プロローグ
アマヤさんは、遮る人が現れるまでクラスで自己紹介をする予定です。
バンビコ・アマヤ
愛知県、名古屋
春の、新しい学校の初日には、いつも何か特別なものがある。
それは、恋愛ドラマの始まりみたいに、桜の花びらが優雅に舞い落ちる、そんな光景のことじゃない。私の人生の、象徴的な新しいスタート、ということでもない。
ただ…
いつもと同じ退屈なことの繰り返し。
でも、舞台だけが新しい。長ったらしい入学式に座って、ひたすら拍手して。誰がクラスメートになるんだろうって、内心ひそかに不安で。
朝早くから、こっそり隠したあくび。新しい顔、新しい生徒、新しい学校。そして、新しい始まりがもたらす、あの独特の緊張感。そういう、ありふれたこと。
高校一年生の最初の授業が始まると、その高い緊張感はさらに強まる。起立して自己紹介するように、と促されるからだ。
中学から進学してきた私たち、このクラスのほとんどが見知らぬ学校からの転入生みたいなもの。
だから、先生が入ってきたとき、その顔は新鮮さと同時に、手に負えないという感情でいっぱいになっているように見えた。
「はい…」先生は溜め息をつき、私たちクラスのアドバイザーで体育教師だと自己紹介を終えると、両手を腰に当てた。
教室をじっと観察した後、こう続けた。
「まあ!」先生はそう言うと、くるりと背を向けて黒板に何かを書き始めた。「じゃあ、みんなに自己紹介してもらおうかな。よろしく! このクラスは転入生がほとんどか?」
私たちは、この新しい担任をどう捉えていいか分からなかった。
三十代半ばくらいの男性で、その有り余るエネルギーと唐突な指示に、私たちは完全に不意を突かれた。
私も、声にならない「はい」を、そっと呟いた一人だった。
先生は黒板に、名前と出身中学を含めて自己紹介するようにと書いた。教室はざわつき、一列目の生徒が席から呼ばれるまでに十五分もかかった。
私たちのほとんどは、緊張でただただ落ち着かない。
そもそも、大勢の前に一人で立つなんて、誰が好きなの? 全員の視線が自分に集まって、それで、一体何だって言うの?
私の番が来たとき、私はおずおずと立ち上がって前へ歩いた。アイロンをかけたばかりの真新しい制服で埋め尽くされた教室を、ちらりと見渡す。
それは、私が前に立って、無数のまたたく瞳が私の口から出る言葉を待っている、その光景を目の当たりにする前の、全体的な背景だった。
「おはようございます、皆さん」私はそう言って、ごくりと唾を飲み込みながらお辞儀をした。「ええと…わたくしはバンビコ・アマヤです。春日台高等学校の出身です」
「ふぅん…」先生は唸った。「あの…日本人には見えないな。でも、日本語は上手だ」
「フィリピン人です、先生」と答えた。前の同級生たちより長く立っているのが恥ずかしくて、少し頭を下げた。「でも私は名古屋で生まれ育ちました」
「あ」先生は言った。「はい」彼はうなずき、クラスメートたちも納得の声を上げた。
「えー…」とみんなが言う。今、注目の的になっているのが本当に恥ずかしい。
「アマヤさん!」後ろの方で誰かが叫んだ。振り返ると、手を挙げている人が見えた。
「私はフィリピン人のハーフですよ。もっと良い自己紹介をして、私の血筋も代表してくれませんか?」
アマヤさんは、学校の不良である鈴木亮介に会います