ずっと一緒
「・・・どうしてだ?」と、静かに聞かれた。そこでハッとした。言っちゃいけなかったんだと。
「怒らないからさ、言えよ」、こういう強引さ、嫌い。少しだけ、私を抱きかかえる手が強くなって、不安になった。だから、言った。
「なんか、お前は怖い。あと、気持ち悪い」
「・・・あいつのどこがいいんだ?」
仮面で隠れていて、表情はわからない。なんでかわからないけれど、言いたくないのに口は、言ってしまう。
「あの人は、ヘタレで、頼りない。でも、優しくて・・・好き」
「へぇ・・・」
「あ、でも、好きってそう言う意味じゃなくてね」
「いや、いいよ。もういい」
「え?」
「もういらない」
フッと、空に落ちる感覚。けれども今は、下は火の海。そう、仮面は私を抱きかかえるのをやめて、下へ落とした。
火ってのは暑くて、怖くて、それで、それで・・・長く感じる滞空時間に、そんな事を考えていた。
暑いのは嫌で、怖いのは嫌で、助けて欲しくても、誰も助けてくれなくて、でも、あの人なら・・・そう、あの人ならきっと・・・。
「×××!」、思い出したその名前を呼んだとほぼ同時に、意識を失った。
「・・・・・・ぅ・・・ん?」
寝ぼけ眼をこすって、状況確認。何が、どうなったんだっけ?
最初の部屋、あみぐるみ、ヘタレ、焚き火・・・あ、そうだ。
「火!」
「お、元気そうだな」
どこからともなく、フッと現れた、仮面の人。私にとっては、敵。
「おいおい、物騒なもん構えるなよ」
「嫌だ!」
キラリと光る包丁を、敵意と共に、仮面へと向ける。この薄暗い部屋のドアは、彼の後ろ。
「安心しろよ、そんな物がなくたって、俺様は一生お前を守ってやるよ」
傲慢な態度、誰かと似ている気がする。誰だっけ?でも思い出したくない。
「そう、一生守ってやるよ!」
「っ!?」
前にいたはずなのに、急に後ろに現れた、かと思えば、私の髪を掴んで、床に叩きつけた。
「・・・うー・・」
頭が痛い。だから、頭を抱えた。
「どうしてわからない!?あいつにはできなくても、俺様にはできる!」、そう言いながら、私を殴り続ける彼。
「あいつが捨てたもの全て!俺様が持っている!俺様にしか!お前を守れない!」、だんだんと、その殴る力は強くなってくる。
「・・・殴るじゃない。守ってくれないじゃない・・・」、涙声でそう言ったら、彼は鼻で笑ってこう言った。
「何もわかっちゃいない。これこそが愛情だ。だって、お前はずっとそうやって生きてきた。俺様とあいつは、お前の望み通りに動く、あいつは紳士的に、俺様は欲望に忠実に」
意味がわからない。いや、思い出したくない、だけ?
「暴力が愛情なんだろ?だったら愛してやるよ!」
「やだ!痛い!やめてよ!」
痛くて怖い。でも、本当に怖いのは、なんだったんだろう。
「うっ・・・うー・・・×××」、泣きながら、静かに名前を呼ぶ。
「・・・どうして、その名前を?」、ふと、手が止まった。
「思い出したの」、と私はいった。
「・・・俺様の名前は?」
「え?」
あ、そう言えば、彼の名前は、なんだろう?でも、私は・・・。
「知らない!あなたの名前は知らないの!知っていたとしても呼びたくない!嫌い!」
「そう・・かよ」
少しだけ、少しだけだけど、彼の顔は泣いているように見えた、気がする。
「俺様も同じだ!嫌いだ!大嫌いだ!でも愛しているんだよ!あっはははははははは!!」
部屋に響く高笑い。痛い暴力。死にそうで、怖くて、怖くて、思わず、持っていた包丁で、彼を突き刺した。
それはグサリと、胸の奥深くまで、ズブリと刺さった。
倒れた彼、笑っていたような、気がした。
「・・・・・・」
殺した、という事になるのだろう。けど、それよりも、早くここから出たい。それだけが、私を動かしていた。
痛い、痛い、多分、どこかの骨は、折れている。ほっぺは腫れている。
ヘタレと出会ったら、バカみたいに騒がれるんだろうな、と思うと、少し笑いがこみ上げた。
「・・・鍵」
ドアには鍵、当たり前のことだけど。
でも、私には包丁がある。濡れているけど、まだ大丈夫なはず。
何度も、何度も、何度も、ドアを指して、ボロボロになってきた、ドア。
少し光が見えて、笑みがこぼれる。
ああ、やっと出れる。やっと、会えるんだ。
私はそのドアから出ようと・・・。
「おい、何してんだ?」
「・・・え?」
聞き覚えのある声、そっと後ろを振り向くと、仮面が起き上がっていた。
「・・・どうして?胸にさして、血がいっぱい出て・・・」
「お前ももうわかっているだろ?ここは現実世界ではない」
「・・・」
その言葉で、思考は停止する。でも、わかったことがある。
「じゃあ・・・あなたも、そうなの?」
「・・・そうだ」
あ、この顔。どこか寂しそうで、悲しそうな、そんな顔。見たことがあるというか、誰かに似ている?
「この世界は作られた世界。そう、今この部屋もな」
「この部屋は、あなたの世界?」
「そうさ、だから出る事なんか出来ないし、俺様は死なない」
「・・・嫌」
「言っただろ?俺様が一生守ってやるってな!!」
ふいに、どこからシュンっと何かが飛ぶような音が聞こえて、視界に入る、吹き飛んだ私の腕。次に聞こえたのは、私の悲鳴。
「泣かなくていいさ!いや、時期に涙も枯れ果てる。いいか?よく聞け、次に逆らえば足を切る。俺様に従っていればずっと幸せな生活をおくれるんだよ!2人きりでな!」
血の匂いと、涙。
私の泣き声と、彼の高笑い。
もう、何も考えられなくなって、泣き疲れて、そっと、眠りについた。
バッドエンド 『ふたりきり』
リセットしますか?
【はい】 いいえ
最終回ではありません
7話目サブタイトル&7話目制作 楓