表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫は色の名前をひとつも知りませんでした。けれど私が染めた布を、一枚も手放しませんでした  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/31

第二十八話 祈り色の調合への挑戦

地下蔵で、一枚の布を見つけた。


他の布より材質が厚く、織りが細かい。色は完全に褪せていたが、染め方の構造が読めた。単色でも二重染めでもない。複数の染料を組み合わせた複合染め——しかも順序が通常の工程と違う。


「これが祈り色の布だと思います」


裏を見ると、刺繍があった。「いのりあお」——祈り藍。


地下蔵から上がって、工房で王都の知識を総動員した。


婚礼の祝い色、葬礼の弔い色、収穫祭の豊穣色——王都で学んだ儀礼用染色の技法がある。染料の配合、媒染の種類、色定めの集中の仕方まで、全て記憶している。


「では試します」


まず藍を基調に。祈りの色は藍が基本だと学んだ。媒染は通常より多め。色定めに込める魔力を、いつもより意識的に送り込む。


染め上がった布を見た。


深い藍だ。むらもない。色定めの仕上がりも良い。


「似ていますか」とリゼッテが覗き込んだ。


「似ています。でも……何かが違う」


「どこが?」


「分からないけれど、違う」


ヨハンを呼んで見せた。


ヨハンは布を手に取り、光に透かした。


しばらく黙っていた。


「……昔の祈り色は」とヨハンは言った。「もっと深みがあった。布の奥から光が出るような感じがした。これじゃない」


「布の奥から光が」


「そうだ。見ているだけで、何かが胸に来る感じがした。こう、体が温かくなるような。子どもながらに、これは特別だと分かった」


技術の問題ではない、ということだ。


色は出ている。構造も正しいはずだ。でも「何かが足りない」。


「込め方が違うのかもしれません」


「この土地固有の何かが必要なのかもしれない」


「固有の何か?」とリゼッテが言った。


「王都の技法は、王都の水と土と空気で作られています。でもグラウエンの祈り色は、この土地で生まれた技法のはず。何かが違うはずなんです。染料の種類か、水の使い方か、あるいは……魔力の込め方そのものが、この土地向けに調整されているのか」


「難しいですね」


「はい」


ヨハンが「焦らんでいい」と言った。「昔の師匠たちも、長い時間をかけて作り上げたんだろうから」


「分かっています。でも少し焦ります」


「なぜ」


「婚礼の依頼が来そうで」


ヨハンは少し驚いた顔をした。それからゆっくりと、「そうか」と言った。


夕方、工房の窓から空を見た。


秋の色になってきた。葉が少しずつ褐色を帯びている。青い空が高い。


「冬が来たら、染料園はどうなるんだろう」


一人で呟いた。


植物は枯れる。水が凍る。染色ができなくなるものも出てくる。


でも冬を越えれば、春がある。ヨハンが言っていた——眠った土は豊かになる、と。


もう少し、待とう。


急がなくても、季節は来る。

次話も更新されます。引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ