不死身
世界の辺境に足を運んで呪術というものを見た。体に多くのペイントを施した褐色系の住民が、一生かけても理解できなさそうな言葉を発していたが、やはり言霊というのはあるのか、呪術にはもってこいと言わんばかりの言葉であった。それは夜に入り始める、十七時あたりの薄暗いとき。炎の周りをその褐色の原住民がその言葉をたくさん隙間なく言っていた。炎の中には、この村で生まれた女の血を固めたものを投げ入れていた。血を抜かれる女というのは、文字通りすべての血を抜かれるということである。つまり死んでしまうが、この呪術の素晴らしさは、その血の抜かれた女が生き返って不死身になるという現象にある。『ブデブゴッタ』という呪術らしい。そこの村長は多少私と話せるので、呪術に関することをたくさん教えてくれた。無論、不死身になる方法である。
用意するものは自分の血とゼラチン、炎である。私は村から少しばかり離れた場所でその儀式をしてみることにした。サバンナのように平野なため、村を見失うことはないだろう。私は自分の手の甲に切り傷を作って、手の甲にそのまま血を広がらせた。そこにゼラチンを投与してすぐに切り離し、その血を持った。血は蛇の毒に犯されたときのようにプルプルであった。マッチで火を焚き、そこに血を投げ込む。どうやらあの謎の言語は言わずともいいらしい。使っている木が肝心だと村長は言った。燃やすための木は村の中でもすこぶる大きな、バオバブの木であったが、そこの住人は「カブカ」と呼んでいた。神の足という意味の名前らしい。どうも、神がこの土地を守るために足を切り落としたという話からそう名付けられたらしいが、私にはただのバオバブの木にしか見えなかった。研究者も冷めたものだ。癒しを求めてここへ逃げてきたというのに、そういう目線を失うことは容易ではなく、職業病というやつだろうか、私は何かに飲まれてしまった。
炎が尽きるまでまばたきをしてはいけないといったか、私は炎による暑さと乾燥に耐え、涙をつらつら流しながら炎を見届けた。不死身を求めていたわけではない。自然の中にある力と息吹は、私をどこかへ連れて行ってくれると思っていた。不死身であるのは不幸である。死ぬことが、私のゴールであり、ただ死なないことは新たなスタートになりうると考えた。どちらにせよ、私には良いことである。
呪術は無事成功した。村長がやってきて、「成功だ」と言った。不死身になったのだろうか。私は焼け跡を背に村へと戻っていった。夜空も深く、美しく広がっていた時間のとき、その小さな村で私は最後の確認をした。世界の辺境にある村で見た呪術を通して、私はゴールをした。「パァン」と鳴り響いた音と共に、私の血が村の土に広がった。




