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第後話:坂田ソテツのその後。

今回はコメディ要素0%です。

本当は次の回とひとつの予定だったんですが、ちょっと長くなりすぎるな、と。二つに分けさしていただいた次第でございます。


これを読んで、「え!?」となっていただければ幸いです。

死。

それはどれほど甘美で、耐え難い誘惑なのだろうか。

意識的、本能的にそれを避けていても、目の前にしてしまえばそれから逃れることはできなくなる。

すべての悩み、苦悩、痛苦、煩悩、しがらみから半ば強制的に抜け出すことができる。

これは肉体世界、精神世界、それらを含むすべての世界において共通する事柄である。

では、死に縛られることのない存在とは何か?

それは死を超えた者。

それは死を体験したもの。

それは死を理解したもの。

すなわち死人である。

すでに死者となりえたものにとって、それは通過点に過ぎない。

後ろを振り返ってみて、ああそんなこともあったな。と、ただそれだけのことだ。

しかし、死者は語らない。

彼らはどんな金庫よりも固く口を閉ざし、どんな隠者よりも黙してやまない。

死人に口なし。よく言ったものだと思う。

それ故、死を語るものはいない。

死を語ることのできる唯一の存在――死者には、それを語る術がない。

だからこそ、生身の人間で死を知り得る者はいない。

いるはずもない。

死への誘惑。生への執着。

この二つが相反するからこそ人は生きる。

死を知らない。だから死を恐怖する。

死を知らない。だから死に興味を抱く。

死とは何か? それを知るために人は生きる。

しかし、それを成し遂げたものは未だかつていない。


結果言いたかったことは何か?

つまり、死とは自身を生から隔離してしまうもの。ということだ。

死したものが蘇ることはない。

蘇れば、それは死者ではなくなるからだ。

死を超えた先になにがあるのか? それを知る生者はいない。

それを知るものは、すでに生者ではないからだ。



坂田ソテツは死んだ。

いい意味でも悪い意味でも世界から隔離され、そして忘れ去られていく存在となった。

彼の落下点には未だおびただしいほどの血痕がこびりついている。

数刻前には、まだ彼の身体の破片が散らばっていた。

落ちたのは高層ビルの上から。肉体が断裂せずに残っているほうが不自然な状況だった。

その肉塊が彼だと判断されたのは、その服にはいっていた身分証からだ。

それはつまり、人物が特定できないほどに損壊し、原形を遺していなかったということ。

彼の持ち物がそのビルの中にあり、家にもいない。家族、親戚縁者、友人、知り合い。その全てをあたっても、彼の存在を確認することはできなかった。

それはつまり、彼が死んだということが認められたということだった。


後日、彼の名前は新聞やニュースで取り上げられることだろう。

エリートサラリーマン。苦悩の自殺。

うん、こんなところだろう。

こうして彼は社会的に存在しないことになる。

彼の人生は幸せだったのだろうか?

彼は満足のいく生活を送れていたのだろうか?

いや、もはや考えるだけ無駄なことだ。

彼は死の向こう側へとたどり着いた。

もはや生きている者がなにを考えていようが到底たどり着けない世界の話なのだ。


そうして、私は彼の人生について考えるのをやめた。

私がどうしたところで彼の気持ちが分かるわけでもない。

彼が心残りにしていたことがあっても私には分からない、代わりになることはできない。

だって――。


――だって、それは彼がこれから自分で叶えていくんだもの。



とある町外れの廃マンション。

かつての経済成長期真っ只中に建てられたよくあるマンションだ。

当時は、応募をしても当選するかどうか分からないほど人気で、全ての部屋はきっちりと埋まり、そこでたくさんの家族が生活していた。しかし、バブル崩壊と同時に居住者は激減していき、かなり前に建物自体を維持することができなくなった。

管理者は、その建物を取り残したままある企業に売り払ってしまった。

しかし、その企業が依頼した解体業者の内部でよく分からないことが起こっているらしく、結局今日まで解体されずに残っている。そんなマンションだ。


そのマンションの一室に、一人の少女が座っていた。

窓から西日が差し込み、部屋全体を紅く染めている。

彼女は、沈んでいく夕日をまぶしそうに目を細めて眺めていた。ゆっくりと沈んでいく太陽。空は、徐々に暗く、深く変わっていく。

日が完全に沈みきってもなお、少女は窓のそばから動かない。

まるで何かを待っているような、そんな哀愁さえ帯びた表情でただひたすら外の景色を眺めていた。

そんな彼女の隣で、一人の男が眠っていた。

彼が身につけているのは紺色をベースとしたスーツ。だったものだ。

ぱっと見ると、まるで体中にコーヒーをかけられて染みになってしまったかのように茶色い、斑模様が浮かび上がっている。しかし、よく見れば気づくだろう。それは、時間がたって変色した血痕。そのスーツの染みは、おびただしい量の血液でできていた。

しかし、彼が怪我をしているわけでも、ましてや死んでいるわけでもない。

その証拠に時折聞こえる寝息は安定していて、熟睡しているのがよくわかる。


彼の名前は坂田ソテツ。

同日の午前、オフィス街のビルから落下し死亡したとされている青年だった。

いかがでしたでしょうか?


とりあえず、次回からは本編らしきものに入ります。

6話分プロローグに費やすって・・・。


とりあえず、次回をお楽しみに。

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