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『まったく、ウルイちゃんの事といい、イツキのことといい、今回といい、あの国所属のニンゲンってろくな事しないわね』
「あいつらまた来ると思うぞ?」
『あら、この森は誰のものだと思っているのかしら?』
「どうでもいいけどそろそろ僕成長期だから移動するよ?」
「は?」
『あらもうそんな時期なのね~』
属性を増やすためのスパルタ特訓の時期なのですよ。
現在僕の視界に映るのは木と泉と火山の煙――――ここは赤龍様が住む火山の麓の森のなかです。
元いた場所からはかなーり離れています。どれくらい離れているかというと……なんと大樹が見えません。
「いやいや、天に届く大樹が見えないってここどこだよ?」
「んー?大樹の反対側?」
『日本とブラジルの関係ね』
「なぜ日本とブラジルの位置関係を知ってる!?」
『神竜に不可能はないのよぉん』
黒龍様に頼んで幻想空間から情報引っ張りだしただけでしょうに。……あれ?実は神様に合わなくても黒龍様に頼めばイツキってイセカイに帰れるんじゃね?
ちらっと緑龍様を見る、イツキをからかって遊んでいる、ものすごく楽しそうだ。しかしこっちを見る目が笑っていない、余計なことしゃべるんじゃねーぞとその目が語っている。ここは何も気づかなかったことにしよう、うん。僕はここに修行しに来たんだもん。余計なことは考えなーい。
「さてと、そろそろ属性増やしに行ってくる」
『ご飯までには戻ってくるのよ~』
移動で一日かかっるっての。
「蜜月でも楽しんでてよ」
『まぁv』
「素晴らしく嫌な予感が!俺もついてくからな!?」
慌ててイツキがついてきた。緑龍様から舌打ちが聞こえてきた。イツキは震えている(笑)
『いってらっしゃぁい』
緑龍様、おふざけに拍車がかかっているなぁ。イツキはまだ震えている(笑)
森を抜けてしばらくするとゴツゴツとした岩だらけの道に出た。さらにすすむと火山に付く予定だ。
「あっちぃ」
「火山だからね」
「周りは岩だらけだし……飯や水は森のなかで採取してきたからいいとして、ここじゃどんな奴が出るんだ?」
「火蜥蜴とか岩とか」
「火蜥蜴はなんとなくわかるが岩?」
「岩」
僕の言葉に呼応したかのように周りの岩が宙に浮いてこちらに向かってきた。
「岩ー!!?」
僕は華麗にひらりと交わして着地、イツキは……まあお察しください。取りあえず生きてます。
「なんだあれ!生きてんの?生きて動いてんの!?」
「えー?生きてるのかと聞かれるとなんとも答え様がないなぁ」
なんせ意思疎通できないし。岩だし。
再び中に浮かび、こちらに向かってくる岩達。僕の武器は牙と爪だし(魔法を除く)、イツキは丸腰だ。まあ武器があっても岩相手に通用するとは思えないし、ここはさっさと逃げるが勝ちだろう。
「イツキイツキ、種から植物はやしてアレの動き止めて」
「止めろって言われてもっ、ああああ『壁を作り捕らえろ』!」
イツキの叫びにあわせて投げた種から植物の蔓が一気に成長して壁を作り、向かってきた岩を受け止めて更に巻きついて動こうとする岩を阻害する。徐々に蔓から岩が離れようとするが僕らが逃げる時間稼ぎには十分だ。
「今のうちに全速力ー」
「ぜぇぜぇ」
浮かぶ岩地帯から何とか抜けたあと、イツキはその場にへたり込んだ。体力ないなぁ。
「はぁはぁ、お……まえ、運動不足のおっさんの体力……はぁ、なめんな……はぁ」
「ここに来て結構経ってるじゃん」
「地球とこっちじゃ基礎体力が違うんだよ。ようやくこっちの一般人……は結構あるか、運動しない王侯貴族くらいじゃねーか?」
「ニンゲンの体力基準はよくわかんないけど……足手まといなことはよくわかった」
「ぅっ面目ない」
しかしここでこれってまずい気もする。この際イツキの訓練もしっかりやるか?
赤龍さまの領域に入れば危険な奴は出ないし、火山は結局のところ山だから標高は高いし……うん、いいかもしれない。
「とりあえずあれ仕留めようか」
「おお、あれが火蜥蜴か?結構デカイな。なんか炎まとってて姿よくわかんねぇけど」
火が消えたらただのでっかいトカゲだよ。
火蜥蜴は火山に完全に適応したトカゲで、適応しすぎて火をまとっちゃってる。
あれで草食……と言いたいけどしっかり肉食です。基本的には岩の隙間に隠れている虫を食べるんだけど火山に迷い込んだ動物も食べる。つまり僕らもあいつにとっては餌です。
「食うか食われるか、壮絶な野生の世界なのさ」
「いや、お前草食じゃん」
「え?僕雑食だよ?果物のほうが好きなだけで」
「あ、マジで?だよな。狐なのに草食とか変だと思ってたわ」
「世界樹の実を食べてると他の栄養素って必要ないんだよね。何事もなければ一生果実だけで済んだのに」
愚痴を言いつつウンディーネにお願いして空気中の水分を集めてもらう。火山地帯なせいか熱湯が集まった。
「風呂には困んねぇな」
「魔力すごく使うからめったにやんないよ」
火蜥蜴がすっぽり入るほどの水じゃなくてお湯が集まったので無駄にならないようしっかりコントロールそて火蜥蜴にぶつけ――――避けられたー!
「このやろ!ちょこまか動くな!」
「いや動くだろ」
火をまとっているせいで植物は使えない。よってイツキは完全に傍観に回っている。
「~~~こっの、『囲め!』」
ウンディーネを解除してシルフで火蜥蜴の周囲に風の壁を作り出す、火を巻き込むが風が止むことはなく、やがて火蜥蜴の悲鳴が聞こえ風がやんだ。
「おお、火蜥蜴のステーキが出来上がっている。行程を考えると非常に残酷だな」
「不可抗力だ、わざとじゃ無いんだ」
風がやみ、火が消えたあとに残ったのはイツキの言うとおり、輪切り(シルフの効果)にされ、こんがりと焼けた(もともとまとっていた火の効果)火蜥蜴の死骸だった。




