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第5話 「それが僕のチャームポイントなんでね」


 カーテンの隙間から、朝の陽射しが差し込む。

 それに合わせるように、目覚ましのアラームがピピピと鳴り響き、私はゆっくりと目を覚ました。


「……いや、もうちょっと寝たい」


 そう思いながらベッドの上で寝返りを打った、そのときだ。


『――たまえ』


 どこからか聞こえてくる、心地よい低音のイケメンボイス。


『――起きたまえ』


 ……もう、声が良すぎる。

 正直、このままずっと聞いていたいかもしれない。


「もう昼に差し掛かろうというのに、いつまで寝ているんだい? さっさと起きたまえ」


 そこでようやく、私は現実に引き戻された。


「……はっ。はあああぁぁぁっっ!!?」


 慌てて飛び起き、目の前の光景を見た瞬間、顔面から血の気が引く。


「やっと起きたようだね。スマホに掛けてもずっと出ないから、部屋までお邪魔させてもらったよ」


 私の目の前には――なぜか、舘林が立っていた。


「いや、ちょ……待って。色々、考えさせて」

「どうぞ?」


 紳士的に掌を向ける彼だが、気に掛けるところはそこじゃない。


「私のマンションに、私の部屋に、なんでアンタがいんだよ!」


 こっちはパジャマ姿、それも完全に寝起きだというのに。


「ああ、それくらい、僕の権限があれば一瞬で開錠できるさ」

「それ、不法侵入の自白でいいんだよね……?」


 型破りにもほどがある言動に、朝から頭が痛くなる。


 確かに昨日、私は舘林と“専属小説家になる”という話をした。

 だが、それは履歴書を出したわけでも、正式な契約を交わしたわけでもない。ただの口約束だ。

 だから住所も電話番号も、何ひとつ教えてはいなかった。


 バイトも辞めろと言われていたが、昨日は激怒する姉妹を宥めるのに手いっぱいで、そんな余裕はなかった。


 ……それから、たった翌日で、これだ。笑えないレベルで怖すぎるって。


「アンタは私のストーカーか? それと一応言っとくけど、私も女なんだけど……この状況、通報していい?」


 スマホを握る私に、舘林は軽く咳払いをする。


「まあ待ちたまえ。突然押しかけた非礼は、詫びる必要があるかもしれないが」

「“かもしれない”じゃなくて、ちゃんと詫びろ」

「僕にもスケジュールがあってね。君のマイペースな人生に付き合っているほど暇じゃないんだ」


 相変わらず口が悪い。

 寝起きも相まって、私はいつも以上に鋭い目で彼を睨んだ。


 だが舘林は気にも留めず、部屋を見回しながら続ける。


「それに……僕だって君の部屋に“それらしさ”があれば、少しは態度も変えたんだがね。これじゃあ、恥じらうこともできやしないよ」


 彼の視線の先には、散乱した荷物と洗濯物の山。

 しかも、汚物でも見るような目をしていた。


 ……いや、それは洗濯したばっかのものだし! 汚くはないから!


「まさかここまでの“汚部屋”とは、さすがの僕も想定外だったよ」

「だから汚くないって! ちょっと散らかってるだけ!」


「だが、だからこそ……予定より早く来たんだけどね」


 私の抗議を完全に無視しつつ、舘林は指をパチンと鳴らした。


 直後――玄関から、どやどやと人が押し寄せてくる。


「えっ!? な、何!? 何なの!?」


 全員、同じ作業着姿。

 引っ越し業者だと理解するよりも早く、彼らは手際よく荷物を運び始めていた。


「ちょっと! 何してんの!?」

「昨日言ったじゃないか。専属小説家として、僕の家に住み込んでもらうと」

「昨日の今日で!? こっちだって心の準備とか、手続きとか、色々あるってのわかってんのか!?」


 喚く私に、舘林はため息交じりに言う。

 すると彼は一瞬だけシリアス顔をして言った。


「君を早くこの場から連れ出したかった……」

「え?」


 その絵になるような横顔は思わずドキリと心臓が高鳴る。


「——じゃないと君のことだから後からビビって“雇用はやっぱりナシで”とでも言われたら堪ったものじゃないからね」


 高鳴りは一瞬にして真冬の如く冷めきった。

 カラスにビビり散らしてたのは何処のどいつだよ。


「それに、僕は思い立ったら即行動が信条でね。これでも君に配慮して“待ってあげた”方なのさ」


 彼は今朝、私の代わりにバイト先――例の食堂へ辞表を出してきたとも付け足した。

 っていうか、行動があまりにも早すぎるだろ!


「“いきなり・唐突・突拍子もない”。それが僕のチャームポイントなんでね」

「それをチャームポイントだと思えんのは、アンタくらいだって……」


「つまり、僕と契約を交わした時点で君に拒否権はないってことさ。だからまあ、後悔はしないでくれたまえ――ハーッハハハッ」


 鼻につく高笑いが、部屋に響く。


 私は呆然と、自分の頬を抓ってみた。

 残念ながら現実だ。酷く痛い。


 消えていった彼の方を見つめながら、私は小さく呟いた。


「アンタの存在が一番理不尽(ホラー)なんだけど……」


 当然、その声が届くことはなく。

 舘林はさっさと部屋を出ていってしまった。


 そして恐ろしいことに引っ越し業者もまた、私の意見など聞かずにどんどんと作業を続ける。


「って、ちょっと待って! 服まで全部詰めちゃってんじゃん! せめて着替え分は残してよ!!」


 私は慌ててベッドから飛び降りた。 




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