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爆破犯

作者: 千景 もも
掲載日:2025/12/09



──ドバァン!!


 爆ぜた。



「う、わあああ、どうしよう? や、やっちゃった? いやまだやり直せる? むり? むり?」

「るっせ、」

「いきてるううう!!!」



 国の中央広場。中心にある時計台の前に、見せしめのように置かれた鉄の牢獄。つながれていたのは、王妃殺害を企てたという若い男。



「なんでおまえ、おれを」

「知りませんよスッたのが爆弾だったから投げただけで!!」

「は、投げた先が世紀の極悪人のところだって? それで逃がしてりゃお前も共犯だな」



 いや何言ってるんですかあなた。


 共犯って。爆弾投げつけただけですよ。 それがたまたま牢獄の鍵を破壊して、あんたが出てきちゃっただけじゃないですか。それを確信犯だと勝手に認定してあんたがオレ見つけて近寄ってきただけ。ほら、オレ親しみやすい美人だからよくアンケート取られることあるし。


 あ、いや。このワードだけだとそりゃ捕まるの確定だけど。ちがう。情状酌量の余地は十分すぎるほどあるよ。今着てるこの服みたいに真っ白なんです、オレは。



「酒のんで酔っぱらってたのに。一気に吹き飛びましたよ。ちょっともう一回興奮状態に戻してきていいですか?」

「どこの酒屋?」

「え今それ気になります?」



 後で行こうかな、みたいな軽いノリじゃないですか。無理でしょ。だってさっきの爆発で既に人も警備隊も騎士団も動き出してるんだから。焦りすぎて路地裏にこの人ごと引っ張ってきちゃったけど。てかやけに素直についてきたな?



「バカ。怪我の消毒だよ」

「ツバつけときゃ治りますよ」

「この怪我の範囲と血の量でそれやるやついるか?」

「うわぁ……なんでそんなことなっちゃったんです?」



 お前のせいだろうが、と軽く叩かれた頭。他人に暴力振るえるなら元気じゃないですか。てか別にオレ、あんたを助けたいがためにやったわけじゃないし。こっちも金がなくて困ってたし。隠しもってたあんた好みの酒を渡すほど、お人好しじゃないんすよ。



「ま、この様子だとあと5分で動かないと見つかる可能性のが高まりますよね。このマンホール潜った先、酒屋にも宿屋にも地下牢にもつながってるんで。行きたいとこ、お好きにどうぞ」



 ほい、と開けてエスコートする素振りを見せると、彼は眉間に皺を寄せながらオレを探るように見る。


 なんでそんな協力的なんだって言いたげな顔ですね。でもそれ、個人的なやつなんで聞いてもおもしろくないですよ。



「お前、脱獄したのか?」

「それ知って何になるんです? 突き出したところで3億ベルクくらいにしかなんないっすよ」

「国指定の凶悪指名手配犯じゃねぇか」

「国の見せしめ処刑予定者に言われたくないですけど」



 別にオレの罪状聞いたところで大したことないから。てか本当は知ってたでしょ、あんたなら。



「……いろんなもん盗んできただけですよ」



 酒も爆弾も地位も金も人格も、人の心も。


 別に誘ってすらないのに、王妃が駆け落ちするとか言い出して。それで、怒り狂った王が牢屋にオレをぶちこんだだけ。とんだとばっちり。なんでオレがって自分ばっか責めてたけど。でも、救ってくれた人がいるんだよ。ただ、救世主なんて見る側面が違えば凶悪犯にもなり得る。


 てかさ。つまんない昔語り聞いてる間にもう来ちゃうよ? お兄さんの敵がさ。ほら行ってください、と差し出した手。まだ爆発の衝撃で痛むのか、家の外壁に預けたままの体が思うように動かない様子だけど。



「へぇ。じゃあ、俺の敵もお前の敵も、一緒だな」

「……だから?」

「ついてこい。お前も」

「嫌で、……あの保留もダメです?」



 掴まれた手。荒く繰り返される彼の呼吸が、すぐ近くにまで寄ってくる。変な緊張を体験させられるこの感じ。嫌というほど知っている。これは、ロクな未来にはならないやつだと。


 悟ったことに気付かれないように開けた距離を、男は掴んでいたオレの腕を引くことで無効化する。



「諦めろ。たぶんこれは、運命ってやつだ」



 にぃ、と上げられた口角。


 こんな時に、目の前の疑似救済の手にすがる哀れな男。そんな恋愛構文を、得体の知れない脱獄犯に仕掛けるなんて絶対正気じゃなくて笑う。


 でも。うずく好奇心が、どうしようもなく刺激される。



「逃避行の相手にオレのこと選ぶなんて、随分とお目が高いですね」



 さて。懐に忍ばせていた酒瓶をどうしようか。


 怪我を消毒してやってもいいし、瓶で殴り倒して騎士団に付き出してやってもいいし、目の前で飲んでやってもいいし、この男との交渉材料にしてやってもいい。



「マンホールに落ちるならお前とがいい」

「恋に落ちるみたいな文脈で言うのやめてもらえます?」

「俺のことを受け止めてくれんのはお前だけだ」

「物理的にね」



 背筋ぞわっとするからやめてくれないかな、その口説き方。



「知ってたよ。お前が、迎えに来ることくらい」

「……返事保留って言ったじゃないですか」

「王妃のとこにはケリつけに行ったんだろ? そんで牢にぶちこまれるんだからもう笑うしかないよな」

「人のこと言えませんけど」



 牢獄で会えると思ったんだけどなって。あそこ、むさ苦しい男か胡散臭いブタか枯れたじいさんしかいなかったですよ。そんなとこでロマンス繰り広げたっておもしろくないでしょ。



「決めたか、覚悟」

「1個だけ、まだ」

「なに」



 開けたマンホールの内側の階段をトントンと降りながら、つながれたままの手を握り返す。引きずられた彼の上半身。苦しそうにうめく声が中に響くから、それを塞ぐ。冷えた空気からの断絶。その余韻が、互いの唇から漏れ出た。



「心を盗むだけなんて、そんなの一つもおもしろくない。だから、」



 差し出しせよ。あんたが、オレに。



「あんたの全部。奪いたいと思わせてみろ」



 伸ばされた、もう片方の腕。


 ぐらりと。大きく揺れた重心のまま、落ちていく。派手に落ちたわりに、それほど痛みを感じなかった体。背中から後頭部に回された腕と、上からのし掛かる懐かしい重み。


 なんでいま。オレが、受け止めるはずだったのに。また、あんたは。



「ばか、っ急に」

「やるよ」

「……は?」



 首もとに埋まったままの男のくぐもった声が、熱をもってよく響く。わざわざ今日のために選んだ純白に近い服が、この人の傷から滲む赤を吸っていく。染まりきるのは、もう時間の問題でしかない。


 静かに、けれど確実に拍動は早くなる。タイムリミットを刻み、ゼロへと近付くほどに間隔は短くなっていって───



「過去も、今も未来も。俺の全部、お前にやる」



 ───爆ぜる。


 痛みを伴うそれらが、心の檻を壊した。




派手な文章書いてみたい!

→爆発したれ

→113分後、爆破犯と脱獄犯という謎バディ完成

→いいや出しちゃえ!

というアホな発想からうまれました。

読んでいただいて、ありがとうございました。


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