冬鳥の白布
「どーしてこんな所で寝てたの?」
私は男性に話しかける、包丁をちらつかせながら。
脅迫だってことくらいは、分かってるけどすごく楽しい。
男性は困ったように笑う。
「な、情けないことによく分からないんだ。
僕は、この国の布『冬鳥の白布』の商人なんだけど……。
何者かに、襲われて」
そうやって話をつづけながら、私は何者かの気配を感じる。
ゆっくりと、振り向くと……。
「編みぐるみ!?」
白くてふわふわ、柔らかくて暖かそうなウサギの編みぐるみ。
「こ、こいつだよ! こいつが僕の布を取って、縛り付けて眠らせたんだ!
鎖を投げてくるから要注」
「ブッ刺しー!」
私は走って飛びあがって、ウサギに襲い掛かる。
それはあっさり半分に切れて、崩れて。
冷たい氷の欠片が舞った。
綿のような、温かそうな白は、
結局氷の繊維……雪の欠片のような物だったらしい。
そしてひらり、編みぐるみが抱えていた布が舞い降りた。
刺されたはずなのに、傷ひとつついていない。
「はい」
手渡すと、男性はへらりと笑った。
「ありがとう、あの……よければこれからも僕たちを守ってくれないかな?
この国の案内はするからさ」
願ったりかなったりだ、私はうなづいて男性に飛びついた。
3話目担当 水鳴倫紅
3話目サブタイトル 楓