけられ、それに答えながら歩いていくルカと呼ばれた男性。

 そして一軒の家に入り、しばらくして出てきたときには剣を持っていなかった。どうやらここがルカが剣を返しにいくと言っていた村長の家だったらしい。

 今までの拾った会話から、どうやら彼は外を見回りしての帰りだったようだ。

 ルカはこれからさっきの男性が待つ店に行くのだろう。相馬は男の背中を見送った。


(それにしても魔物か。やっぱいるんだな)


 先ほどの会話の中で、確かにそう言っていた。やはりここは異世界なのだ。


「……ってあれ? だったらここにいるのって、もしかして危険?」


 相馬がいるのは村の近くとはいえただっ広い草原である。一応ステルスモードで隠れてはいるが。

 慌てて簡易マップと広域マップを見るも、相馬の周囲に生命の反応はない。ゲームにおいては敵は赤、野生生物は黄色い▲マーカーで表示されるのだ。


「まあ今はマップを信じるしかないか。村に行くのはもう少し情報を集めてからにしよう」


 言って、相馬は再びドローンを操作していく。

 その中で、相馬は洗濯物が入った(かご)を持って歩く一人の女性に目を留めた。

 ぱっちりとした青い瞳。

 小さな唇。

 くすんだ金髪。

 出るところは出て引っ込むところはひっこんでいる女性らしい体。

 相馬の目は彼女に釘付けだった。


(よし、彼女のあとをつけよう。行け、ドローン!)


 まるっきりストーカーである。だがそれを突っ込んでくれる人は残念ながらいない。

 彼女のあとをつけながら、相馬はあることに気付いた。

 誰もが彼女を見ると、距離をあけるのだ。

 そして彼女が通り過ぎたあと、ひそひそと話しだす。いじめなのだろうか?


 こんな可愛い子になんてことを! と独り勝手に憤慨する相馬。

 そうこうしている内に、ストーキングしている女性は一軒の家に入っていく。ただいまと言っていたことから自宅なのだろう。

 ステルスなのをいいことに、相馬はドローンを窓から中を覗ける位置まで降下させた。

 中世風なのに、以外にもどの家も窓はガラスが使われているのだ。そのお陰でこうやって中が覗けるのだが。

 中を見てみると、ちょうどあの娘の姿があった。他に彼女の母親と思われる女性が一人、椅子に深く腰かけているのが見えた。

 彼女は洗濯籠をテーブルの上に置くと、母親に何かしら話しかけている。

 ここで困ったことが一つ。

 窓越しでは会話が聞き取れないのだ。

 村に行く前に彼女の名前くらい知りたいものだと唸る相馬だったが、ふと、字幕機能が使えるんじゃないかと思い、すぐにコンフィグ画面からONにすると、


――――(ママ)―――――――――(ちゃんと横になってな)――――(きゃ駄目じゃない)


『ゴホ、ゴホ! ……|――――――《今は少し気分が良いのよ》』


 声は聞こえないのに字幕が表示されたではないか。便利すぎる。

 相馬はじっと二人の会話に聞き入る。いつどこで彼女の名前が出るか分からないからだ。


――――――――(それでもお願いよ)


―――――(分かったわ)―――(リズ)。ゴホ、――――――――――(お前には苦労かけるね)


――――(いいのよ)――(ママ)


 椅子から立ち上がる母親に手を貸し、そのまま近くのベットに寝かしつけるリズ。

 それを見ていた相馬の中で、リズの好感度がストップ高を迎えた。

 どうやらリズの母親は何かしらの病気のようだ。咳も酷いようだし、常時体が小刻みに震えている感じも受けた。

 もしかしたらその病気のせいでリズは村の人から敬遠されているのかもしれない。


「これは、遂に俺の出番のようだな」


 伏せていた体を起こしながら、まるでゲームの主人公のようなことを言う相馬。ステルスが発動しているのでその雄姿を見ることはできないが。

 だが、相馬とてただ大言壮語を吐いたわけではないのだ。ちゃんと自信があっての言葉なのだ。


 そう、相馬は持っているのだ。どんな病気でも怪我でも治せる手段を。


 そしてそれは――


「エンドレス・ファンタジーⅩⅥの万能薬、エリクサーだ!」

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