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地底に存在する世界    作者: 風鳥 紀乃
地底世界
7/22

ここは、どこ

 水の流れる音、小鳥の鳴き声。


 体が落ちていく。あっ! ミミ! まって!


 目が覚めた。


「あれ? ここ、どこ?」


 見慣れない天井。フワフワとした布団。ここはどこだろう? 確か、山にいたはずだ。そして、石につまずいて……。その後の記憶は、無論ない。いつの間にか、気を失っていたみたいだ。

 上体を起こして周りを見る。木の家、ログハウスのようだ。窓は大きく開け放してあり、外の様子がはっきり見えた。外は、妙に殺風景で、自然だらけだ。人工物が少ないのだ。空に向かって、何か虹色のパイプが伸びている。こんな景色は、見たことが無い。

 ここは、どこ?


 ガチャ。

 

 反射的にドアのほうを向く。腰まである白い髪を一つに束ねた、母さんくらいの年の女の人だ。


「おはよう、ごめんなさい。まさか起きているとは思わなくて……」

「いえ……」


 目元が、母さんに似ている気がするが、気のせいだろう。それよりここは、どこだろうか? 服装からして、日本ではなさそう。服は、布をかぶり、紐で止めたような形だ。生地もざらざらと、していそうな見た目である。


「あの……、ここは、どこですか?」

「ラフェイ。外の世界で言うと、地底世界と言う意味」


 地底にしては、ずいぶんと明るい気がする。頭に疑問符が浮かぶ。


「そして、あなたは、あそこのコルから出てきたのよ」

「……コル?」

「うん、この窓から見えるでしょう? 虹色に輝いているやつよ」


 …………。えっ……。頭が付いていかない。現実で、このようなこと、起こりうるだろうか? もしかして、夢なのだろうか?

 痛い! 

 布団の中で、こっそり、足をつねってみたが、痛かった。現実なんだ。

 女の人をそっと見ると、目が合う。すると、耐え切れなくなったように、クスクス笑い始めた。


「信じられないかもしれないけど、ここは、現実にある世界よ。そんな、確かめなくても良いのに」


 ばれていた。足をこっそり抓ったことが、ばれていた。顔が熱くなってくる。はたから見たら顔は真っ赤になっているだろう。


「まぁ、落ちてきたときのことは、覚えて無いから、しかたないわね。あっ、そうそう、自己紹介がまだだったわね。パテラといいます。これから、よろしくね。沙箜」

「はい。こちらこそ、……えっ、どうして……名前を? それに……これから……ですか?」


 返事をしたものの、おかしな部分に気づく。


「ええ、これからです。ここは地球の中にある世界なの。一度入ってしまったら、この姿で帰ることは、ほとんど無いわ。唯一つだけ、あったのだけど……」

「……じゃぁ……」


 帰れないの? 

 パテラの表情を見ていたら、喉まで出ていた言葉が戻ってしまった。目は厳しく、どこか遠くを見ているようだ。


「まぁ、とりあえずは、ここ私たちの家で暮らすことになるわね。あとでこの世界を息子に案内させるわ。ティエラでは、ずいぶん、仲良かったみたいじゃない。じゃあ、また後でね」

「あ……」


 少女に向かって微笑むと、パテラは行ってしまった。ドアの閉まる音が部屋に響く。

 聞きたいことが、沢山あるのに。ティエラって、どこ?

 夢では無いということは、この世界は映画の撮影とか、ドッキリだとか思えてくる。けれど、こんな大掛かりなことをするだろうか? 田舎の娘に? 無論無いだろう。ありえない話である。なら、先程パテラが言っていた事は、本当なのだろうか?

 自問自答しても、答えられない。少女は、思考を放棄した。まずは、今を何とかしよう。この世界を良く知ってからまた、考えれば良い。


 コンコン。


「失礼しまーす」


 若い男の子の声だ。先程、パテラが言っていた、息子さんだろうか?


 ガチャ。


 ドアが開くと、パテラと同じく、白い髪の少年が立っていた。目がくりくりしており、幼さがまだ残っている。年は、同じくらいに見える。


「母さんから目が覚めたって聞いて。良かった、沙箜が無事で。思ったより、長い時間眠っていたから驚いたよ。この世界に来た負担が大きかったからだって、医師は言っていたけど、心配だったんだ。話すのは初めてだから、はじめましてで良いのかな? 僕のこと分かる? この世界で僕の名前は、カワン。東方学校の一年。あっ、東方学校というのはね、東方ラフェイ魔法学校の略。この世界は魔法があるんだ。後々説明するよ」


 頭がついてこない。と、いうか、誰? 会ったことは、無いと思う。こんな、男の子は知らない。


「あの、……まだ誰だか分からないのですが……」

「あててごらん」


 少年カワンは、人の良さそうな笑顔で笑っている。本当に誰だ? 白い髪の人はご老人くらいで、こんな若くて、白い髪の人は知らない。


「ヒントは……、好きなティエラの動物は、兎だよ。これで分からない?」


 うさぎ、ウサギ……、白い髪、兎。……白い毛……? あっ、白い兎! ……えっ、と、いうことは……。


「……も、もしかして……、ミミ?」


 少年の笑みが濃くなる。


「うん! 大正解! まぁ、この世界では、カワンって呼んでよ。人の姿だとミミはちょっと」


 ミミ、いや、カワンが言った。


「分かった。カワン、よろしく」

「うん」


 まさか、ミミだったとは。確かに男の子で『ミミ』は可哀想だ。だけど、兎が人間になるなんて。あっ、逆かな? 兎の姿になっていたのか。それに魔法学校と言っていた。魔法が使えるようになるのだろうか? 楽しみだ。

 しかし、もう家族に会えないのは寂しい。パテラが先程言っていたが、本当に帰る方法は、ないのだろうか。カワンは、ずっとこの世界について語っている。しかし、考え事をしている沙箜の頭に、内容は入ってこなかった。


「最後に、何か質問したいことはある? あっ、学校のこと以外で」


 カワンは一気に語ると、そう尋ねてきた。何でも良いのだろうか、今一番気になっているのは、元の世界について。


「あ、あのさ、もう、家族に会えないの?」


 沙箜がカワンの目を見ると、目を逸らされた。不安が膨らんでいく。


「……本当に、会えないの? カワン?」

「あのね沙箜、帰るためには、王宮のコルを昇っていかなきゃいけないんだ。でも、コルを起動させる石がこの前、割れてしまって、今は、帰る道だけ閉ざされてしまったんだ」


 目の前が暗くなった。少年は、おろおろしながら、口を開く。


「だ、大丈夫だよ、この世界も楽しいよ。みんなで、仲良く暮らそう。そして、一緒に帰る方法を探そう。この世界も広いんだ。どこかに、帰る方法があるよ」

「本当に? 本当に帰れる?」

「……うん、たぶん、大丈夫だよ。心強い知り合いがいるんだ、今度会いに行こう」


 カワンの言葉には不安が残るが、少し元気が出てきた。絶対帰れないわけではない。これから探していけば良い。

 一筋の光が、目の前に差し込んだ。じっとしている暇は無い。少女は口を開く。


「……今からできることはないの?」

「うーん、まずは、学校で学ぼう。魔法が使えれば、この世界では色々と動きやすくなる」


 よし! 学校だ。学校に行こう。


「わかった! じゃあ、学校に行こう!」


 呆気にとられている、カワンをそのままに、沙箜は布団を跳ね上げ、ベッドから降りる。


「ぁ……」


 立ち上がったとたん目眩めまいがした。尻餅をつきベッドに後戻り。ハッとしたように、カワンが近くまで来て、しゃがみ目をじっと見てくる。おやつを要求する時と同じように。


「おやつが欲しいなら、今は持っていないよ?」


 カワンは首を振った。


「違う。おやつはいらない。沙箜、今日は、休日だ。だから学校には行けない。それに、まだこの世界に来たときの負担がたまっているはずだ。今だって、目眩が起きたんだろう? もっとしっかり眠って疲れを取れ。学校は完全に回復してから、手続きをする。沙箜がいなきゃ、手続きは出来ないから」


 まるで、小さい子に言い聞かせるような口調だ。もう高校生なのに、この扱いはひどい。


「わかったな。だから、ゆっくり休め」

「…………」

「わかったか?」

「……はい」

「よろしい」


 小さな抵抗はむなしく、ミミの目、いや、カワンの目には勝てなかった。


 少女が大人しく、布団に入るのを見届けると、少年は、そっと部屋を出て行った。後で、少女が好きな、本でも持って来てあげよう。と、考えながら。

次は、家の外へ行きます。

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