紆余曲折ある恋人達(下)
これにて『紆余曲折ある恋人達』のお話は終わり、ひとまずは小さな恋人達のお話も完結いたします。
さて、いよいよ迎えた勉強会。とりあえず、参加するにあたり自分の問題点を洗い出す作業にここのところは専念していた。さしあたっては範囲内で困っているところをピックアップし、リスト化して勉強すべきところを可視化したのだ。闇雲に教科書とノートにあたっていればいいというわけでもない。なんとかせねばならんのだ、今回ばかりは。
「やる気ありそうだね、三井」
「なーんか気合はいってーるじゃないのー、みーついー」
「俺らも気合をいれねばならんぞ、明石。今回の期末が危険なのは、喪男会議の三名全員の抱える痛みだ。今日、どうにか赤点回避ラインを上回る程度の成果をあげねばならん。もう夏休み前半が消し飛ぶのは嫌だ」
「まったーくそのとーりだなーむらおーか」
ええい、緊張感のない奴め。村岡の言う通りなのだ。このままでは氷川さんとどうのこうのという問題の前に、俺の学力の面で何かチャンスというかあらゆる見えないものを失いかねない事態であり、それは程度の差こそあれ俺達全員の話なのだ。見ろ、藤井の奴なんか、呆れすぎて言葉もないって顔をしているぞ。
「それにしても、勉強会っていうから誰かの家にいくかと思ったら……」
「がっこーなんだもーんなー」
そう。勉強会の会場は参加者との度重なる協議の末、結局学校で行うことになった。生徒会に属する春野都子の存在により、旧校舎の生徒会室が使用可能だということが判明したのがその理由である。旧校舎の生徒会室には生徒会の外局である校内環境部が設置されているが、部活動停止期間中の今日はフリーということだった。
四人で校門の前で女性陣の到着を待っていたところ、彼女らは現れた。一人は勿論氷川さんである。……何か、いつもより目つきが鋭いような気がする。
もう一人は会場を提供してくれた春野都子。生徒会の隠し玉であり、フランス系ハーフであるという彼女の金髪碧眼はかなり目を引く。勿論その西洋交じりのビジュアルの高さは推して知るべしといったところだ。恐らく次期生徒会長は彼女であるだろう。
もう一人が『危険人物』の青葉桜だ。本来内気で臆病な彼女は前髪で目元に暗幕を降ろし、腰ほどまでにその黒絹のような髪を流している。日本人形的な美女といっていいはずなのだが、氷川さんとはまた違った種類の威圧をしている人である。
「さ、さささ、さく、さくら? さーくーらー?」
おい明石。なんだお前。見たことないぐらい青い顔しているぞ。
明石以外の男共が呆気にとられていると――三人並んで歩いていた彼女らの列から、突然青葉が飛び出すようにして駆け出した。うお、速い。などとのんきな感想を抱いている間に、彼女は明石の腹に一撃、重たいブローを繰り出し、崩れる明石をハグで捕まえた。……なんだこれ。……なんだこれ?
「……と、止められなかったか」
「まぁ、いいんじゃないの。こうでもしなきゃ逃げていたでしょ、明石君」
遅れて、後ろから二人がやってきた。……よくわからないが、明石と青葉には因縁があったか。……村岡がとても複雑な顔をしている。明石を藤井と同じく裏切り者としてみるか、それとも厄介な昔の女に再補足された哀れな奴としてみるか、判断しかねているのだろう。……まぁ、でも。確証はないが……多分明石が悪いんじゃないか。
「やあ、氷川さん。それと春野さん……青葉さん……はそっとしておいたほうがいいかな」
「ああ、おはよう三井君。青葉の暴走に関しては……まぁ、大目にみてやってくれ」
「そうそう、サクラも悪気はないのよ。恨みはあるかもしれないけど」
「……まぁ、聞かないほうがよさそうだね。そうだな村岡、藤井」
「そうだな。……行こうか」
「触らぬ神に祟りなしとも言うしね。行こう」
というわけで、哀れな明石を申し訳ないが放っておいて移動開始。青葉は明石をヘッドロックした状態で後ろからついてきた。……どうしよう、何がこわいって、彼女の声をまだ一言も聞いてないのが怖い。ずっと無言だよあの子。
旧生徒会室に到着したことで、ようやく明石は解放された。勉強する前にすでに死にそうになっているが大丈夫か。あと彼女に何をしたらあんな目に合うんだ。
「あ、えっと……お見苦しい、ところを……お見せしまし、た。みなさん、今日はよろしく……おねがいします……」
青葉は今までのことなどなかったように普通に挨拶をする。しかし、明石の隣はキープしている。……ううむ。あの二人は今回そっとしておいた方がいい気がする。
「それにしても、生徒会室には円卓みたいな会議テーブルがあるんだな」
「実際、生徒会じゃふざけて円卓の騎士ごっこしていたりするわよ」
「会長はアーサー王か」
「私はモルドレッド」
「不穏だなこの次期生徒会長」
村岡と春野も完全に無視しておしゃべりしている……。藤井は一瞥もせずにすでに机に教科書だなんだを広げだしていた。うん。俺もノータッチでいこう。
「……それじゃあ、各々始めるか。わからないところは積極的に周囲に聞いて、とにかく不安個所を潰していくとしよう。……そして教師役はもっぱら春野、頼む」
「はいはい。面倒見ていくから、頑張りなさいな」
そうか、春野は勉強会で勉強するんじゃなくて教師役になるタイプの優等生さんだったか。なるほど。これは心強い。
「藤井、お前も頼むぞ」
「春野さんがいるんじゃ僕の存在感は薄いと思うんだけどね」
「教師役は多いほうがいいんだよ」
それに、質問しやすいし。こういう時、相手が女の子ってだけで一気に話がけづらくなるからなぁ。見知った仲の藤井の方が気安く質問できる。藤井がいてよかった。
……よし、とりあえず、リストの優先度の高い順から始めていこう。
*
始まってみれば、予想していたよりもグダグダになるようなこともなく、みんな集中して勉強ができているように思う。……明石の奴に妙に近くにいる青葉と、いつになく余裕のない明石が気がかりではあるが、藤井と春野という二大教師のおかげで、出来の悪い俺も村岡も驚くほど捗っている。勉強ができる人はいいなぁ。
「……なぁ、君」
「どうかしたの、氷川さん……」
そう、このまま二人に教えてもらいながら進めていれば、何も問題ない……かと思っていたのだが、不意に氷川さんに袖を引かれた。鋭い視線が突き刺さるようである。
「ああいや、何でも……」
「……うん?」
袖引いて睨みつけておいてそりゃないよ氷川さん。一体これは何だ、俺は何の地雷を踏んだのかと困惑していると、春野がこっちを見てニヤニヤ笑っている。……え? 何?
「ユカリはシンジ君に構ってもらいたいんでしょ」
「なっ、おい、都子、それは誤解というものだ」
「ずっとフミヤ君か私にしか聞いてないし、寂しくなる気持ちもわかるって」
「え、えーと……」
まずい。村岡が俺を見ている。いや、まて。切欠はお前と明石だろうが。……あ、そうか。当の明石も青葉に捕食されて二人きりが如くであるし(青葉がさらに密着しているように見える。あいつは本当に何をしたんだ?)あいつはあいつで疎外感を感じる状況か。だが悪いな村岡。俺にはこれはどうしようもできない。
「大体だな、私たちは次の期末の対策をしているだけだ。遊んでいるわけじゃない」
「はいはい、そうでしたそうでした」
「聞いているのかっ、都子。なんだそのニヤけ面は!」
どうやら春野の方が氷川さんより一枚上手らしい。氷川さんも普段は十分に大人びた風に見えるのだが、彼女の前では形無しだ。……男共の子供っぽさが相対的に目立つのだが、いいさいいさ。男はいつまでたっても子供です。そーいうもんらしいーんです。
「まぁまぁ、じゃあ、呼ばれるまでは二人は二人で頑張ってもらうってことで」
「そうね。そうしましょう」
「その間に僕たちはそこですごい顔をしている彼を救済するのが良いかと」
「……あら、ごめんねカズマ君。仲間外れにしたいわけじゃなかったのだけれど」
良かったな村岡。優等生二人からの集中講義だぞ。……これはただの勘だが、今回の期末、バカ共三人の中で一番好成績を残すのは恐らくあいつだろう。今度コーヒーぐらい奢ってやるとするか。ささやかなお祝いってことで。
「……まったく、都子の奴は困ったもんだ。大体君もいけない、少しはフォローをだな」
「俺の入る余地はなかったよ。下手を踏めば大やけどだ」
「そういうものか……ま、まぁいい。ところで、聞きたい箇所がいくつか」
「微力を尽くします」
確かに、得意科目なら教えられるところもあるのだが、それにしてもあの二人に聞く方が断然いい。つまり、教える立場になってしまったということはかなりの責任があるということで、かなり緊張しながら、普段はしない解説・説明を行った。受験の面接よりも多分緊張感があると思うんだ。この状況は。
「ふむ……なるほど。わかった。どうやら一つ潰せたようだ」
「それは何より。……ああ、緊張した」
「こんなことで緊張してどうする。君はどうだ」
「……えーと、そうだな。じゃあ」
リストを眺めていく。これまでに潰せたところは斜線を引いて消してあるが、こうして列記されていた問題箇所が少なくない数消せているのはとても気分がいい。とりあえず、現状でも赤点ラインは回避できただろう。本当に良かった……。
「……なんだそのリストは」
「自分がわからない、どうしようもないところのリスト。勉強しやすいかと思って」
「なるほどなあ。……普段からこんな風に立ち回れば苦労しないだろうに」
「残念ながら、やる気が出たのはこの間からなもので。氷川さんのおかげです」
「……そ、そうか。私は何もしてないと思うが。そうか」
何となく氷川さんは嬉しそうだ。……いや、何でよ。わからん、女の子の心理というのはさっぱりわからん。……とりあえず、気が付かなかったことにして勉強続行だ。氷川さんに教えてもらうというのもなかなか心惹かれる状況なことだし。
「……ええと、とりあえず数学なんだけど」
「心得た」
……自分が解説しているときは、下手をするわけにはいかないと緊張していたので気が付かなかったのだが、される側となると、これがなかなか集中できない。何故か。好きな人がこんなに近くにいて、息遣いすら感じるとなれば……である。だが、集中せねばならない。……男というのはなんて面倒な生き物なのか。
*
日が傾きはじめたころ、明石のか細い悲鳴を合図に本日の濃い勉強タイムは終わりを告げた。村岡の奴はげっそりしているし、明石は顔を青くしているし。ずっと教師役であった藤井や春野もやや疲れた表情でいる。……青葉の奴はとても色ツヤがいい。俺は勿論、氷川さんも疲れた様子である。……こまめに勉強しないからこうなるのだなぁ。バカ共は。後半は氷川さんもすることがなくなり、もっぱら俺に対する教師役として振る舞った。ありがたいことである。……おお、村岡。お前今とても賢そうな面をしているぞ。
「俺、二学期中間はこうならないようにするんだ」
「俺も同意見だ、村岡」
ぐ、と堅い握手を交わす。俺達、まさに今日からもう少しまともな学生になろうな。
「私たちは……どうしましょうか。ねぇ雅文……手をつないで帰りましょうね?」
「た、たっ、たすけ、っ、たすけてくれみーついー! むーらーおーかー!」
すまない明石。お前の背景を知らないだけに判断しかねるんだ。今度ゆっくり話を聞いてやるから、今日のところはそこの雌カマキリに捕食されてくれ。
「あはは……サクラ、今日のところは解放してあげなさいよ」
「まぁ、そうだな。少なくとも今日はもう気が済んだろう」
「……お二人がそう言うなら、そうします。また学校でね、雅文……」
……春野と氷川さんの助け舟により、明石は解放される。解放されるなり、俺と村岡にラリアットだ。ぐお、痛た……くもないな。力が入らんのか明石よ。
「おっ、おまっ、おーまーえーらー」
「どうどう。落ち着け明石」
「だが考えてみてくれ。俺か三井が割って入ってどうにかなると思うか?」
「……どーにもならなさそう。たよりないぞーおまえらー」
ふ、それはお互い様というものだ明石。第一、頼れるようなところがあれば俺達は多分、「負け犬同盟」と言い換えても違和感のない「喪男会議」なんぞという風に自らを呼称しないのである。所詮我々は軟弱者よ。
「正直なところ、男子連中は途中で遊びだすかと思っていたけど、思ったよりまともね」
「そういうものだろう。三井も彼らも、見た目ほどちゃらんぽらんではないさ」
「……フミヤ君は、チャコ先輩がいなくて寂しそうだったみたいだけれど」
「やめてください……帰りましょう、ね?」
藤井の奴は猫柳女史関係で弄られると弱いということか。相手が春野であれば猶更……ふむ。何か面白そうなことができそうであるが、今は確かに奴の言う通りだ。流石にくたびれた。さっさと帰って熱いシャワーを浴びたい……。
「そーだそーだ。かえるぞー、かーえーるー」
「明石の奴、幼児退行してないかこれ……」
一部に不安を残しつつ、各自道具をまとめ、簡単に場を清めてから校舎を出る。橙色の夕日に目を細め、休日を丸々使っての勉強をしたことに一種の感動さえ覚えてしまう。思わず大あくびを一つすると、背中にドン、という強めの衝撃が走った。振り向けば氷川さんが何やら楽し気な表情を浮かべている。
「こういうのも、いいものだな。楽しかったぞ、私は」
「まぁ、そうだね。俺も勉強会なんて殊勝なことやったのは初めてだったけど、悪くない」
「またやりたい……と言いたいところだが、しなくてもいいぐらい普段からせんとなぁ」
「まぁ……テスト前に、今日のをもう少し簡略化したのならいいんじゃないの」
「なるほど。それも道理だな。じゃあ、次は二学期中間だな」
「……うん。本当に、俺もう少し頑張らないとなぁ」
二学期中間とか、今から頭が痛い。新学期が始まったら、もう少し真面目に授業を聞いてノートを取るとしよう。間違っても居眠りなんぞはしないように。
「では、今回は笑って乗り越えられんとな」
「……やれるだけ、やってみましょう」
夕焼けに照らされる彼女は、やはりどうしたって魅力的に見えた。日本人離れした魅力のある春野より(比べるのはそもそも失礼かもしれないが)輝いて見えたのだ。となると、あんまり失望させたくはない。ないので、本当に、今回の成果を証明せねばならない。
皆でぞろぞろと、騒がしく校門を抜け――女性陣は何やら連れだって消えていった。向こうは向こうで何かあるらしい。恐らくは青葉を問い詰めるんじゃないか。こっちは明石を問い詰めるのは何か気の毒なので、奴が話したくなるのを待つことにするが。
しかし、男共で一番に話し始めたのは明石ではなく村岡だった。俺を若干睨んでいる。だからなんだ。さっきの状況のことなら俺は悪くないぞ。
「三井。こうなったら絶対上手くいかせろよ」
「あ、ああ……? そりゃ頑張るぞ。ここまでやったんだ。赤点越えだけじゃ無意味だ。平均点越えでもして親を黙らせなきゃな……」
「……一日勉強漬けした程度でこれまでボンクラだった奴が平均点は越えないと思うんだ」
村岡はがっくりと肩を落とし、違う違うと手をぱたぱたと振る。違うってなんのことだ。あと、別に平均点越えを意気込むぐらいはいいだろうが。むしろ意識低いって言われるレベルの目標なんじゃないのか。いや、優等生基準は良く知らないけれども。
「そうじゃなくて。こうなったらなんとしても氷川を落とせと言っているんだ」
「なんでお前が張り切るんだそれ!」
「俺と同程度のボンクラでボケかツッコミかぐらいの違いしかなかった俺達の内、お前に彼女ができるんなら、俺にだって出来るさ! 高校は諦めるにしても、花の大学生時代に一人は欲しいだろうが! いないまま彼女いない歴年齢で社会人になりたいかお前は!」
「そ、それは……とても寒い未来予想図」
「だろう! だから、今やお前は俺の希望なんだ」
「……明石は?」
「…………」
二人してそっと明石を見る。明石はいつもの穏やかでぼんやりした眠たげな微笑を浮かべてはいなかった。ただ、この世の終わりみたいな顔をしている。藤井がすごく心配そうにしているのだが、藤井の声が聞こえているのかどうかも怪しい。
「青葉の奴と何があったのかは知らないが、片割れがああなるような関係は、恋人だなんて言ってはいけないんじゃないかなぁって俺は思います」
「同意見だ、村岡。お前も焦って変な暴走するなよ。お前らのせいで俺は猫柳先輩に罵られたんだからな? 誠意のない行動はいろいろと危険な上にメリットは薄い」
「……うむ。肝に銘じよう」
是非そうしてくれ。お前にもいつか素敵な女性が現れるだろう。俺も今は追いかけている最中で、追いつけるかどうかも怪しいので、あんまり偉そうな事は言えないが。
「とりあえず、明石をもとに戻してから帰ろう。カラオケでも行くとしよう」
「結局テスト前の学生とは思えない挙動をするんだな、俺ら」
「……それは僕もかい?」
「逃がすと思ったのかなぁ藤井君」
「逃がすわけがないよぉ藤井君」
まぁほら、一日勉強漬けだったんだから少し遊んでもいいじゃないか。内容がどこかに飛んでいくわけでもなし。気分転換は大事だ。何より明石が心配である。明石も小さくうなずいた。よし、段々人の心を取り戻してきている。……俺と村岡で藤井を挟み、ずるずると近場のカラオケボックスに。さしあたっては2時間ぐらい歌おうじゃないか。
*
――不味い。そう思った時には遅かった。すぐ隣にいた村岡が倒れる。俺は舌打をして煉瓦組の、何かの建築跡に飛び込んで伏せた。手持ちのライフルの弾数は残りわずかだ。とにかく、ここは危険だ。俺は這って静かに移動を開始。敵の位置は確認できていない。だが、村岡を狙えたのだから勿論近くにいる。建物跡に逃げ込んだのも見えているだろう。建物から下がり、傾斜を利用して相手から確認できないようにゆっくりと回り込むしかない。息を殺し、匍匐で進む。音は極力出さずに、蛇になったような気分で進む。
ゆっくりと回り込み、敵の背後が見えた。建物跡を注意深く見張っている。回り込まれたとは気づいていないようだ。ライフルを構え、よく狙い……。
「そこまでだよー。みーつーい」
俺は、さらに自分の背後にもう一人いたことに、その瞬間まで気が付かなかった。迎撃しようと銃を向けるが、そこまでだった。胸に数発食らう――くそっ――。
「ヒット―」
……勿論、サバイバルゲームの話である。どうにか本番のテストを切り抜け(平均点を取ることはできたが、平均点越えは果たせなかった。無念である)夏休みに突入し、学生がもてる範囲の予算でウェアなんかを買い込み、実際に今日、ゲームをすることができた。
俺の戦績は、結局誰にも当てることができず、明石に打ち取られた格好である。くじ引きでチームを決め、俺と村岡と青葉、氷川さんと春野、明石の男女混交チームであったのだが……。これで2対1の格好である。こっちチームに残っているのは青葉。向こうは明石と春野である。……うーん。これはもう決まったようなもんじゃないか。
「おや、そちらは男共が全滅か。情けない」
「開始数分で打ち取られた氷川さんが言うかなそれ……」
「お前ら、戻るなりいちゃつくな。俺の心が痛い」
フィールドを出て拠点に戻り、装備を外して一息つく。野外フィールドであるため、暑い。ウェアは長袖なんで暑い。汗だくである。ゲーム開始前に置いておいた、温くなっているペットボトルのお茶を飲み下す。……まるで何てことはないお茶がここまで身にしみるとは思わなかった。熱中症はこわい。
「いちゃつく……とは……?」
「……その反応は予想外」
余計なことを言うなよ村岡。絶対だぞ。氷川さんは不思議そうな顔をしていたが、すぐに聞こえてくる銃声(といってもモーター音だが)に反応し、ネットに囲まれたフィールドを見る。……遅れてヒットの声。春野の声だ。……なんと。
「サクラが思ったよりも乗り気で私怖いんだけど」
「堂に入るとはああいうことを言うんだろうな」
戻ってきた春野も、暑そうに装備類をテーブルに投げ出した。やはりベスト類は重たくて暑苦しい。しかし、金髪の春野がそんな恰好をするとハリウッドの有名映画の女優のようだ。ビルの屋上からラぺリングで大窓を割って突入するシーンは痺れたなぁ。長い金髪を舞い踊らせながらコンパクトなSMGで薙ぎ払うのは爽快だった。
「む。君。今、都子を不埒な目で見てはいなかったかね」
「ミリタリールックが似合うなぁとは思ったけども不埒とは」
「あら、ユカリ。嫉妬?」
「嫉妬などしとらん。三井が都子をいやらしい目でみていないかクギをだな」
「……嫉妬じゃない」
「何でそうなる!」
そもそもそんな目じゃ見てない、見てないから。本人不在で変なことを前提にしたまま話を進めるのはやめてほしい。名誉棄損も甚だしい。
「……お、おい。お前らこっち来て向こう見てみろ」
村岡が俄に焦ったように観戦台から呼びかける。……明石と青葉の一騎打ちだもんなぁ。一体何が起こっているのやら。怖いもの見たさで観戦台に上って二人の様子を伺う。……背後で、氷川さんが息を呑む音が聞こえた。
木に身を隠した明石が静かにライフルを構える。青葉は手にしている拳銃を向け、じりじりと、明石からの射線が通らぬようにしながら近づいていく。幽鬼のように、長い黒髪を靡かせ、じりじりと迫るその姿はホラー以外の何物でもない。一方の明石も目が完全に据わっている。今のあいつなら女子供にもヘリから機関銃を撃ちそうだぞ。
「雅文……私が先に当てたら……私の……!」
「……お前とは終わったんだよ、さくら」
「諦めない……」
「……っ、来い、終わらせてやる」
……本当は満更でもないだろうお前ら。これは形を変えた痴話喧嘩なのか。それとも単純に二人ともテンションが上がったので映画じみた挙動をしているのか。こういう青春もありなのか。ありなんだろうな。興味深い。
「……やっぱり、あの二人は昔恋仲だったんだろうか」
「様子を見ている限りそうなんだろうねぇ」
「正直な話、俺らも知らなかったからな」
「私たちも本人の口から直接聞いたわけじゃないものねぇ」
――状況が動いた。青葉が拳銃を撃ちながら一挙に駆け出す。それを迎え撃つ明石。だが咄嗟のことで銃の構え方が滅茶苦茶だ。弾道はブレて青葉にヒットせず、青葉が立て続けに発砲。ギリギリで遮蔽に隠れた明石。……青葉の拳銃は派手に撃ちすぎて弾切れらしい。チャンスだ明石。今しかない。
「――俺の、勝ちだよ。さくら!」
「いいえ――あなたの負け」
遮蔽から飛び出し、ライフルを構える明石。しかし、それよりも先に――青葉が、ホルスターからもうひとつの拳銃を引き抜いていた。――引き金は、青葉の方が圧倒的に早かった。――明石のヒット宣言。……彼女の勝ちである。
「……ふむ。これであの二人は復縁するのか」
「そこは二人次第だとは思うんだけど」
「負けた明石が強く反抗できるかはわからん」
「サクラは攻勢を強めるでしょうね」
明石の心にマジノ線の建造が求められる……かもしれない。それでもどうせ迂回されてしまうだけなような気もするが。……頑張れ明石。お前の心のパリを守れるのはお前しかないんだ。それともヴィシー明石にでもなってみるか。
「少なくとも、男より胆力はありそうだな。桜の方が」
「あの気迫にはそりゃ負けますとも」
ゲーム終了。青葉の奴は明石を引きずりながらフィールドから出てきた。もうすでに復縁したつもりでいるらしい。明石は泣きごとを呟いているが、しっかりと握られた手を、彼の方からもわずかに握り返している。満更でもなかったんじゃないかやっぱり!
「楽しかったです」
「……それは良かった」
青葉はとても満足そうな顔をしていた。後が怖いので何かとやかく言うのはやめておく。村岡も何やら言葉を失っていたようだった。氷川さんと春野は困ったように苦笑を浮かべるのみだ。つまり、明石の味方はいない。
「二回戦もするんですか?」
「底なしの体力だな。三対三という超少数でのゲームとはいえ……」
「……このカッコは、暑い」
やれなくはないが、多分女性陣は限界だ。……限界のはずなのだが、青葉が何故二回戦を希望したのだろう。興奮しすぎて疲労に気づいていないとかなのだろうか。
「ふむ。そうだな……とりあえず、今日はこのまま解散ということにするか」
「まぁ無難なところね」
やはり氷川さんと春野は限界気味だったか。まだ日も高いといえば高いが、そんなぶっ通しで遊んでいても……いやそれもまた楽しそうな気もするが――いや、うん。そのままあんまり遅くなると不味いだろう。特に女の子は。しかも同数の男と一緒に遊んでいて遅くなるとか、両親からの心証が最悪だ。早めに切り上げて男女別に分かれて好きにしているのがいいかもしれない。そういうことなら明石を救えるし、このまま男共でカラオケでもいいだろう。久々にゲーセンに行くという手もある。
「いや、明石は救えんぞ、三井」
「……ふーむ」
確かに青葉は明石を離す気はなさそうだ。あのまま更衣室に連れ込みかねない勢いである。流石にそれは許してやってほしいが、下手なことは言えない。同性の二人が阻止してくれることを期待するしかないが……となると村岡と二人か。久々だな。
「二人でカラオケも空しいな。久しぶりにお前の家でゲームでも」
「そこで俺を誘おうとするなお前。冷静になれ、な?」
「いやしかしだな」
「しかしもかかしもあるか。この夏に攻めなきゃ後がないんだよお前は」
「むぐ……一理ある」
村岡の言いたいことはわかる。要するに、氷川さんをこの後何か適当な遊びに誘えといいたいのだろう。汚れたウェア類はカバンに詰めて駅のコインロッカーにでも放り込んでおけば大した問題でもない。このまま何もせずに帰らすなということか。いやしかしだな……そういう交渉がスムーズにいくほどステータスは高くないんだがなぁ。
「……しかし、何に誘えばいいんだ」
「……それは知らん」
「ちっ、まぁ、そうだろうな……」
だが、確かに村岡の言うことにも一理ある。今の俺はそれぐらいしなければならない。もどかしいことでうじうじ悩んでいる余裕がない。それは勿論、氷川さんの方から三年生に上がるまでに、と時間制限を設けられているのが直接の理由だが、もう一つに、俺の緊張感があまり長くは保てないという点がある。時間の経過はどうしたって人の気持ちや衝動といったものを風化させる。悩んでいる間に気分が落ち着いてきてしまって、まぁこんな恋心は学生の内はよくあるものだし、大火傷をするぐらいなら適当にピエロを装って笑われつつ静かに退場した方が利口だ、などと冷静ぶった考えが頭をよぎらないとも限らない。それを防ぐには、気持ちを更新させ、状況を進ませ、場合によっては退路を断ち、前に前に進み続けなければいけない。止まってしまえばこの恋は死ぬのだ。
……なので、とりあえずは何か考えておかねばならない。少なくとも、バスに乗って駅に到着し、そのまま解散となるその瞬間までには誘わねばならない。……いや、この際思いつかなくても引き留めるしかない。ないが、それは最悪の手段だ。着替えつつ、何か考えておこう。……何でもいいんだ。
*
身体を動かしスッキリしたからといって、頭がスムーズに回るとは限らない。むしろ疲労感で頭にモヤがかかる点でマイナスですらある。運動部の連中が朝からだるんだるんなのは、多分朝練とかいう風習のせいだと思うんだ。ま、俺のように特に理由なく朝からだるだるなダメ人間もいるが。そこには目を瞑っていただく他ない。
つまり何が言いたいのかというと、着替えて、バスに乗って、駅についた今の今、何も思いつきませんでしたと言いたい。何ならバスでは寝そうになった。村岡から肘鉄をもらって跳ね起きたが、それでも浮かばないものは浮かばなかった。
「それでは私たちは失礼します。行きましょう……雅文……ふ、ふふ」
「こんじょーのわかれだとおもってみおくってくれ」
合掌。今度は氷川さんも春野も止めなかった。青葉は明石の手をしっかり握り、引きずるようにして雑踏に消えていった。明石の行く末に幸あれ。
「……で? お前は何かできないのか」
「なんにも思いつかなかった。どうしよう村岡」
「情けない奴。お前は俺の希望なんだ、しっかりしろ」
「人に勝手に期待を被せて希望だなんだと言うのは呪いと違うか」
ちら、と男二人で話し込んでいる氷川さんと春野を伺い見る。何やら楽しそうに……いや、あれは氷川さんがからかわれているな。……様子を察するに、あれはこのまま二人でどこかに行く流れなのでは。ここはしょうがない。解散して後日何かに誘うしか……。
「――き、君。三井君」
「お、おお?」
春野の肩を掴みつつ、鋭い視線を俺に向け、小刻みに震えながら氷川さんはそんな風に切り出した。困惑した俺は思わず半歩下がってしまった。春野の表情は呆れているのと苦笑しているのとの半々ぐらいの複雑な表情であった。村岡も多分そんな顔をしていたと思う。いや、他人の顔色はどうでもいいんだけど。この間が。
「この後、予定はあるかね」
「ないけど……えーと」
「そう、そうか。都子が言うことにはな、こういう状況で男女は、先ほど桜と明石がそうしたように、恋仲であるなしに関係なく、一度、で、でで……でぇと、をするらしいんだ。都子と村岡もそうするらしい……何かそういうものらしい……何か言っていて腑に落ちないんだが……本当なのか都子……?」
顔を赤くして、一気に捲し立てられたと思ったら、春野が思いっきり嘘八百を吹き込んだらしい。村岡も驚愕している。いや、あいつ的には校内で一、二を争う美女とのデートのチャンス到来ということなのか……? ……待て、詳しくないが、春野にはおつきの騎士様がいるって噂だったような……。いや、今はどうでもいい。そんなことより。
「あら、本当よ。別に本当に恋人同士がするデート程じゃないにしても、健全な男女ならね。軽い食事でもして、談笑でもして、和やかに解散するものよ。勿論そこから本当にお付き合いする人たちもいるけど、絶対ってわけでもないし。……無理強いするものでもないけれど。やっぱり止めて、私と一緒に帰る?」
「……う、いや」
あれが次期生徒会長の手腕なのか。とても真面目な表情でとんでもなく適当な嘘を吐いていやがる。よくまぁそんなデタラメをさも世界の真理かのようにスラスラと……。
「それとも、シンジ君じゃ不満? あらあら。ならシンジ君。私と……」
「そ、それはダメだ。よくない。この男は都子をやらしい目で見ている」
見てない。冤罪だ。
「それぐらいなら、私を見ろ。私なら胸の内に留めておいてやれる」
「それは気づかいというべきなのか謂れなき冤罪だと怒るべきなのか」
「あら。チャンスじゃない。合意の上でジロジロ頭の上からつま先まで見てあげれば」
「じ、じろじろ……」
どこをどんな風に見られるのを想像したのか、氷川さんが顔を赤くして自らを抱いて何やら縮こまっている。何を想像しているんだこのひと。
「……というか、春野さんも煽らないでくださいよ」
「シンジ君への援護射撃になるかと思って」
「なってますかねぇ」
ぶつぶつ何か呟きつつ身を抱きながら縮こまっている氷川さんを見るのは大変新鮮であり、自分が何か謂れの無い窃視者扱いでさえなければかわいいと呑気な感想も持てたのだが、俺の脳裏がこれは何か碌なことにはならないぞと警告している。ここは後に禍根を残すことも承知の上で村岡を連れて逃げるべきだろうか……。
「……よしわかった。三井君。で、でぇとだ。そうしよう。ジロジロ見てもいい」
「多分行為に対して見合ってない覚悟をしていると思うんですが」
「そうねぇ。胸元少し開けてみるとか」
「あんたはそろそろ引っ込んでいてやってやれ。いやマジで」
また煽りに煽るところだった春野を村岡が止める。よくやった。そのまま彼女を連れていってくれ。多分近くに彼女の騎士様がいるんだろうが、恐らくそこまで短慮な人物ではないだろう。状況を理解すれば春野の方を叱ってくれるさ。
「開けないからな」
「開けなくて結構です。……行きましょうか」
「いいのか……安心した。……うむ。ではな都子。村岡。くれぐれも都子に妙なことをしないようにするんだぞ。心配は無用だろうが……」
「はいはい。頑張ってねー、お二人とも」
「……何を頑張らせる気なんだあんた」
普段ボケてばっかりのどうしようもない村岡がここまで突っ込みに回る常識人に見える日がこようとは……何やら感動してしまったが、そんな些細な感情を吹き飛ばすように俺は氷川さんに手を掴まれ、ずんずんと駅から商店街の方に引きずられていく。
「ど、どちらに?」
「特に考えていなかったのだが……ああ、すまない。早足だったかな」
頭が冷えたのか、ようやく氷川さんは止まってくれた。周囲の人からは、怖そうな彼女の機嫌を損ねた、愚かな彼氏にでも見えたことだろう。俺だって言うほど、あんまりに貧相な身体はしていないつもりだが、事実身長は彼女に負けている。……体重でも勝てるかどうか怪しいとは思うまい。……女性の認識上の適正体重ってBMIで低体重に分類される程度が適正なんじゃないかってたまに思う。細身が美徳の文化は現代人を不健康にしていると思うんだ。それも未成年の内からそんな……。
「そうだ。これはでぇとだからな……足並みを揃えんとな」
「……それなんだけどね?」
ひどく緊張しているようで、何やら変な方向に思考が飛びかけている様子だが、そろそろ落ち着いてもらわなければ。この状態じゃ進展も何もあったもんじゃない。
「言葉を変えただけで、やっていることは普段と変わらないよ」
「……む。……あ、……二人で、過ごすだけ、なんだものな」
「わかってくれましたか」
「……うむ。すまない、取り乱していた。都子の奴……妙なことばかり私に……」
「氷川さん堅いから面白がられてしまうんでしょう」
「確かにそうかもしれんが、これは性分なのでね……いかんともしがたい」
ううむ、と氷川さんは悩まし気に腕を組んで唸り――それから、はっとした表情を浮かべ、それからわなわなと震えだす。面白い人だな本当に。
「もしかして、こういう状況で男女は必ずでぇとするというのは嘘か」
「お気づきになられましたか」
「都子と村岡は、まさかあのまま別れたんじゃあるまいな」
「多分そうだと。春野さんのおつきの騎士様が近くにいれば三人でいるだろうけど」
「……騎士様? 都子とよく一緒にいる、あの精悍な男のことか」
「やっぱり本当にいたんだ」
精悍ときたか。運動部のエース……それも武道関係者とみたね。空手部のエース君とかかな。いや……うちの学校、空手部なんかあったか……? 剣道……柔道……イメージとそぐわない。まぁいい、その内会うこともあるだろう。
「……とにかく、私はまんまと一杯食わされたわけだ。……ああいや、でも別に君と一緒にいるのが嫌なわけじゃあない。都子の奴に玩具にされたのが気に入らんというだけの話だ。まったく、いつもいつも私が何も知らないと思って……」
事実そこまで素直なんだから面白がられるのも無理はないような気がする。
「……しっかし、感情に任せて何も考えずにこっちに歩いてきたが、どうしたものか。君、折角なんだ。どこか行きたいところとかはないのかね」
ぎくり。いかん、村岡と春野が(形はどうあれ)作ってくれたチャンスを俺は活かせないというのか。事実何もバスで思い浮かばなかった。駅周辺で彼女が喜んでくれそうな気の利いた店はいまいち思いつかない。いつも行くゲーセン? カラオケ? いや、だめだ。あれらはやろうと思えばそれなりに疲れる。暑い中あんなゲームをした帰りの今、あんまり疲れそうな遊びはできない。どうするんだ俺。
「……とりあえず、一度一息いれたいところだね」
「確かに、少し疲れたからな……」
――閃いた。何かしようとするから思い浮かばないんだ。逆の発想だ。『何もしない』んだ。いや、もういっそ一息に飛び込んでしまえ。家に招こう。
俺の思考は緊張と暑さと疲労に大分やられていたことを併記しておきたい。
「俺の家で良ければ場所を提供するよ。エアコンもあるし、人を招ける程度には片付いてもいる。……いや、うん。言っていて明らかに失言だったように感じてきたけど……」
「……君は度胸があるのか不器用なのかたまにわからなくなるな」
氷川さんは目を丸くして、それから堪えきれず、といった風にクスクスと笑った。よしこれは多分セーフ、セーフだ。思ったより引かれていない。
「まぁ、そうだな。その度胸に免じて虎穴に飛び込むとしよう。……もし、もしも……私をお、おそう……気でいるのなら……その身命を賭してかかって……こられたら困る」
「俺が言えたもんじゃないけど無理しないでください。あと襲いませんから」
だから人をなんだと思っているのか。……いやしかし、男はケダモノという言葉があり、高校生男子なんぞは猿という意見もある。なるほど、油断してはいけない存在である。問題は俺がどうしようもないボンクラであるということか。頭の鈍そうな子猿を警戒していても得るものは少ないし、簡単に制圧できてしまうだろう。なんて悲しい自己分析だ。
「そう、そうだな。いやすまない。どうもこういう状況に舞い上がったようだ。その誘いを改めてありがたく受けよう。ご家族の迷惑にならなければいいんだが」
「母は友人とお茶会なんだそーだから、気にしないで」
「……『今日家に誰もいないの』というやつだな。男女逆でも成立するとは思わなかった。いやまて、そうなると……ふむ……まぁそこは問題ないか……」
その変な方向に立てているアンテナをいい加減どうにかしたほうが良いのではないか。あとそのあとに一体何を逡巡したんだろうか。氷川さんの思考は時にぶっ飛んでいる。
「しかし、なんだな。男の子の部屋なんぞに入るなんて、経験したことがない」
「俺も女の子を部屋に呼んだことなんてありませんとも」
ええ、ありませんとも。なくて何か悪いんですか。むしろ頻繁にあるやつが倫理的におかしいと思うね俺は。不潔よ不潔。殺菌して消毒してやろうか。清潔になれ。
……いや、変な妬みはやめよう。思いつきで妙なことになったが、それを言い出したのは俺なのだからそろそろ冷静になるべきだ。とりあえず、何か適当に買っておきつつ、無言の状況が続く自室という地獄だけは回避できるように考えておかねば……。
*
夏休みに入った後、母親にどやされて部屋の掃除に取り掛かるように言われたことがここになって活きてきた。いや、そのときは氷川さんを部屋に呼ぼうという大胆を通り越して無謀な考えはなかったわけだけども、何があるかわからんもんである。
「……もう少し、猥雑なのかと思っていた。いや失礼」
「あんまり物が増えるタイプでもないからなぁ」
見られては不味そうなものは収納に押し込んでいるだけとも言う。何か間違いがあってもいけないので、普段使用しているノートパソコンの類も隔離済みだ。そして氷川さんは家探しするタイプでもない。完璧だ。
「しかしだね、君」
「何かな」
とりあえずちゃぶ台に飲み物だお菓子だを並べ、座布団を用意して座ってもらい、自分も対面に座り込んだわけだが……彼女が言いたいことはなんとなくわかる。
「……何やら重大なイベントなのだということはわかるのだが。実際こういう状況で二人は何をするのが正解なんだ……?」
「……ゲームでもします?」
世間はこういう時どうしてるんでしょうね。何も思いつかない。これが村岡や明石なら特に何も問題ないというのに。異性が相手だと何もかもわからない。
「いや、まぁ……興味はあるんだが……それはいい」
氷川さんは何やら居心地悪そうに、視線を彷徨わせたり俯いたりしつつ、手元のペットボトルを気にしたりしている。……あ。しまった。コップぐらいもってくればよかった。普段そうしているからって、家の中なんだからラッパ飲みはないでしょう。普通。
「せっかく二人きり、なんだ。これで喫茶店だと、私だとどうしても周囲を気にしてしまって、多分言い出せないことだったと思う。本当は話すつもりはなかったのだが、今を逃がすと次にいつ機会が巡るかわからない。聞いてくれ。大事な話だ」
「……き、聞きましょう?」
この行き当たりばったりの状況でそんな大事な話を切り出す決心をするのはどうかと思うんだ俺。何故って、俺の心の準備が出来てないもの! 友人関係からリスタートという話をここでいよいよ打ち切って他人になろうというお話か何かか! そんな失恋したら俺は夏休みいっぱい引きこもるからな。
「な、何を百面相している?」
「あ、いや。緊張して……」
「ああ、そうか。すまない。変な切り出し方だったから、流石に怪しく思うか。大した……ことはあるんだが……変な話……でもあるんだが……」
「聞くのがどんどん怖くなりますが、ええ、聞きましょう」
「そうか。そうだな――」
思わず汗を握る。一体何を話す気なのか。俺の最悪の想像通りなのか。俺の想像通りになるぐらい好感度が底を突き破ったのなら、普通部屋にほいほいついてこないと思うのだが、何しろ氷川さんなだけに、絶対にありえないと断じることはできない。
「――君と、今後は、もう少し距離を置きたいと考えている」
――。思考が氷結する。『やはり、そうか』と考え、冷めていく心と、方向性の無い感情が渦を成し、それが考えを鈍らせ、凍らせてしまう。結果として、呆然としたまま、彼女の言葉が続くのを待つしかない。
「最近の私は変なんだ。精神疾患の線を考える必要がある」
……はい?
続いた言葉はさらに予想を超えるものであった。間抜けな言葉未満の声が漏れたが、それにしても何か意味のある言葉を紡げそうにはなかった。彼女は何を言おうとしている?
「君と一緒にいると奇妙に緊張するんだ。動悸もあり、感情的になる。君の事をふと考えると、胸が痛む。先ほど君が都子を見ていたときは何故か怒りを覚えたし、悲しくもなった。だからこそ君に攻撃的な態度もとった。……程度はわからないまでも、これらの症例から考えるに、何らかの精神疾患の疑いがある。心療内科などで話を聞いてみない限りはわからないが……このままでは君を傷つけたり、あるいは大きな迷惑をかけるかもしれない。ただ、君がこの症状の鍵になっていることはどうやら間違いない。……このことがハッキリするまで、少し距離を置くべきだと思っている。頭のおかしな女に付き纏われるのは君の人生に、間違いなく負の影響がある。……折角の友人で、もしかしたら恋人となる君に、傷をつけたくはない」
…………。どう反応しろというんだ。『それは俺のことが好きなんだよ』とか言えるわけがない。言ってどうする。言えるかそんなこと。そんなことを言える俺は間違いなく気持ち悪さ満点だ。絶対死にたくなるに決まっている。……でもどうすればいいんだ。
「納得しがたい、という顔だな」
「あ、いや……」
そうじゃなくて、何て言葉をかけるべきなのかだとか、どうすればいいのかだとか、助けを呼ぶとしたら誰だろうとか、そういうことであって。
しかし、混乱し軽いパニックを起こしている俺を無視し、彼女は続ける。
「君の反応を見るに、外部から観測して何かわかるような状態ではないのだろう。これは私の内面、心の問題であり、それに起因する行動の変化はまだいわば初期段階なのだと推測できる。その状況であれば、周囲にとって変化が知覚できない以上、こう言われても困惑しかしないというのは理解できるつもりだ。しかし、えてしてこの手の疾患は事態が深刻化してからではすでに収集不可能になるものだと聞く。だから、私は……」
どうしよう。言いながら、彼女は段々と涙目になっていき、ついに大きな滴がこぼれだし、彼女の握りしめた拳にぽつぽつと落ちていく。……俺はどうするべきなんだ。
「正直なところ、半分勢いだという面はある。あるが、ここのところの自覚症状と、先ほどの都子と、君に対する感情的、攻撃的な言動を自分で取ったことで、かなり疑いが強くなった。実際どういったものなのかはわからないが、予防措置だと考えてくれ。もし何事もないのだとしたら、これまで通りの付き合いも継続できるだろう。何かあってからでは遅いんだ。……こんなことは、人目のあるところではとても言えなかったから、な。君がこうして部屋に招いてくれてとても助かった。……すまない。考えすぎなんじゃないかとは私も思わないでもない。君も納得し難いはずだ。だが、疑いは晴らさねばならない。ハッキリさせることが肝要だ。曖昧なまま、このまま過ごすことはその方が耐えがたい。多くはない友と、そして君と、共に過ごす得難い貴重な時間に、こんな気持ちをいつまでも抱えるなんてことは……きっと、胸が張り裂けそうになる……」
どうするか思いつきもしないし、どう振る舞うことが正解なのか、何もわからないが、とにかく黙って聞いているしかない。それ以外の行動がとれないというのもあったが、仮に今何かできたとしても、まだ黙っているべきだろうと思ったのだ。
「辛くなる、ことだと思う。君にも迷惑をかける、と思う。どれぐらいの期間になるかわからないが、しばらく君と距離を置いて、その『しばらく』の最中。私の心はより感情的に、衝動的になりそうだと思う。冷静に何か考えられるのか、理知的に振舞うことができるのか。私は、それは難しいと思う。親にはまだ話していないことだが、今晩にでも打ち明けようと思う。私を引きずってでも、然るべき医療機関に連れて行ってもらうよう頼んでみるつもりだ。どうしてこうなってしまったのだろう……すまない」
「……」
こうなるとは思わなかった。この展開は突然すぎる。だが、そうか。そうだ。猫柳女史の言っていたように、彼女は極端な程に色恋に疎い。そもそも、どういう感情なのかすら理解すらしていなかった。だから――。
何かを言おうとして、口ごもる。何かを言うべきなのだ。何か動くべきなのだ。それはわかっている。でも、何を話せばいい、何をすればいい。己惚れた勘違いでさえなければ、これはもう……。ただ、それを、俺が言うのか?
「氷川さん。まずは、落ち着いてほしい。それは、多分、精神疾患なんてものじゃない。ご両親と話すのも、まずは一度思いとどまったほうがいい。お医者さんもそう。うん……」
「……き、君。大げさだと思っているようだが、私は――」
「そうでなくて。……それを、春野さんに一度話してみてから、考えてみて」
「……都子? 何でここで都子が出てくる?」
「俺からじゃ口にするのは難しいことだからです」
「……。む、そうか。わ、わかった……が、見当違いなようなら、怒るからな」
「ええ、うん。その時はそうしてくれていいんで……」
とりあえず、落ち着かせることに成功した。こんな先送りのような宥め方でもう俺は肩で息をするような心境であった。実際少ししていたかもしれない。
何を無責任な、とは自分でも少し思うんだが、少し考えてみればわかることだ。じゃあ俺がここで氷川さんをそっと抱き寄せ、『それが恋だよ』などと口走ったらどうなってしまうのかを! 羞恥のあまり俺は死ぬぞ! 俺は耽美系美少年でもなんでもねえんだよ!
故に、女性の方から指摘してもらう他ない。その後のことはその時考えればいい。恐らく、今よりかは行動の幅も広がるはずだ。フリーズしているよりもマシ程度の話だが。
「そ、そうか。わかった。そうする。誘ってもらってすまないが、今すぐ話してくる。まだ駅近くにいるはずだものな。……正直なところ、今日会ったときから、ずっとそんな感じなんだ。君が悪いわけじゃないんだろうが……いや、すまない。とにかく行ってくる。この埋め合わせはまた今度する。それでは」
ばたばたと、慌ただしく氷川さんが部屋を出る。……玄関の方で何か短い会話のやり取りがあった。……不味い。とてもひどい状況で母親と鉢合わせした。
その後、女の子を連れ込んだ末に泣かせたという容疑で俺は取り調べられた上に、尋問は夜中にまで及び、帰宅した父親も巻き込んだ家族会議になったことを記しておきたい。
*
深夜にまで及んだ拷問寸前の尋問と略式裁判を終えて迎えた朝。俺は最後まで厳しい尋問に耐え、事実のみを話した。略式裁判において下された労役刑という判決を俺は不服として争う姿勢を見せたが、控訴は認められずに判決は確定された。しかし、これを以って俺は釈放されたのである。……勿論俺は睡眠時間を取り戻すために、朝というには少し苦しい時間まで寝ていたとも。ギリギリ、喫茶でモーニングが食える時間だ。
さて昨日の騒ぎはどう収束することになるやら。コーヒーを啜りながら携帯を気にしていると、折よく電話がかかってきた。氷川さんからであり、非常に簡素な呼び出しを受けた。ただ一言。駅前に来てほしい、というだけである。
どうなるにせよ、覚悟を決めていかなければならない。身支度を整え、自分でも苦しいぐらいに緊張して向かう。氷川さんが昨日、春野とどういう話をしたのかはわからない。そして勿論、氷川さんが今日俺に何を言うつもりなのかはわからない。事態は楽観していいほどのんびりした話ではなく、かといって悲観的になればいいというわけでもない。
――辿りついた駅前、彼女はいた。何やら緊張した面持ちで、落ち着きなく周囲をきょろきょろとしている。やがて俺の姿を認めると、握りこぶしを作って俺を睨むように見据えた。……あれは睨んでいるつもりはきっと本人にはない。表情で感じ取れるより彼女は焦っているに違いなかった。あれは多分、よくない。
「やあ、おはよう。氷川さん」
「あ、ああ……おはよう、三井君」
先手を打って、まずは挨拶。彼女ははっとした様子で、それから挨拶を返した。……とりあえず、一拍、落ち着かせることができたようである。あの様子だと開口一番に何か口走っていても不思議ではなかった。……何を言い出すにしろ、きっとそれは衆目に晒される中、大きな声で言うことではないだろうからだ。
「……人目につかないところで話したい」
「少し歩いたところに県立公園があるので、虫取り少年を避けて木陰に入りましょう」
「う、む。そうか、そうだな。そうしよう……」
夏休みということもあって普通なら県立公園なんぞ家族連れだらけである。ただし、その広さ故に、密度はエリアによって異なり、閑散とした場所も存在する。利用したことがこれまでに少なくない俺にはなんとなく見当がついていた。……何の自慢にもならんが。
お互いに言葉少なく公園に向かう。駐車場は満入りであり、人もかなりいたが、大体の利用客は駐車場からあまり離れた地点には向かわない。小さい子供が遊ぶには十分な広さのある広場があり、何かイベント事をやっているなら駐車場近くに多目的ホール及び広場が存在する。奥は歩いたり走ったりする目的がある人ぐらいしか行かないところである。……勿論、ウォーキングにランニングに利用する人だってそもそも訪れる人間の母数を考えれば相当数いるのだが、コースから外れればその限りでない。
そんなわけで、蝉が大合唱している木々に隠れるように向かい合う。……夏なんだから仕方がないといえば仕方がない。蝉は待っても黙ってくれないのだから騒音は諦めるしかない。……よし。本題に入ろう。
「すまない。……いい公園だ。歩くと気分がいいだろう」
「まぁ、うん。そうだね……それで」
「ああ……そうだな。話そう」
氷川さんが拳を握り、俯いていた顔を上げる。若干の涙の痕と、紅潮した頬。鋭い視線は遠慮なく俺に向けられ、刺されるようであったが、受け止める。
「……都子と話した。言われたよ、あの一連の症例こそが――恋であるのだと」
絞り出すように彼女は言った。それに対し、相槌も何も打てなかった。世界の時間が止まったようであったが、蝉時雨がそれを否定していた。……彼女は一歩踏み込み、さらに言葉を続ける。掴みかかられそうだと思ったのは、あながち錯覚でもないだろう。
「――君はあまりに早く条件を満たしてしまった。私が慣れていなかったのもあるだろう。だが、だがね。あそこまでみっともなく、泣いて喚き、無暗にイライラして攻撃的になり、散々な無様を見せた私は、この気持ちを君に押し付けていいのか分からないでいる」
さらに半歩、彼女は踏み込んだ。恐らく自分が段々と距離と詰めていることに、彼女自身わかっていないだろう。……一言発するたびに、目元に涙が浮かんでいることにも。
「わからないんだ。あの時あんな大見栄を切っていながら、この様である私に。君は、君は私を――私を好いてくれているのか。自信がもてない。君に好きだと言っていいのかわからない。あの三年生までにという時間制限は、君だけに課せられたものではでなく、私にも課せられていたんだ。私が、君に好きになってもらう制限でもあった。君は、自分はそう思っていないんだろうが、私を――初恋というものに、落としてしまった」
さらに半歩、彼女は踏み込む。もう彼女の顔が目前にある。――熱く、大きな滴が零れ落ちる。――それに呼ばれたように、風が吹き抜けた。
それを合図に、今度こそ世界が止まったように、蝉が黙った。
「自覚してしまったら、収まらない。形容できず、精神疾患の症状だとしか認識できていなかったものに名前がついてしまった。恋なのだと。君が好きなのだと。君はどうだろうか。君は、私を……君は私に、恋をしているのだろうか。私のことを好いてくれているのだろうか。――以前のことはどうでもいい。今の君を聞きたい」
再度風が吹き、蝉時雨が再開する。俺の、あまり文学的でも、理屈っぽくもない頭は、彼女のようにすらすらと何事か発するようにはできていない。――思いの丈を、単純にぶつけることしか俺にはできないだろう。
「――俺も、氷川さんのことが好きだ」
受け答えとしては簡単すぎる。足りない。氷川さんが反応するよりも早く、言葉を続ける。彼女がどれだけの気持ちでいたのかわからない。彼女がどういうわけでこんなボンクラ男に惚れたのかなどはわからない。わからないが、あそこまで女の子に言わせたのだから、男がそれよりも短い言葉で返すなんていうのはだめだろう。
「高い身長の割に、可愛らしいのが好きだ」
「……う」
「得意気に、何かズレたことを言い出すのが好きだ」
「なっ、ちょ、君――」
「クールで、理知的に、格好よく振る舞うのが好きだ。何か勘違いして抜けていて、からかわれて赤面するような可愛いところが好きだ。氷川さんの全部が好きだ、何もかも。外見も中身も、その全てが――俺は大好きだ」
途中で止められそうになったが止めてやらず、ついに伸びてきた手が肩を掴んでも止めてやらなかった。言えといったのは氷川さんである。止められるものか。
「だから、今から。恋人になってくれませんか」
そこまで言って、ようやく俺の肩にかかった力が抜けた。それから、涙をあふれさせた眼でこちらを睨みつけてくる――。
「――後悔しても、知らないからな」
「名前で呼んでもいいかな」
「好きにしろ。私もそうする――。でも、そうだな。何でだろうな」
――ふと、彼女の表情が柔らかくなり、涙を隠すように空を見上げた。その顔には、確かに微笑が浮かんでいた。先ほどまでの険しい顔はそこにはない。
「――とても、とても嬉しいよ。こんな女だが、こんな女だからこそ君は好きになってくれたのだろうと思える。――だから、そうだな。私も、君がきっと、そんな男だからきっと私は好きになったのだろう。あまり卑下したものでもないよ」
あらためてこちらを向いた彼女は、照れ臭そうな笑みを浮かべていて。きっと自分も似たような表情をしているのだろうと思うと、何だかむず痒いものを感じてしまう。それを誤魔化すように、俺は彼女の手を取った。
「……少し、歩こうか、縁」
「そうだな。少し落ち着いてこれからを話そう、慎二」
――夏の空は青く透き通り、子供たちの声と蝉がどこまでも響き渡るようだった。
そんな中で、俺は望外の幸運を手にしていた。手の中にある温もりは、何かの拍子にすり抜けてしまうものなのかもしれない。この世界は基本的に残酷にできていて、都合の良い幸運などは発生しえないのだという。それが冷たい現実というもので、もし都合が良い幸運などと巡り合ったのならばそれは――
――凶事の前触れの偽の幸運なのだと。故に、信用してはいけないのだと。
などと、そんな無根拠な心配が、ないわけでもない。でも、もしそうなのだとしても――。
「好きだよ、縁」
「しつこいな君も……! 私もだ、慎二。君が好きだ。……これでいいか?」
「ええ、満足ですとも」
――そうなのだとしても、今はこの、望外の幸運をかみしめたいと、そう思う。
どうだったでしょうか。
今作ヒロインはかわいく書けていたのでしょうか。どんな塩梅でしょうね。
『紆余曲折ある恋人達』の完結をもって『八木東高校砂糖の山事件』もひとまず、終わらせていただきます。
しかし、また何か、こんな小さな恋人達のお話を紡ぎたくなることがあるかもしれません。
そのときはまたしれっと投稿するかと思います。どうぞよろしく。




