1-2 ナゴとナツキの放課後+α。
「ふむ‥‥」
ある晴れた放課後。
詳しくは前話参照で和は鳴月の持ってきた資料を読み進める。
新聞部活動資料。
つまり次に調べるものについての予備調査を鳴月が行い、それを資料としてまとめたものだ。当然非公式な新聞部である以上さまざまな制約があったりするのだが、鳴月はそれを無視して調査を押し進める。結果迷惑を被るのは和であり巻き込まれた人間だ。大きな事態にまで発展しかけたことは一度や二度ではない。その度に和が問題を処理し、早期に解決をする。
‥‥友って、すばらしいものなんだよ?
そう心の涙を流す和だった。
「で、毎度のことだけど一応聞くぞ? このテーマ『死神』ってどういうことだ?」
鳴月の持ってくるテーマ自体「七不思議」「都市伝説」をはじめとするオカルト要素の強いものが多い。そしてその度にその現象の正体を暴くというなんとも新聞部とは呼べない活動が鳴月と和の活動なのだ。
和が質問すると、鳴月は待ってましたとばかりに立ち上がり大仰なポーズを決め、語りだす。
「大まかな内容はそこに書いてあるとおりよ。数日‥‥2週間くらいってとこかしら、それくらい前から全身を黒で覆った影が目撃されている。体全体を隠すコートだから特に目立つような服装でもなかったんだけどね、季節とか考えてもおかしいでしょ。ネットでも一部話題になってたみたい。そしたら巨大な鎌をだすところを見たとか一瞬で掻き消えたとかちょこちょこと目撃情報も上がってきててー」
そこまで言ってかばんからさらに紙を取り出して和に渡す。
「‥‥路上殺人?」
「そ。内容はよくあるような事件なんだけどねー。その事件が公表される前日――つまりは事件があった当日だぁね。現場周辺でのその不審な影の目撃情報が何点かあって、事件とのつじつまも合ってるってことで死神って名前がついたわけよ」
得意げに話す鳴月に資料を返す。
「で、その目撃情報は今も続いてるわけだな?」
「うん」
「連続殺人犯っていう可能性は?」
「さてねー。それを調べるのが私たちの役目でしょ?」
「『私たち』?」
和は立ち上がり、鳴月と対峙する。
窓の外を見ると、空は赤く染まり一部その色を黒く変え始めようとしていた。そんな中で、いまだに部活動が続いている。ご苦労様です。
「私たち、だよ☆」
人差し指を頬に当て、かわいらしく首をかしげる鳴月。
それをあきれた様な馬鹿にするような微笑で見つめ、和は教室のドアへ歩き出す。
「そこは『私』にしとけ。こっちがやんのはほとんど雑用なんだ、ほら、ちゃっちゃと行くぞ。もうすぐ夜だ」
「うんっ。私と、和で解決解決」
少し離れた和に、鳴月も駆け寄っていく。
そうして教室からは誰もいなくなった。
やがて教室を照らしていた日の光も消え、部活動に勤しんでいた学生たちもその姿を消した。先ほどまでは閑散としていながらも少なからず人間の気配のあった後者という建物が時計の音が響くあの薄暗い気味の悪い空間へと姿を変える。しかし、その雰囲気を打ち破るかのようにばたばたといくつかの足音が響き渡り、教室に勢いよく飛び込んでくる三人の少女。
「はぁっ、はぁっ‥‥遅かったか‥‥はぁ」
一番初めに飛び込んできた少女が教室を見回し、落胆する。そうとうの距離を走ってきたのか、それともそれだけ全力で走ってきたのか息が上がり、肩の辺りで切りそろえた髪が首筋に張り付いている。
「とはいっても、さほど遠くへ行っているとは思えませんが‥‥。このあたりにいることはわかったのですから、それだけでも上等でしょう」
二番目に入ってきた少女の弁だ。逆に彼女にいたっては息一つ切らしていない。後頭部の、比較的高い位置でまとめた薄い金髪が閉め忘れた窓から入る風になびいて独特の光の粒子を撒いた。
「でもなぁ‥‥やっぱ前のことも考えるとそうちんたらしてられないわけよ‥‥はぁ」
何とか調子を取り戻したのか、一番目の少女が嘆息する。
「‥‥? どういうことですか?」
二番目の少女は怪訝な顔で一番目の少女を問いただした。
それを見て、何が面白いのか小さく笑うと窓に背をむけて教室を出ようとする。
「今日だと思うんだよね‥‥次の『路上殺人』」
ちょど扉を出るときにそっとつぶやくと、同時に三番目の少女に声をかける。
「ほーら、いつまでへばってんのよ。さっさといくよー?」
「ぜはっ、ぜはっ‥‥、げふっげふっ。‥‥はぁー‥‥、はぁー‥‥。ち、ちょっ‥‥、ちょっと待って。‥‥はぁ、はぁ」
「‥‥マスター、辛いのなら私が運びますが?」
三番目の少女のあまりの様子に耐えかねたのか、二番目の少女が助け舟を出す。特に裕福そうでもカリスマがあるようでもない三番目の少女がマスターと呼ばれる所以はこの状況からは判断できない。
「‥‥い、いい。じぶん、で‥‥走る」
しかし、何か思うところがあるのかそれを断る。
「ならしっかりついてきなよー? このままだとやばいのあんたなんだかんねー」
それを一番目の少女が(一応)励ます。
「‥‥が、がんばります」
そうしてまた一番目の少女を先頭に一同は走り出した。来た時と違うのはしんがりを勤めるのが二番目の少女ということだけだろうか。三番目の少女をいつでもフォローできるようにとの配慮らしい。
そして、今度こそ誰もいなくなった。
翌日になれば程度の差こそあれまた普段の賑やかさを取り戻すのであろう。ただ、今は夜。眠りの時間。
いつもは喧騒に包まれるその場所も、今はひと時の眠りに。
どうもこんにちは輪音です。
とりあえず今回はここまで。うまくいけば次回あたりでトトが再登場するんじゃないかとかそういううわさです。
後半に出てきた3人組は結構布石的な役割をもっていそうでそうでもないかもしれません。
というか、元はといえば彼女たちが主人公の話を書くつもりだったとかそういううわさもあります。
まぁそんなことはどうでもいいので次も読んでくれると輪音は喜びます。以上。
では。