第ろ話:反魂。
あー……。
ごめんなさい。今回なんだか文章が雑です。
ちょっと、いろいろと伝えておきたいことが多すぎてまとめきれませんでした。
多分話の流れは問題ないはず。
ちなみにサブタイトルも問題なし。
次回は「第く話:死神のパートナー。」
今回の話でまとめきれなかったことを書きたいと思います。
黒。
黒黒黒。
上も下も右も左も前も後ろもみんな黒。
見渡す限り無限大、見回す限り360度全方向、見ている限りいつまでも黒。
そこは、ただ黒。
とにかく黒。
たとえようもないほど黒。
坂田ソテツは、そんなところにいた。
さっきからずっと歩き続けている。それでも、端にたどり着く気配はない。そもそも、端があるのかさえ確認できない。
視界は真っ暗。足音さえ響かない。そんなよく分からない空間の中で歩き続けていた。
直前の記憶はある。
ビルから落ちたこと。死神の少女と出会ったこと。そして地面に落下し、死んだこと。
これが死後の世界なのだろうか?
一片の光さえ入らず、自分の姿すら確認できないここが死者しか目にすることのできない世界なのだろうか?
正直に言えば、味気ない。
天国や地獄があると思っていたわけではない。でも、もう少しくらい何かあってもいいと思う。
そこには何もなかった。
上も下も右も左も前も後ろも。
ただ、時間だけがあった。
どうしようもないことを無駄に考えるだけの時間なら掃いて捨てるほどあった。
とりとめもない思考が脳内を駆け巡る。
やがて意識が重くなってきた。
その重さに身を任せる。すると意識が薄らいできた。
しばらくして、それが眠気だったということに気がついた。
抵抗はしない。
それはたとえようもないほど気持ちよかったし、その先に何かがあるような気がしたから。
ソテツは眠りに身を任せる。
そうして、彼の意識は完全に真っ黒に染まった。
究極の自由。
究極の不自由。
相反する二つのものがそこにはあった。
視界が開けるのが分かる。
光が差し込み、真っ黒な世界が消えた。
視界という自由と引き換えに、世界を想像する自由を失った。
ぼんやりと、身体の感覚が戻ってくる。重力に引かれ、仰向けで横たわっていることが分かった。
身体という自由を手に入れた代わりに、移動の自由を失った。
そして俺は目を覚まし、無意識の自由と引き換えに意識の自由を手に入れた。
「――痛っ」
身体を起こすと、そこかしこが筋肉痛のように痛む。
頭の中もぼんやりとしていて、どうもはっきりしない。
「起きたのですか? それは良かったですわ」
そこに、どこかで聞いたことのある声が聞こえた。
「……トト、だったか?」
「ええ、そうですわ。おはようございます」
目の前には、銀の髪の死神が座っていた。
周りを見渡すと、どこかの家の一室のようだった。
「なあ、ここは?」
「今は使われていないマンションの部屋ですわ。取り壊しもされないみたいなのでここを宿にしていますの」
「そうか。いいところだな」
「でしょう? まあ、電気もガスも水道もないのが欠点ですけど、私は使わないから関係ありませんわ」
ゆっくりと、確かめるように会話する。
彼女も俺のリハビリに付き合うように普通の会話をしてくれていた。
しばらくの間、当たり障りのない話を続けた。
結論から言うと、俺は死んだ。
いや、殺された。
目の前の少女、トトに。
これは建前でいっているのであって、別に彼女に直接的に殺害されたわけではない。
だが、彼女が一度救ったその命を手放した、ということだから、とりあえずは彼女に殺されたということで良いだろう。
とにかく、俺は確かに死んだ。
そのことだけは揺らぎようのない事実だ。
ではなぜ生きているのか。
生き返らせてもらったのだ。
銀の死神――トトに。
俺が地面に向かって落下し始める直前。
彼女が耳元に顔を近づけてきた。
「ごめんなさい。最初はあなたを助けようと思っていたのですが、その、力不足でできなかったんです、の。……あなたのことは殺しますが、あなたには死んでほしくありません。……ですから、絶対。どんな手を使ってでもあなたを生き返らせますわ。だから、待っててください」
混乱した。殺す相手に生きてて欲しい?
生き返らせる?
さまざまな疑問が一度に浮かんだが、聞き返す暇もない。
そのまま、俺の身体は重力に引かれるままに落下し始めた。
彼女は、死神の力なのか一瞬だけ空中にとどまると、瞬きをしている間に消えた。
そこからは、もう思い出したくもない。
そのまま俺は死んだ。
「……本題に入ろう。なぜ、俺を生き返らせたんだ?」
本来、死神は死を呼ぶもの。多少のオプションはあるだろうが、基本的にはそういうイメージが浸透していると思う。
死とは真逆の生。
なぜ、彼女がそれを与えたのか、与え得たのかが気になる。
「え……とですね。まず、死神というものがどういうものかは分かりますか?」
「死神? 一般的には人を殺すもの、かな」
いろいろと諸説あるだろうが、これが基本だと思う。
「そうですわね。死神は、遥か古来から死を象徴するものとして扱われてきましたわ。実際、それが死神の仕事のひとつでもありますし」
「それだけじゃないのか?」
「ええ。そもそも、森羅万象にはそれと正反対となるものがあるのです。右と左。闇と光。そして生と死。ですから、死神は死を司るだけではなく、生を司る者でもあるのです」
それじゃあ生神だよな。とか思ったが、口に出すのはやめる。
一応真剣に話してくれているのだ。まじめに聞くことにしよう。
でも、「生神」ってなんて読むんだろう。いや、これはナマカミしかないよな。
ナマカミ……ナマカミ……。
「ぶふっ!」
やばい。面白すぎる。
え、神様って生ものだったの!?
早く食べないと腐っちゃうの!?
「どうかしましたの?」
トトがいぶかしげにこちらを伺ってきていた。
く、いかんいかん。ここは堪えなければ。
「い、いや……なんでもない。続けてくれ」
「? ですから、この世に生まれてくる命。この世から消えていく命。そのすべてを管理すのがわれわれ死神なわけです」
不思議そうにしながらもとりあえずは話を続けるトト。
「ですから、少々強引にはなりますが人間を生き返らせることもできるのですわ」
と、なぜか彼女の頬が赤く染まる。
「そして、あなたを生き返らせた理由ですが……。ちょ、っと、個人的な理由になるのですが。あの、その、わ、私の……パ、パパ、パートナーに、なっ、て、ホシカッタカラ……」
「ちょ、ごめん。最後のほうが聞こえない」
「ですから、その、わ、私のパートナーになって欲しいんですの!」
トトは耳まで真っ赤だ。
うつむいていて分からないが、その顔も真っ赤に染まっているのだろう。
で、彼女が恥ずかしがっているのに申し訳ないが、俺はなぜ彼女が恥ずかしがっているのかが分からない。いや、本当に。
「ごめん。パートナーって、何の?」
「だから……その、仕事のパートナーですわ。」
「仕事? 死神の?」
「そうですわ。死神は、相手をパートナーとするときにのみ、自分の殺した人間を生き返らせることができるんですの」
「俺が断ったら?」
「それは、その、嫌ですわ」
答えになっていないが……。今までの彼女の言動から察するに、何かしらの問題が発生することになるのだろう。本当は死ぬはずだった命も助けてもらっている。
「……だめですか?」
ここまで必死に頼み込んできている彼女を放っておくわけにもいかない。
「手伝うよ。俺のできる範囲でよければ、な。」
「――!!」
笑顔が咲く。とはこのことを言うのだろう。
彼女の表情はまるで花が咲いたかのように輝いていた。
ふと、外を見るともう真っ暗になってしまっていた。
俺が目覚めたときにはまだ日は高かったはずだ。ずいぶんと話し込んでしまっていたらしい。
パートナー云々の話が終わってから自己紹介。それからいろいろ。
とりあえず、そろそろ家に戻ったほうが賢明か。
「ところでトト。そろそろ家に帰りたいんだけど?」
「あ…っと、ごめんなさい。それは無理ですわ」
どうもばつが悪そうに彼女が言う。
「どういうことだ?」
「私があなたを殺したのは、その、あれなんですけども。肉体的にだけじゃなく、その、社会的にも殺す必要があったんですの。ですから、あなたの家は……ね?」
「……もうないと」
「そういうことですわね」
どうやら、俺は命の自由と引き換えに社会的な自由を失ってしまったようだ。
はい、で、ここはどうなんだ? とか、これつじつまがあってないとかそういうのがあれば、感想欄にでもお願いします。
その場でお答えします。
次回の話にかぶってても説明はします。
では、また次回をよろしくお願いします。