不思議な光
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キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン
予鈴だ。すぐに教室に行かなければ! 沙箜は急いで、本を閉じた。
一時間目は、漢字テストだ。教室に行くと、鈴穂は既に席に座り、漢字の練習をしていた。さすが、鈴穂だ。学年十位以内のことはある。少女は、鈴穂の前の自分の席に着く。そして、時間は過ぎていく。
「おい、沙箜」
後ろから、鈴穂が突っついてきた。
今日の難所である、漢字の小テストも無事終わり、あと少しでお昼だ。お昼は、窓の外を眺めながら、いつも一人で食べる。学校で話すのは、幼なじみの鈴穂だけだ。鈴穂はお昼は、サッカー部の仲間たちと食べている。だから、一人になってしまうのだ。
入学式から、一週間くらい風邪で休んでいたら、グループが出来てしまっていた。元々人見知りだった沙箜は、誰にも話しかけることができず、とうとう五月になってしまったのだ。
「沙箜、聞こえるか?」
「うん? なあに?」
視線を窓から外す。唯一教室で話しかけてくれる友達だ。大切にしなきゃ。
「前、先生」
幼なじみは、小声で後ろからこっそり教えてくれた。
前を見ると、先生と目が合う。このクラスを受け持つ化学の先生は、この学校の中で、特に生徒から恐れられている。張り詰めた空気を、体から出しているような先生だ。この先生の時は、みんな静かになる。
「忍霧さん、氷から水蒸気になる状態を何と言うでしょう」
もう一度、問題を言ってくれたらしい。感謝の気持ちを込め、急いで教科書をめくり、答えを探す。後ろからため息が聞こえたが、気のせいだろう。
「昇華です」
「正解。昇華は、ヨウ素やドライアイスにある。ここ、重要だから覚えて置くように!」
危なかった、先生に注意される前に、教えてもらえてよかった。
鈴穂にお礼を伝えるため、紙に『ありがとう』とただ一文書いて、後ろの机に置いた。カサカサ音がしているから、気がついたのだろう。
たったの、『ありがとう』でも、少女にとっては勇気のいる行動だった。
「黒板写したか? 次いくぞ!」
気がつかないうちに、黒板に沢山の要点が書かれている。ノートに取ると間一髪。先生は、書いてある文字を一句残さず消してしまう。そして、新たな要点を、書き始めた。
残りの授業は、十分ほど。このくらいなら、終わってから書き写しても大丈夫だろう。なんなら、昼休みに、携帯で写真を撮って後で、ゆっくり写すのもいいかもしれない。
後で写せるなら、今は外を見ていたい。だから再び外を見る。
ここからは、家の裏の山はビックツリーの先しか見えないが、鳥が飛び立ったり、空の色が変わったりと見ていて飽きないのだ。今だって、鳥がビックツリーのほうから、一斉に飛び立った。そして一瞬、空が白くなる。
えっ? しろ?
突然、光が、虹色の光が、ビックツリーから、いやビックツリーのほうから、天へ伸びた。
「えっ、なに? あれ」
ポーカーン。音が付くとしたら、このような音だろう。口をあけてボーっとしてしまった。
なんだろう?
現実?
目を見開いてみたが、消える様子は無い。逆に濃く、はっきりとしてきている気がする。
「ねぇ、鈴穂あれがなんだか解る?」
授業中だったが、思わず話しかけてしまう。先生は、黒板に昇華の絵を描いている。生徒のほうを見ていないから、今なら大丈夫だろう。
「あれって何?」
「外の光だよ。山から伸びている光。神希村のほう」
「?」
目に戸惑いの色が見える。もしかして、見えていないのか?
「見えないの……?」
小さく呟く。
「えっ、何?」
「ううん、なんでもない」
授業終わりのチャイムが、鳴り始めたので、少女は前を向いた。
クラスで気づいている者は、沙箜の他にいないみたいだ。
「お腹すいた。お昼食べよう」
沙箜は一人呟く。
授業が終わると、少人数のグループに分かれて昼食を食べ始める。
何も変わっていない。いつも通りだ。少女は、あの光が何なのか考えてみたが解らなかった。今も光っており、一筋の線となっている。
冒険好きの友達のいない少女は、当然一人での昼食で……では、なく……。
「あの……、忍霧さん」
顔を上げると、一人の少女がいた。たぶん、クラスの子だ。顔が見たことある。ただ、名前が出てこない。
それより、クラスメートが、話しかけてくれた。その感激で言葉が出てこない。
「…………」
「わ、私、松永留美っていいます。よ、よかったら、お友達になってくれませんか?」
こんな、アニメみたいな展開が、現実に起こるものだろうか? これは、本当に現実で起こっているのか? 夢だったという事にはならないか?
机の下で、脚を抓ってみる。
痛い。
現実だ。
彼女、留美さんも緊張しているみたいで、しどろもどろになっている。
「私、人見知りでなかなか友達ができなくて……、自分からもなかなか話しかけられなくて……、今日の家庭科の時間で鈴穂くんから忍霧さんも私と同じだと聞いて……そして、話しかけてみました。め、迷惑だったら、ごめんなさい」
鈴穂が、気遣ってくれていたのだ。少し嬉しかった。
「……そうなんだ。もちろん、友達になるのは、いいのですけど……」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」
目を輝かせている姿は、何だか、可愛らしい小動物みたいだ。
しかし、一つだけ気になることがある。
「けど……、敬語は、やめてもらってもいいですか? やっぱり、友達だったら、敬語は無くてもいいよね?」
敬語はあまり好きじゃない。今まで小中と、クラスの面子が変わらなかったからか、敬語を話す機会は、あまりなかった。だから、敬語を同級生が自分に対して使ってくると、変な感じがする。上級生に対しても良く知っている人だったので、敬語を使っていなかった。でも、これからは高校生だから気をつけなきゃなとつくづく思う。
「はい! ううん、うん! 沙箜ちゃん、これからよろしく」
肩の荷が下りたかのように、留美の顔が笑顔で溢れる。
「よ、良かったら、沙箜って呼んで! 中学の友達はそう呼んでいたから。あっ、あと……、松永さんのこと、留美って呼んでもいい?」
「もちろん、いいよ! 沙箜、留美って呼んで」
五月になってやっと出来た友達。学校でいつも一人だった、少女の高校生活、始めての友達は、黒髪ロングのおとなしそうな少女だった。
「うん」
「…………」
「…………」
話が続かなくなってしまった。しばしの沈黙。
「…………」
「…………」
「沙箜ちゃ、あっ、沙箜は、部活は何部に入部したの?」
「私、部活は入っていないんだ。体育系だと、球技は苦手だし、足は遅いし。文化系だと、絵は下手だし歌は音痴だし。なかなか、いい部活が見つからなくて……」
体育系は全体的に苦手だ。唯一つ、鉄棒以外は。
「そっかぁ……、鉄棒は?」
「!?」
何故解ったのだろう? エスパーだろうか? エスパー留美がすごい勢いで、顔を前に出してきた。先程までと、正反対だ。
「ひ、人並みには出来るよ? 逆上がりとか、連続前回りとか」
なぜ、そんなことを聞くのだろうか? 頭に疑問符が浮かぶ。その疑問が顔に出ていたのか、留美は、答えてくれた。
「体操部入らない? 私、体操部なんだ。平均台とか使うやつ。鉄棒みたいのもあるし、球技じゃないから、入らないかなって……」
後で知ったことだが、器械体操と新体操は違うスポーツらしい。留美がやっているのは、器械体操のほうらしい。
「今は部員が少ないから、先輩後輩関係なく仲がいいし、初心者でも楽しんで活動できるよ。(ちなみに、私も初心者だし……)それにね、すごいんだよ! バック転とかくるくるまわっていてね……」
楽しそうに話す留美を見ていると、見てみたくなる。体操を。
留美は、体操に入らないか? と、誘ってくれた。そのことはとても嬉しかったが、親にも言わなきゃだし、山に行く時間が減ってしまう。そのことあって、すぐに返事は出来なかった。だが、少し興味はある。見てみたい。
「考えておくね、見学は今度行ってもいい?」
「うん。もちろん」
留美は二つ返事で、承諾してくれた。
昼食が終わると、全く同じ日常。後ろに鈴穂が座った気配があったが、御礼を述べるチャンスというものが無く、言いそびれてしまった。
次はまた、山へ行きます。