表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/22

第13話 「何より、彼らが良い人たちだからだよ」



「最後はここだよ」


 そこは町から少し外れた場所で、どこまでも田んぼが続いていた。

 が、そんな田んぼの中にポツンと、まるで切り取られたかのように一軒の店が建っている。

 レトロモダンな雰囲気を醸し出す外観に、これまたオシャレな扉が印象的な店だ。


「さあ、先に入りたまえ」


 扉を開ける舘林に促されるまま、私は店内へと足を踏み入れる。

 中はこじんまりとしていながらも、温かみのある造りだった。

 そして何より目を惹くのは、ショーケースに並ぶ色とりどりのケーキの数々だ。


「うわ、すご……」


 猫を模した可愛らしいケーキや、繊細にデコレーションされたケーキ。

 どれも見ているだけで目の保養になる。


「いらっしゃい。お待ちしていましたよ、舘林さん」


 店の奥から現れたのは、これまた目の保養になりそうなダンディ系イケオジだった。

 ……しかも眼鏡属性。思わず見惚れてしまう。


 私が目を輝かせている隣で、舘林はいつもの得意顔で言った。


「例の品は用意出来ているかい?」

「はいはい。少し前に出来たところですよ」


 そう言って彼――イケオジ店長がショーケースの一角から取り出したのは、大きめのケーキボックスだった。


()()()()ケーキです。落とさないよう、気を付けてくださいね」

「そんな初歩的な失敗、僕がするわけないだろう?」


 そう語る舘林の一方で、私はケーキボックスの中身が気になって、ついまじまじと見つめてしまう。

 その視線に気付いたのか、店長は笑みを浮かべて言った。


「中にはね、舘林さんの大好物のチョコレートケーキが入っているんですよ」

「チョコレートケーキ? へえ、意外と……」


 私の視線が舘林へ移る。

 彼は咳払いを一つして反論した。


「それは僕に対する偏見だなあ。こう見えて僕は甘いものに目がないのさ。特に彼――佐々木さんの作るケーキは、いくつ食べてもくどくならない魔法のような生クリームが絶品でね。それだけじゃない、ここは丁度いい甘さの美味しいスイーツばかりなんだよ」


 まるで自分のことのように語る舘林。

 この男は鼻につくことばかり言うのに、こういうときは人を惹きつける声を持つから悔しい。

 店内に漂う甘い香りの誘惑もあって、思わず涎が垂れてしまいそうだ。


 するとイケオジ店長――もとい佐々木は、照れ隠しのように笑った。


「ははは……君にそう言われると、賞でも貰った気分になりますよ。本当に作りがいがある」


 そのやり取りを見て、少しだけ町の人たちの気持ちが理解できた。


 舘林はいつも堂々としていて、言葉に嘘がない。

 仮にお世辞だと思っても、その勢いが相手を心地よくさせる。


 ――きっと、これがカリスマ性というやつなんだろう。

 だから町の人たちも彼を対等に扱う。


 だからこそ。

 一方で私と彼には、まだ一線を感じてしまう。対等になれているとは思えない。


 ……考えすぎかもしれない。

 けれど、町の人たちが私と妙に距離を取っている理由も、そこにある気がした。


 そんなことを考えていると、佐々木が両手をポンと叩いた。


「そうそう。実はね、彼女さんに僕からプレゼントを用意したんですが……渡してもいいでしょうか?」

「言っておくが、彼女は僕の家で養うことにした人であって、僕の“彼女”ではない。だから僕に断りを入れずとも好きに渡して構わない――」


 舘林が言い切る前に、佐々木は小さな小箱を私の前に差し出した。


「受け取ってくれますか?」

「え……?」

「せっかくプレゼントしてくれると言うんだから、ありがたく受け取りたまえ」


 ふと箱を見ると、その上部は透明になっていて、可愛らしい動物を模したチョコレートが覗いていた。


「可愛い……」


 感嘆の吐息を零す私に、佐々木は穏やかに微笑む。


「君が彼の家に来てからね、舘林さん、前よりずっと生き生きしているんですよ」

「え? そうなんですか?」


 意外そうに視線を向けると、舘林は何も言わず顔を背けた。

 ……まあ、あの上から目線のテンションを“生き生きしている”と捉えれば、確かにそうかもしれない。


「だから私は君が来てくれて、本当に感謝しているんです。これはそのお礼ですよ。どうか受け取ってください」


 私は戸惑いながらも、プレゼントを受け取った。

 まさかこんな形でイケオジから贈り物を貰うとは。素直に嬉しい。


 それにしても――私が来る前の舘林は、そこまで沈んでいたということなのだろうか。

 尋ねたところで答えは返ってこないだろうが、視線を合わせようとしない彼の態度が、それを物語っていた。


 ……後で柳原に聞いてみた方が、色々と話してくれるかもしれない。


「まったく…貴方も心配性だなあ。僕は以前と何も変わっていない。至って普通だというのに」


 そう呟くと、舘林は踵を返して店を出て行ってしまった。

 気付けばコイントレイには、すでに代金以上の金額が置かれている。


「フフ……普段は堂々としているのに、自分のことになるとああして照れてしまうところが……息子みたいで放っておけないんですよ」

「可愛げ……あります?」


「そのうち分かりますよ。だから、根気よく彼を見ていてあげてください」

「いえ、だから私、彼女じゃ――」


 反論しかけたが、深々と頭を下げられて、それ以上何も言えなくなった。

 ……ここに来てから、頭を下げられてばっかりだな。


「何をしているんだい。早く車に戻りたまえ」


 扉を開けて戻ってきた舘林に呼ばれ、私は急いでプレゼントを持った。


「ああ、今行く!」


 佐々木に軽く会釈し、慌てて店を出た。

 振り返ると、佐々木は穏やかな笑顔で手を振っていて、私もつられて手を振り返した。




 すべての買い物を終え、車は舘林邸へ向かった。


「この美戸井町を巡ってみて、どうだったかな? 実に住みやすい町だろう?」

「だから、もう何回か来てるんだって――」


 と、言いかけて、私は口を閉ざす。

 確かに彼の言う通り、柳原と来たときとはまた違う町の顔を見た気がした。


「まあ……アンタが、この町の人に愛されてるってことは分かったけど」


 町の人たちは、舘林を単なる羽振りのいい金持ちだとは思っていない。

 そこには、ちゃんとした信頼関係があった。


 そう思うと、彼の知らない一面がまだまだあるのだと、思い知らされる。


 まあ、コイツと出会ってまだ一か月程度だ。

 何も知らなくて当然なんだけどさ。


「それは僕が親しみやすい人間というのもあるが……何より、彼らが良い人たちだからだよ」


 そう語る舘林の声は、いつもより少しだけ控えめだった。




 夜は舘林の断言通り歓迎会が行われ、沢山の御馳走がテーブルに並んだ。


「どれも最高の食材を使っているからね。最高の味付けに決まっている。さ、遠慮せず食べたまえ」


 舘林は早速ワイングラスにワインを注いでいた。


「ちょっと量、多すぎやしない? こんなに食べたら太るって」


 櫻井一家(私んち)も育ち盛りの男たちばかりだったからまあまあ食べた方だが、テーブルにはそれと互角の料理が並んでいる。

 まあ、小日向(あのこ)も呼ぼうとしていたのだから、いつも以上に張り切っていたのも無理はないだろうが。


「なあに、余った分は雅也が全部食べるから問題は何一つないよ。まあ、君がどうしても太りたいほど食べつくしたいと言うのならば、皿を空にしたって構いやしないけどね」


 そう言って舘林は高笑いをする。

 コイツの皮肉は無視しつつ、私は目を丸くして柳原を見た。


 舘林どころか、もしかすると私よりも痩せていそうな彼が、まさかの大食漢?

 何度か一緒に食事を取っていたと言うのに、そんなフードファイトしている様子は一度も見たことがない。


「……いつもは腹二分目で控えていますので」


 疑問符を浮かべる私に、気付いた柳原は淡々とそう返した。


「八分じゃなくて二分目? 相当我慢してんじゃん!!」

「僕も食べたいだけ食べるよう言っているんだけどね。“成人男性が一日に必要なカロリーは摂取できているから”と言って遠慮してしまうんだよ。だからこうしてパーティを開いたときは、雅也もたらふく食べられるように沢山の料理を用意するのさ」


 舘林はため息交じりにワインを一口飲む。

 つまり、羽目を外して良いときはフードファイターぶりを発揮するってことなのか。


 柳原を見つめていると、彼は早速、そういった機械のごとく黙々と料理を口に運んでいく。

 

 二人の知らなかった一面を見て、今日は改めて一か月という月日が()()()()であることを実感させられる。

 私はそう思いながら、静かにサラダを食べ始めた。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ