② 最初の旅行先へ
「まあ立ち話もなんですから、とりあえず乗って下さい。」
そう言うサン・ジェルマンにエスコートされて、京子はビートルの右側の助手席に乗り込んだ。
通常のメーター類とは別に、センターコンソールのあたりに、何やらよく分からない機材がビルトインされている。
出発日時、行先日時、帰着日時の入力の他に、どうやら緯度・経度まで設定できるようだ。京子がその辺りをしげしげとながめていると彼がまた喋り出す。
「素敵でしょう?行きたい時間も場所もご希望通り。自由自在です。京子さん、最初はいつのどこに行ってみたいですか?」
京子は少し考えてから答える。
「歴史に興味はあるけど、せっかくだから戦争とか災害とかではなくて、芸術に関するモノを見てみたいかな…。」
「ああ、そうでしたね。貴女は昔からそういう方でした。芸術、特に美術がお好きで、SFや不思議な話、推理小説、マンガやアニメもお好きでしたね。」
「…私のこと、よくご存じなのね。」
「それはもう…。最初は貴女の一族のチカラの継承から興味を持ったのですが、しだいに貴女という人物について知ってからは、貴女個人に惹かれて行きました。」
「…だからまるでストーカーのように、私のことをアレコレ調べたと?」
「その単語、まだ使われてないはずですよね?ああ、その昔、雪村君に教えてもらったのですね。お二人は恋愛関係まで一歩手前の、御親友ですものねえ。」
「…その話題、続けるなら今すぐクルマを降りるけど?」
「ああ、申し訳ない。つい…悪気は無いのでお許しを。では、これ以上、貴女の機嫌を損ねないうちに、出発するとしますか。」
サン・ジェルマンはそう言うと、そそくさと何やら中央パネルに入力した。
京子がそれをチラ見すると、北緯43度47分、東経10度55分、1457年4月20日の15時00分という数字が見てとれた。
「車体には光学迷彩が、施されているんですよ。」
どうやら、外部からはこちらの姿が見えなくなったらしい。やがてクルマはその場から垂直上昇したが、これで問題無しという訳か。
いつもながら用意周到な男ね。
京子は半ば呆れながら感心した。
サン・ジェルマンがシフトをドライブに入れてアクセルを踏み込むと、周りの景色が滲み出した。
❝あのエレベーター❞よりはましな乗り心地だな、と京子は思ったのだった。




