君のために
彼女は……
【仮面を選んだ】 僕を選んだ
「やっぱり俺様を選んだんだな」
こうなるとが確定してた、そんな感じで仮面は不敵に微笑む。
僕は床に這いつくばったまま、瞳が少し潤んできてしまう。
「ふん、犬のようだな。こいつは置いて、行くぞ」
仮面は、何のためらいもなく僕を亀裂へと突き落…いや待て。駄目だ。これ、は。
―これは違う―
僕を突き落とそうとするその手を掴み、もう一度僕は立ち上がる。
「…おい、シナリオと違うじゃねえか」
始めてみた、彼の動揺した顔。焦り、戸惑い、怒り。
「……ははっ、重複バグとかさぁ、ルートバグとかさぁ、起きたって知らねえぞ?」
「自覚しているのは僕だって同じだ」
「…目覚めたか」
「ああ、そうさ。今のこの時、この瞬間は。オリジナルだ」
「…そうか、そうか……よっ!」
「っ!」
突如どこからともなく剣を取り出し、僕めがけて振り下ろす。彼女は少し戸惑っているようだ。
いや、これはどこからかなんてもうわかっている。ここはありえない事がおこる場所なんだ。
「あの子をバッドエンドルートなんて行かせない」
もう一度。
「僕は何も出来ないけど、頑張って君を守るよ」
「……クソが」
もう一度。
たとえあの子の意思を少し操る事になっても。
彼女は……
仮面を選ばず 【僕を選ぶんだ】
「そうか……それでいいんだな」
仮面は笑わず剣を消し、それからバラバラの光になって消え…るはず、と、そう、思っていた。
消えずにその場に立ち、幼女を指さしたと思ったら、耳を塞げのジェスチャー。すなわち、幼女の耳を塞げって事だ。
「ごめんね」と小さく呟き、幼女の耳を塞ぐ。ちょっと嫌そうだけど、我慢してほしい。
「それで、何?」
警戒を緩めず問う。
「…独り言。答えるな、そして気にするな」
と言われても気にするけど…とりあえず頷いた。
「ここの主導権はその幼女が握っている。選択もルートも。だが重要な登場人物だからか、俺様にも少々改変の力が加わった。そして…お前にも、な」
嫌そうな顔で僕の事を見つめる仮面の人物。僕にもその気持ちは、わかるつもりでいる。
「重要なのは強い意志と少量の意識。それさえありゃあ、例え死の隣にいても生き返れる。だが頭は疲れちまうから頭がキチンと動いてる時じゃねえと駄目だ。
あと1回ってとこだ。ハッピーエンドのためのくだらねえルート補正はよ」
すこし逸らされた目線は、どこも見ていなかった。
「ただでさえもうルートはぐちゃぐちゃになってるつーのによ、お前までいじったらもう大混乱。ありきたりなハッピーエンドの物語を見ていたら急に魔王と兎が出て来て何がなんだか、って感じだぜ」
先ほどから少しずつ、幼女の機嫌が悪くなり暴れ出そうとしているのを感じて、ふと下を向く。
「だからいっそ、俺様とイイ事しようぜ!」
パチン、とならされた指。ふわりと浮かぶのは、僕のほう。
視線は彼女を見つめたまま、僕は1人で空中にて青い炎に包まれる。不思議なんだ。熱くないのに、とても苦しい。
それでも僕は、彼女を見つめた。
「大丈夫、また会えるから。大丈夫」
言葉になったかわからないけれど、それを伝えると、僕の意識は歪みと共に消えた。




