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地底に存在する世界    作者: 風鳥 紀乃
日常
2/22

早朝の脱出

 ピピッ、ピピッ、ピピピッ……。


 

 目覚まし時計の音が夢の中に割り込んできた。



 ピピピピッ、ピピピピッ……。



 まだ寝たいな。

 


 少女は大空に浮かんでいる。

 下は緑で溢れ、人工物は見当たらない。自然が豊かな場所だ。

 生暖かい風が、顔に吹き付けられる。季節は春だろうか。向こうから吹いて来た風に押され、バランスを崩しそうになる。

 そんな中、少女は唯ひたすら蝶のような生物を追いかけていく。羽から、虹色の光が流れ出ている。綺麗だ。しかし、よく見ると目がギョロギョロしていて気持ち悪い。

 途中で翼の生えた少女と合流した。初めて会うのに親しみを感じる。現実ではありえない。夢ならではの不思議体験だ。ふと自分の横に何か光を反射している物体がある事に気づいた。それは、規則正しく動いている。だから浮いて居るんだ、と一人で納得。

 そして終に目的地となる大きな樹にたどり着いた。

 


 ピピピピッ……。



 あぁ、もう!

 


 だんだん、景色が白色に呑み込まれていく。集中力が切れたのか、夢の映像も止まってしまった。お願い、動いて。頭の中で色々考えてしまう。そして。



 とある、山奥の村で忍霧沙箜おしむさくうは目を覚ました。

 耳元で鳴っている目覚まし時計を、まだ寝ぼけて重い腕で止める。

 良い夢だったのに。もっと、あの世界に居たかった。今日はテストがあるから学校に行きたくない。ああ、あの世界でずっと過ごしていたい。

 世界? 

 あれ? 

 どんな世界だったけ? 

 あやふやだけど、緑が沢山あって綺麗だったな。もう、夢の中の記憶が薄れてきた。恐い夢ははっきり覚えているのに、良い夢はすぐ忘れてしまう。

 紙にメモしようとして用紙を出した数秒後には、夢の中身を全て忘れていた。

 朝の自由時間は、たった2時間だ。1日中森で遊べたら良いのに、学校があるから仕方がない。7時までに家につかなければ間に合わない。

 沙箜の通う高校は隣町にある。小学校、中学校まではこの神希こうき村の中に在るが、人手不足の為、高校は無い。沙箜は、先月高校に入学した。学校になれ、気温も暖かくなったからそろそろ森に行こうと思ったら、最近は雨の日が続いていて中々、朝は森へいけなかったのだ。


 バッ!


 そう思ったら、寝ている場合ではない。今日は、雨が降っていないのだ! 早く起きて森へ行かなければ。

 少女は布団を蹴散らすと、ベッドから降り、急いで着替え、昨夜隠しておいた靴を机の裏から取り出した。この靴は、サイドに薄い水色の線が入っている。少女のお気に入りだ。

 服装は動きやすいよう、中学の時に使っていたジャージ。森の中では沢山動く。だから、動きやすい服装で行く。無論、靴もランニングシューズである。スニーカーだと長距離を走ったり歩いたりすると疲れるからだ。

 窓を開けると冷たい空気が入り込んできた。ずっと開けていなかった為、家のすぐ横にある木が、枝先まで部屋に侵入してきた。これから、本格的に春となり枝もすぐに伸びるだろう。近いうちに斬って置かなければ、窓に傷がついてしまう。次の休みにでも斬ろう。

 まだ少し冬の空気が残っている、初春。体に冷気が凍みる。 

 これから、その樹を伝って下に降りるのだ。久しぶりで、身体が高さに震えてくる。怖い。だけど行かなければ。寒い冬は終わった。山の中の雪も大体溶けている為、足跡も残らない。やっと行けるのだ。そして何より、ミミに逢える。

 先に靴を木の根元になげた。ボゴッ、と、音がしたが響かなかった。だから家族は気がついていないだろう。念のため、ドアの外に耳を済ませる。


「よし……」


 静かに呟く。何の音もしない。先ほどと同じで家は、静けさを保っている。

 沙箜の両親は、少女が森へ行っていることを知らない。むしろ、知られていたら困る。まず大目玉をくらうだろう。もしかしたら、父さんから雷が落ちることもあるかもしれない。考えただけで、目線が足元へ、下がる。


「あっ!」


 靴下脱ぐの忘れてた。急いで脱ぎ、ポケットに入れる。後は、たぶん大丈夫なはず……。

 二階は身を乗り出すと意外と高いものだ。久しぶりの木登りならぬ木下りなので、足が震える。

 パン!

 頬を両手で打つ。気持ちを奮い立たせ、少女は窓から出ている枝を掴むと身を外に投げ出した。

 無論、足場は無い。

 腕の力だけで移動をしていく。ここから落ちても死にはしないと思うが、怪我はしそうだ。下を見ると目眩がするので手元と目的地のみを見て進んでいく。

 木が大きく反っているが、気にするのは止そう。きりがない。

 手が震えて、あまり動けていないが着実に進んではいる。あと少しで木の広い部分に着くのだ。足を伸ばせばもう届くだろう。

 少し勢いをつけて足を振り上げる。それに並行して腕を曲げ木に体を近づけた。体を木と木の間に滑り込ませ、がっちり木を掴んだ。足が安定して、体重を木の上に乗せられることに安心する。

 あとは、下るだけだ。少しずつ、足を下の木に降ろしていく。地面に近づくにつれ、心が落ち着いていくのが判った。気を抜かぬように気を引き締め、降りていく内に木の分岐点に着いた。あとは、ぶら下がって手を放せば降りれるだろう。

 木に寄りかかり、一時の休憩。それは、あっという間に終わった。早く行かなければと、気持ちが焦る。このままでは、ゆっくり出来ないと思い休憩を打ち切ったのだ。

 一息つくと、体をまた木と木の間にだして腕と手でぶら下がる。足と地面の間隔およそ30センチ。あとは、重力に任して降りて大丈夫だろう。

 手を放した。


「いったーい」


 直後、腰に鈍い痛みが走る。足にも震えがきた。予想はしていたが、久しぶり過ぎて感覚がどこか行っていたみたいだ。思ったより痛かった。

 地面は少し濡れていたみたいで、足元がひんやりしている。


「よかった~」


 靴下を履いていなくて本当に良かった。ホッとした。履いていたらグッショリと濡れていただろう。もうすでに、先の衝撃で足の甲まで水が染み出ている。靴を折角、落としたのに手で持っていかなくてはならなくなった。靴は運よく濡れていない地面に落ちた。

 目的地に着いたら、まず足を洗おう。それから靴を履けば、帰りは汚れなくて済むだろう。タオルは、基地に置いてあったはずだ。


「よし!」


 靴下がしっかりポケットに入っていることを手で叩いて確認。そして、靴を片手に持つと森の入り口まで全速力で沙箜は駆け出した。

地底の異世界へは、まだまだかかりそうです。

次は、森の中の基地に行きます。

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