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地底に存在する世界    作者: 風鳥 紀乃
日常
6/22

光のもとへ

 ハァー。


 放課後になると、留美は一番に教室を出ていった。多分、部活だろう。あんなに熱心になれるなんて、すごい。体操って、どんなスポーツなのかな? お昼休みはあまり時間がなく、話が聞けなかった。次は沢山話を聞こう。

 沙箜は、一人で帰路につく。鈴帆ももちろん部活だ。「沙箜、また明日!」と言って、先程走って教室を出ていった。結局今日は、鈴帆に留美についてのお礼を直接言えなかった。明日の朝はお礼を言おう。


「次、停まります」


 ボーと考えていたら、あっという間にバスは村の中に入っていた。村にはいる道は一本しかない。もっと沢山あればいいのにと、いつも思う。家の裏山方面に一つ道があれば、30分くらいで帰れるのに。あっ、でも裏山に道はいらない。自然の遊び場が狭くなっちゃう。

 気がついたら、バスは家の近くまで来ていた。


「ありがとうございました」


 定期を見せて、バスを降りる。生暖かい風が気持ち良い。そして、周りがとても明るい。

 ふと山を見ると、光がまっすぐ上に向かって伸びていた。家の裏の山からだ。頂上近くから伸びている。この光は学校にいるときに発生したものだ。虹色に見えるこの光は、学校にいたときより濃く強く光っているように見える。周りを歩いている、近所の人々はいつもと同じ様子。ここでもやはり、光が見えているのは沙箜だけだった。早く山に行って光の出所の様子を見てこよう。少女は、帰路を急いだ。


「ただいま!」

「お帰り」


 今の時間は、公優はまだ学校である。家に帰ると、母さんは台所に立っていた。


「母さん、何作ってるの?」

「よもぎクッキー。沙箜も手伝ってくれる?」


 これから、山に行くのだ。手伝う時間はない。


「今日は予定があるから無理。また今度ね」


 こないだも、このように言って断った気がする。まあ、いいか。


「そっかぁ、じゃあ、公優に全部食べられないように、できたら分けておくね」

「うん!」


 母さんのよもぎクッキーはとても美味しい。だから、いつも取り合いだ。残してもらえるのはありがたい。


「行ってきます」

「いってらっしゃい」


 制服から着替えて、靴とタオルを鞄の中に入れると、沙箜は山に向かった。


「あれ?」


 山道は、いつも以上に静まり返っていて不気味。木々の風で揺れる音も、鳥たちのさえずり声も、動物たちの動く音も、何一つ聞こえない。聞こえるのは、少女の足音だけだ。


「何があったのかな」


 こんなに静かだと、余計不安になってくる。気のせいだろうか? いや、やっぱり、いつもと違って、とても静かだ。早くテントへ行こう。広場までの道のりが、いつもより長く感じた。


「ミミ」


 よかった、ここは何にも変わっていない。

 ミミは、川の水を舐めているところだった。声をかけるとこちらを一目見て、駆け寄って来る。そしてジッと、少女を見上げた。これは、いつも通りおやつの要求だ。


「人参食べたいの?」


 上目遣いで、一羽が見上げてきた。しばしの沈黙。


「これだけだよ、あとは休憩の時にね」


 先に折れたのは、沙箜だった。畑から、人参を抜き取り、川でサッと洗い半分に折る。そして、ミミの前に置いた。本当にいつも通りの光景だ。

 ミミが、いつも通りだったことに安心したが、光は出現し続けている。いつまであるのか? もしかして、ずっとこのままなのか?

 意を決して少女は提案することにした。


「ねぇ、ミミ、今日の冒険はね、あの光の方へ行ってみようと思うの。ミミは見える? あの光は、なんなのかな? 気にならない? 他の人には見えていないんだよ」


 クラスの皆は見えていなかったが、ミミは光が見えているらしく、あの光と言うと空を見上げた。やっと見える子発見。自然と顔がほころんでいく。


「だからね、あそこに行ってみようっ!」


 少女が立ち上がると、ミミは光の方角へ足を歩ませた。賛成してくれたようだ。


「あっ、ミミちょっと待って」


 テントから、荷物を持ってこなくては。

 沙箜は、テントに駆け込み、リュックと、時計を持つ。ふと、外を見ると、ミミは止まって待っていてくれている。

 急いで追いつき、少女は口を開いた。


「お待たせ、じゃあ、行こう!」


 出発だ。

 光の根元は、どのようになっているのだろう。気になる。そして、何があったのか、知りたい。気持ちは、冒険心で高まるばかりだ。


「あっ、そうだ! あのね、今日学校で新しい友達が出来たの。体操部なんだって。松永留美ちゃんっていうんだよ」


 ミミに今日の学校の出来事を報告。ミミは少し前からこちらを振り返り、何かいいたそうにじっと見てきた。続きが聞きたいのだろうか?


「すごいんだよ。授業が終わったらまた話そうとしたのだけど、すぐに部活に行っちゃった。明日は、もっと話すんだ。あっ、もちろん、森に早く行きたいから、今まで通り早く帰るようにするよ。だから、いーっぱい遊ぼうね」


 ミミは立ち止まり、こちらを向き、強く瞬きした。納得してくれたみたいだ。ミミは話せないが、こちらの言葉を、しっかり理解してくれる。あぁ、ミミと話してみたい。話せたら、面白いだろうな。


「あそこかな?」


 静かな森を歩いていくと、石の壁に突き当たった。以前はこんなものはなかった。いつ、出来たのだろうか? 人は、この森に入っていないはずだ。入り口は、家の裏しか無いのだから。まぁ、考えても仕方が無い。とりあえずは、光だ。光はこの壁の向こう側から延びている。木に登れば、越えられそうな壁だ。ちょうど、壁の近くに、壁を越えやすい位置に枝がある、木があった。


「ミミ、おいで」


 少女がリュックを広げしゃがむと、ミミは心得たようにリュックに潜り込んだ。木に上ったら朝と同じだ。少し壁より高く登ると、木からぶら下がり、手を少しずつ移動させながら石の壁に足をかける。上は思ったより幅がありしっかり立つことができた。風が体を吹き付ける。


「うわぁー。ミミ、ここだよ。あったよ、根元。早く行こう」


 光の根元発見。奥にまた石の壁、ごつごつとした壁があり、その真前のところ、そこから光がでているようだ。


「とぉーっ!」


 強く前へ蹴って着地。壁の向こうは、なんと、雑草の広場だった。小さな花も所々に咲いている。

 着地の衝撃で、ジーンと足に負担がかかる。


「いったーぃ」


 足がジンジンする。高いところから飛び降りた上に、ミミの体重が加わったからだ。そういえば、ミミを背負ってこの高さから飛び降りたのは初めてだ。

 ミミは大丈夫だろうか。リュックを前に背負い直し、中をのぞくミミは、リュックの中で小さく丸まっていた。反動が少し大きかったのだろう。小さく震えている。


「ごめん、ミミ、大丈夫?」


 リュックをそっと下ろし、ミミを撫でる。すると安心したのか、徐々に震えがおさまり、終には、リュックから出てきた。そして、周りを一度見渡すと、突然迷わず光の根元へ駆けていく。


「えっ……」


 さっきまで震えていたとは思えない。


「……っ! ちょっと待ってよー、ミミ!」


 少女はリュックを背負い、急いでミミの後を追った。

 さすが、兎。速い速い。距離がすぐに離されていく。ミミは、目的地にたどり着くと、その周りを駆け回った。


「はぁ、はぁっ、ミミ、速いよぉ」


 息切れしながらたどり着くと、ミミは止まり、少女を見上げた。何だかとても嬉しそうだ。反対に少女は、とても疲れた様子だった。

 しかし。


「うわぁー。すごい! ミミ、これどうなっているのかな?」


 光の根元を見たとたん、少女の疲れは吹き飛んだ。

 石のずれた隙間から、光は出ていた。石には、不思議な文字が描かれており、七色のインクで、丸や三角などを組み込んだ、おかしな図も書いてある。そして、何より全く汚れていなかった。こんな草むらの中に在るのだから、土が付いていて、少し茶色っぽくなって、ざらざらしている。それが、普通ではないのか。


「あっ……」


 少し触れただけで、大きく動いてしまった。もちろん、光も強く、太い柱のようになる。戻さなければ!


「っ! ミミ!」


 ミミが突然光の中に、足を踏み出した。そして。


「えっ! ミミ!」


 足が光に触れたとたん、ミミが消えた。


「ミミ! ミミ! あっ……」


 勢いよく立ち上がったとたん、文字の書いてある石につまずいた。もちろん、顔は光に突っ込み……。

 沙箜の目の前は、真っ白になった。

次は、異世界です。

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