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step.4


 退社前に捕まったわたしは、仕方ないなと了承した。

 誘いを断るのも後々の仕事に支障が出る。円滑なコミュニケーションをはかるには、多少の妥協も必要だ。たとえ、下心を含んだ合コンのお誘いだとしても……対処には幸か不幸か慣れているので上手くかわせる自信がある。

 フフフ、百戦錬磨のノニちゃんを舐めんな! なんて、処女喪失は二週間前だけどネ。


「って、コトなの。イチ」

 ごめんね、と手のひらを合わせて頭を下げる仕草をする。

 わたしとしても、イチと一緒に食事をするほうが絶対楽しいし、幸せなのだけれど……会社の人間(別部署)からの誘いを断るとこれまでの経験上あまりいい影響〔こと〕がない。それなら、少し我慢をして付き合って適当なところで抜けたほうがあとの仕事がしやすいのだ。

「ふーん、それってニノ目当てなんじゃないの?」

 面白くなさそうにイチはビールを口にする。

「ははっ、客寄せではあるかもね……よくあることだし。慣れてるから平気だよ」

「はいはい。で、どこでするの?」

「えっと、確か……筋の○○ってお店だよ」

「わかった。9時くらいに迎えに行くから」

「……え?」

「彼氏がいるとか言ってかわすつもりなんだろ? だったら、男が迎えに行ったほうが信憑性があるし、次からの誘いも減るんじゃない?」

「で、でも」

 嬉しい。それは、とっても嬉しいけどっ。

「僕なんかでも一応男だし、利用できるものはしとけばいいよ……なんて、僕じゃ役不足かな?」

 首を傾げて尋ねてくるイチに、「いやっいやっいやっ!」と慌ててわたしは首を振る。

 願ってもないです。むしろ、嘘でも他の人に「彼氏」として紹介できるなんて……夢みたい。わたし、すっごい役得?

 ハァハァ。

 あやしい鼻息まで出ちゃうっての!

「じゃ、じゃあ 是非 お願いしていい?」

 エヘヘ、と笑ってわたしは上目遣いで彼に甘えた。




( なんかすごかったな )


 昨日の夜のことを思い出してわたしはポーッとしてしまった。あのあと、居酒屋を出て近くのラブホテルに入ったらいつになく乱暴に抱かれてしまった。

 あんまり激しくて最中のことは覚えてない。わたしが慣れてないせいもあるけど……目が覚めたら体中の至るところにキスマークがあって……洗面所の鏡で首筋とか隠し様のない場所に見つけた時にはどうしようかと悩んだ。

 とりあえず、コンシーラーで目立たないようにして、あとはできるだけハイネックの服を。

 太腿の内側にもあったから、露出の高いものはやめてパンツにした。

 思わず顔がニヤけてしまうぞ。コラ。

 こんな幸せな悩みが世の中にあっていいのか? いいんだね。うふふふふ。

 隣に座った男が話しかけてくるけれど、適当にあしらって食事だけは黙々と口に運ぶ。

「幸せそうに食べるんだね、二宮さん」

「幸せですから」

 モグモグ。

「穂乃香って呼んでいいかな?」

「ダメです」

 モグモグ。

「どうして?」

「わたし、いま付き合ってる人がいるんです」

 モグモグ。

「ああ、だろうねぇ」

 と、馴れ馴れしい男は肩を抱いてきた。

 むむっ、このオトコ……手が早いゾ。

 ピシャリとその男の手を叩いて睨むと、よほどの自信家なのかニンマリと笑ってきた。

 頭、おかしい人に認定。

「オレのほうがいいと思うけど?」

 モグモ……。

「は?」

 この勘違いオトコが、何か言いましたカ?

「いまの彼氏よりずっと満足させられる自信あるんだけどなあ、オレ」

 カチン、カチンときましたよ!

 何だ、その自信。どこから来た! 否、わたしから想像して下世話な連想をしないで欲しい。

 軽く見える外見で悪かったねっ。

「余計なお世話です。彼以外で わたし が満足するなんてあり得ません」

 キッパリ言い放って、ヘラヘラ笑う男を一瞥。フン!

 あとで嘘とは言え迎えに来るイチをそんな目で見られるなんて我慢ならなかった。キチンと訂正しなければ。

「高校の時から片思いしてようやく恋人らしくなったんですよ? わたし、 超 真剣なんですから失礼なこと言わないで下さい」

 顔は笑って、目はしっかりと呆然としている男を見据えた。

 と。

 そんなやり取りを何回か、別の男とも繰り返した。

 これだから合コンは苦手なんだってば! ろくな男がいないんだからっ。

 つーか、寄って来ないんだよねぇ? なんでだ?


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