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『……あら?』
「ん~?」
ある日、あいも変わらずDEAD OR ALIVEな訓練を終え(ねえ僕が死んだら世界も終わるって本当にわかってる?)、寝床でうとうとしていたら緑龍さ『だ・か・ら、お義母さんでしょう?』はい!すいませんお義母さま!
こほん、うとうとしていたら親愛なるお義母さまが何かに気づいたような声を上げた。
『そこまでかしこまる必要ないのにぃ。気軽にお義母さんて呼んでくれればそれでいいのよ?』
ごめんなさい、無理です(あんた自分の格を考えろや)。
『なんだか副音声がつきそうな感じだけどちょっとずつ慣らしましょうね?』
「はい、お義母さま(敬礼!)」
え?いろいろ態度と言葉がブレてる?お前底冷えする眼差し向けられながら『お義母さん』って呼べっていう巨大生物に逆らえんのか?こっちのことなんて一瞬で消し炭にできんだぞ?
「それで、どうしたの?」
『侵入者……っていうのもおかしいわね。わざわざ黒竜がこっちに誘導してるみたいだし。何か転移されてくるわ』
転移??
『んー、待って…………あら?あらぁ?』
いやいや自分だけ納得しないでほしい。
『人間なんだけどね、人間じゃないのよ』
ニンゲン?
その言葉を聞いた瞬間、僕から真っ黒な憎しみの魔力が吹き荒れた。
ニンゲンハイチゾクノカタキダ。
『だから落ち着きなさい』
ベシッと頭を叩かれた。イタイ。
『言ったでしょ?人間だけど人間じゃないわ。この世界の生き物じゃないもの』
「この世界の生き物じゃない?」
『また人間が愚かな行為をしたってことよ。異世界人を拉致したなんて今は眠りについている神に知られたら一族どころか種族そのものを消されるっていうのに』
「消されたらいいと思うよ」
『一部の愚か者のために全てを憎むことをしてはダメよ?あなたのこころの健康のためにもね』
「……うん。努力はする」
ちょっとシュンとしたら頭ナデナデされた。気持よくて気分がちょっと浮上した。
ところでそのイセカイジン?とやらは結局どこに行ったの?
『あ、忘れてた』
「黒龍様がわざわざこっちに誘導したのなら保護しなきゃダメ……だよね?」
『うーん、保護するかはともかく、会うことは決定ね。転移した場所が場所だし』
なんだか複雑そうな顔してるけど、イセカイジンどこに転移されたんだろ?
『ウルイちゃん、辛かったらお留守番でもいいわよ』
緑龍様の言葉でイセカイジンが村跡に転移されたんだって気づいた。
気づかいはとても嬉しいが、村跡なら尚更僕はいかなければ。荒らされでもしたら世界を滅ぼせる自信がある。なにせまだすべての知識をハウさんに渡していない、その上で僕が自殺すればいいだけだから簡単だ。緑龍様は時々僕が自殺をしないように見張っている気がするんだよね、そんなことしないのに。
取りあえず窪みの中から這い出る。ちょっとよじ登らなきゃいけないのが難点だ。戦闘中緑龍様の攻撃があたって一度木っ端微塵になったのをそのまま使ったのが間違いか。穴が深い。
『うふふふふぅ、よじ登るためにおしりがふりふり揺れる後ろ姿がとってもキュート、大きくして正解だったわぁ』
確信犯!?
思わず緑龍様の方を向いたら前足が滑って窪みにずれ落ちた。もうちょっとで登り終わったのに!
がっくりしてたら緑龍様が拾い上げてくれた。お礼を言うべきか迷うところだよね。
『ふふ、さぁ、行きますよ?』
あ、威厳ある神竜様モードだ。これは逆らわずに従った方がいい。
手招きする緑龍様の懐に入ってなるべく身体を小さく丸める。すると緑龍様から向けられた植物が僕を覆うように包み込み始める。やがて僕の視界完全に植物で塞がれ、少し待つと植物が離れ始める。すると僕の目に映るのはもう緑龍様の住処ではなく僕の村跡――つまりイセカイジンがぽかんと間抜け面を晒している光景だ。浮遊感や振動は一切感じないのに長距離移動してるって何度体験しても不思議な感じだよね。
さてさて間抜け面晒しているイセカイジンとやらを観察してみよう。態度が悪い?そんな当たり前のこと聞くなよ。違う生き物だって理解していても憎悪している奴らと見た目同じなんだからな?僕はまだお子様だから感情のままな態度取りますよ?
話を戻そう。イセカイジンの外見はこの世界のニンゲン共とそう変わりないと思う、中肉中背、髪は黒?光のあたり具合では焦げ茶に見えなくもない。顔に何かつけてて、ヒゲ生やしたおっさんだ。この世界の服とは違うけどなかなか質の良さそうな服を着ていて、うえに白いローブ?みたいなものを羽織っていた。口になんか加えてるけどぽかんとしていて今にも落ちそうになってる。
『あらやだ好みのタイプ(ぼそっ)』
密着していた緑龍様から不穏なセリフが聞こえた。顔を見たら完全ロックオン、獲物を見る目つきでした。見なかったことにしようとオモイマス。遊ばれるであろうイセカイジンに合掌。