① 駅前でお出迎え
「超時空の魔女」の後の村田京子と
サン・ジェルマン伯爵の冒険譚です。
黄色いワンピースが大好きなお嬢様。
雪女属性のチカラを持った永遠の23歳。
そんな村田京子と婚約者の、時間旅行の
様子をお楽しみいただけたら幸いです。
1989年1月8日の日曜日。時刻は午前9時。
今日から平成元年が始まるというこの記念すべき日に、雪女の末裔の村田京子は、サン・ジェルマン伯爵を呼び出すことにした。
場所は自宅からほど近い、地下鉄上社駅のバスターミナル前だ。
今日も彼女は、お気に入りの黄色いワンピースを着て、その上からバーバリーのトレンチコートを羽織っている。
以前、例のアレを食べたせいで、見た目はずっと23歳のままだが、今年で2年近く歳をとったはずだった。
今のところ、周りからそれほど違和感を言われてないわよね?
不老不死になったことは家族にも内緒なので、京子はそれを気にしていた。
あと10年もしたら、誰からも離れて生活しなきゃね。
それとも❝特別な美容法を試している❞なんて言ってみたりして。
彼女はそんなことを毎日考えて、ドキドキしたりニヤニヤしたりしている。
それにしても、今思えばアレを食べたのが23歳で本当に良かった。
どこかの誰かさんみたいに❝永遠の17歳❞ってことになったら、年々違和感が半端ないことになって行くもの。
彼女は始めのうちは負け惜しみで、今は本気でそう思っていた。
見た目が社会人として通用するかどうかは、人間が生活する上で、結構重要なポイントなのだ。
アルバイトだけではなくて、ちゃんとした会社勤めもしてみたいし…。
それにタバコはいいとして、オチオチお酒も飲めやしない。
うん、やっぱり私の選択は正解だったわ。
そうやって一人で納得する京子であった。
「さてと。」
彼女は胸に下げたペンダントトップを取り出すと、その緑の石の部分を右手で握りしめた。
自分に逢いたい時はそうするようにと、以前サン・ジェルマンに言われていたからだ。
するとすぐに、坂の上の方、ちょうど上社スイミングスクールのあたりから1台のワーゲンビートルがやって来た。
そしてそれは、キレイに磨かれたシルバーの車体を光らせながら、彼女の目の前で停車した。
「お待たせしました、京子さん。」
左ハンドルの運転席から降りて来たのは、やはりサン・ジェルマンだった。
「あら、素敵なクルマじゃない?」
京子は思わず言った。
いかにも成金然とした、バブリーな高級車が溢れる、80年代の文化にどっぷり浸かった後では、素直にそう思えたのだった。
「実はコレ、タイプワンの最終モデル、2003年製なんですよ。」
彼は自慢げにそう言った。
「しかもその、最終ロットなんです。」
彼はとても嬉しそうだった。
「この時間軸で3年ほど前に、バック・トゥ・ザ・フューチャーという映画が公開されたじゃないいですか。」
「ああ、それ、私も観たわ。そういうSF大好きなの。」
「クルマに時空転移装置を仕込むなんて、ドクター・エメット・ブラウンは天才ですよねえ。いやむしろ、脚本を書いたロバート・ゼメキスとボブ・ゲイルが天才なのか。まあそれで、とにかく私もマネしてみたんですよ!」
今日もグレーのスリーピーススーツを粋に着こなした、見た目永遠の36歳の彼が、珍しくまるで子供のようにはしゃいでいる。
クルマを誉められたのがそんなに嬉しいの?
それとも私と出かけるのが幸せってこと?
京子には判別がつかなかった。




