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 わたしはあの時、どうして待ってしまったのだろう。

 ずっと、後悔している。

 会えなくなるなら、いっそ動けばよかったのだ。

 進学した大学を卒業して、どうにか就職もして希望通りの仕事をして……なのに、心はあの時から少しも動いていない。


 あの時の、不器用な恋を。

 まだ、あなたに恋してる 少女 のまま足掻いてる――…。



 故郷から遠く離れた街の通りで、見覚えのある顔を見つけた。

 あり得ない。

 故郷にいた学生の頃は、高校を卒業してしまえば会うこともなかったのに……どうして?

 運命なのかな?

 なんて、期待してしまいそうなシチュエーション。


「イチ?」

「ニノ?」


 相手もわかったみたいだった。

 互いに目を見開いて、指を指す。それくらい、奇跡みたいな偶然だった。

 高校時代の親友。ううん、違うな。

 一番仲のよかった男友達……でもなく、たぶん一番好きだった男の子だ。

 あの頃。

 花の間を飛び交う蝶のように告白してきた男の子と付き合っては、その愚痴を彼に聞いてもらっていた。まだ、恋心なんて気づいてもなかった。

 穏やかに笑って「大変だね」と優しく話を聞いてくれる、居心地のいい場所。

 それが欲しくて、告白してくる相手と手当たり次第に付き合っていたのかもしれない。

「元気だった?」

「うん。偶然だね」

「ホント、あっちにいた時は全然会わなかったのに……こっちに住んでるの?」

「そうだよ、ニノは仕事で?」

「最近ね、異動になったの……こっちはまだ慣れてなくて」

 こう言えば、優しい彼はきっと応えてくれる。

「そっか、じゃあ相談にのるよ? 僕は結構長いんだ」

「わーい」

 ほらね。

 彼はクスリ、と笑ってそんな私を見る。

「彼氏の愚痴も聞くよ、いるんでしょ?」

 と。

 ピクリ、と心臓が跳ねる。

「いない、よ」

 そうだよ、いるワケない。ずっと後悔してたのに。

 高校を卒業してからは、誰かと付き合う気になれなかった。

「イチは?」


「え?」

「彼女、いるの?」

「いるよ」


 あの時、動かなかったことをわたしは また 後悔した。


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