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 一番初めのお試し魔法(ただし最重要)が失敗の結果に終わったイツキはしばらく引きこもりになった。


「そうかこれが『ニート』か」

『自分が説明した言葉を身をもって再現するなんて教師の鏡ねぇ』


 僕と緑龍様は集まってイドバタカイギだ。何処で?そりゃもちろんイツキの寝床の真ん前さ。


「それとも『ヒモ』?だっけ?」

『彼女や奥さんに養われるダメ男の総称ね!』

「奥さんどころか子供に養われてるけどね!」

「俺はダメ男だが妻子持ちになった覚えはなーい!!!」


 かぶっていた布団(緑龍様作成)を投げ捨てて脱☆ひきこもりを果たしたイツキはそのまま緑龍様に近くの泉に投げ捨てられた。しばらく引きこもっていたせいでジメッとした臭いしてたもんねぇ。


 泉から戻ったイツキはさっぱりとした姿になっていました。なんだっけ?セッケン?引きこもる前に作ってたやつだしもうよく覚えてないけどなんか身体を綺麗にしてくれるんだって。チキュウにいた時リカ?のジッケン用に作り方調べたとか言ってた。……そんなの作る余裕があれば引きこもらなくていいんじゃないかと思う。


「あ゛~、さっぱりした。やっぱ植物性の石鹸は臭いがなくていいわ。アリーさまさまだな」

「海に浮いてるヌルヌルしたやつ(※海藻です)とか、果物の汁と違ってドローっていうかぬるっとした汁(※油です)とかでなんであんなのが出来るの?」

「んぁ?海藻を燃やした後の灰を煮ると汁がアルカリ性になってそこに油を投下すると鹸化っつー化学反応を起こして…………分かってないな?」

「さっぱり」

「……できるからなる。そう覚えとけ」

「うん」


 僕が疑問を投げかけてイツキがそれに答える、いつの間にか出来上がっていた交流だ。ただし逆の場合もある。イツキはこの世界というかこの森のことをよく知らないから時々ヘマをするんだ。緑龍様も忙しくてあまりここにはいないしね。


 最近だとここからずっと離れた北の森が不穏な空気でちょこちょこ様子を見に行ってるようだ。ニンゲンとエルフがどうのこうの言ってた。


 エルフは人間そっくりな姿をした生き物だけどニンゲンじゃない。緑龍様の眷属で妖精の一種らしい。なんでニンゲンの姿をしているのかといえばエルフは森の秩序を守る妖精だからだ。ある魔物が増え過ぎたら間引いたり、ある植物が絶滅しそうだと繁殖させたりしていて、仕事には迷い込んだニンゲンを保護もとい、森から追い出す作業も入る。自分たち以外は問答無用で殺しにかかってくるニンゲンを相手にするにはニンゲンと同じ姿をしているのが一番効率がいいのだそうだ。


 ただ、緑龍様の眷属なだけあってニンゲン視点で見るとなかなかに美しいのもが多いらしく、違う意味で危ないと愚痴っていた記憶がある。

 まあ彼らがニンゲンに捕まることなどありえないけど。僕らと違って彼らの本体は森そのものであり集落なども作っていない。つまり、エルフが住んでいる森に行って呼べばその辺の木や草の中から突然現れるのだ。


「そんなわけでこの森のエルフさんです」

『どもども!ウルイさんに紹介されやした!エルフっす!』

「エルフのイメージ!!」

『ニンゲンなんかのイメージなんて知りませんわ、うちらはうちらっす』

「それでなんの用かな?」

『あ、そうでした!緑龍様お出かけしてて困ってるんですわ。契約者さんコンタクト取れませんかね?』

「「困ってる?」」

『ニンゲンですわ。なんかその辺の奴らと違って変なんですわ。森の外に誘導しようとしてもさっぱりで。あれ、異世界人じゃないっすかね?』

「「!?」」


 僕はニンゲンという単語に、イツキは異世界人って単語にそれぞれ固まった。

どちらにとっても禁句というか接触は当分禁止されている、これは急いで緑龍様に連絡しなきゃマズイか?


「今どのへんにいるんだ?」

『まだ入り口ですわ、でも奥に来ると思います。その……たぶんウルイさんを探してるんで。天狐って単語が聞こえましたから』

「……へぇ?」

「あれ?なんかものすごく寒いぞ?ははは」


 それは僕から冷気が物理的に出ているからです。

水と風の属性が一番高い僕は感情が高ぶると辺りが凍る。これは僕の魔力の属性変換がうまくなった証拠だから成長具合としては喜ばしいが、この現象が起こるほど感情が高ぶる状況は決して歓迎できないと緑龍様が言ってた。

 実際植物の属性しか持たないイツキやエルフは冷気に耐性がなく寒さに震えることしかできていない。

僕は深呼吸を何回かして魔力を押さえつけた。イツキもほっと息をつく。


「ウルイ、アリーには俺が連絡するし対応なんかも俺がする。お前は奥に引っ込んでとにかくそれを落ち着かせてろ。エルフが半分凍ってるし」

『自分ら本体植物っすから……あ、すんませんが解凍してくれませんかね?これ動けませんわ』

「ごめん、安定してないだけで火も使えるけど今やると危ない気がする」

「あー、それも俺がやっとくわ、泉につけときゃ溶けっだろ」


 僕は緑龍様の寝床のさらに奥、大樹の虚に引っ込んでひたすら魔力を押さえつけながらふて寝し続けることになった。イツキがようやく引きこもり終わったのに今度は僕が望んでもいないのに引きこもる番になるとは本当に迷惑な侵入者だ。

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