25:ただひたすらに死神。腐っても死神。神に祈ろうが死神。
「ソテツ!!上ですわっ!!!!!」
俺からは見えないが、どこかからか戦況を見ていたトトが叫ぶ。
確かに頭上から風をきる音が聞こえる。が、それを見上げるような真似はしない。そんなことができるのはあくまで漫画の中か、ものすごく達人かどちらかしかない。
日常生活全てにおいて、こと戦闘においてなんて高校生と大差ないような身体能力しか持たない俺は、敵の姿を確認すると同時に絶命しているだろう。
俺の役目はトトの準備ができるまで怪物の注意を引くこと。
なら、無様でもいい。
とにかく生き延びる。
できるだけ長く生き延びることがこいつを倒すことに繋がる。
だから、ただ前に飛び込む。
一瞬の後背後から堅いものが崩れる音が聞こえる。
「……崩れたのが怪物だったんなら良かったのに」
ぼやいてみるが、もちろんそんなことは無いだろう。
地面につくと、全力で転がりながらその場から逃げ、その流れで立ち上がる。
が、機械でできた獣の姿はどこにも見当たらない。
それと同時にまたもや頭上から気配を感じる。
そしてまた前に全力疾走。
「なんども同じことしてt――」正直体力が持つかは分からないが、時間稼ぎをする間くらいは……。
「ソテ――!!!つ――こ――わ!!!!!」
「――え?」
俺が疑問符を吐き出したのと、トトが俺に何かを叫んだのはほぼ同時だった。
「――ヴぉぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!!」
音にすればこんな感じだったかと。
もはや半分意識が飛びかけている。
おそらく、ヤツの咆哮であろう。
そしてその咆哮は真横から。
聞こえていた。
つまり通り過ぎたあと。
俺の左から、右へ。
俺の胴体を大幅に削り取って。
――――――――――――――――――――!!!??????!!!!!!
俺の口から人間とは思えないような声がでる。
いや、出ていたのだと思う。喉を空気が通っていくのは感じたし、鼓膜を震わす何かが空気中を伝わっているのもわかった。
このわき腹の痛みというには大きすぎる痛みさえなければ聞こえていただろう。
身体の力が抜けていくのを感じる。
というか、痛いのは一瞬だけでもう痛みを感じる余裕さえない。……これがアドレナリン効果というヤツか。
「――ソテツッ!!!!」
たぶん、トトはそう言った。
聞こえないからわからない。
口の動きからそう言ったのだろうと予想しただけだ。
……口?
「……ト、ト……、お前。……がぁっ…………お前、は。…あい、つにとどめを……。隠れて………」
必死に声を絞り出す。
そもそもトトは俺があいつの隙を作るのを待って、そしてトドメをさす役割のはずだ。
さすがに死神といえど半人前。しかも相手はあんな怪物だ。直接やりあったところで勝てる見込みは薄い。
だからこういう戦法にしたはずだ。
「そんなこと言ってる場合じゃないですわ!!! ソテツが倒れた時点でこの作戦は失敗でしょうに! まったく、最初っからこうやっていればいいんですわ。私が全力をかけて倒します。ソテツはそこで休んでいてください!!!」
そういうがはやいか金属の怪物に向かって直進していってしまった。
それを最後にソテツの意識はほとんどかすんで、あたりを包んでいるのはただ静寂のみとなった。
視界の端でトトと怪物が対峙し、やがて流れに従って視界から消え去っていった。
地面からの振動は時折伝わり、その戦いがどれだけ規格外なのかが分かる。
そんな切迫した空気を他所に、ソテツの身体から刻々と力が流れ出ていく。否応なしに意識が闇の底へと沈んで行くのが分かる。
自分がどんなことを考えているのかも分からないままに何も考えられないということも考えられなくなり――。
もはや自分が何者なのかも分からなくなっていく。
生き残りたい。生き残りたい。まだ生きていたくなる。
……ふざける程度の余裕は、あったみたいだ。
☆☆☆☆
己の魂の分身を握り、奇獣と対峙する。
かつては殺しの属性を持つこの魂を忌み嫌っていたが、今では心強く感じる。
僅かに婉曲しながら伸びる柄。そしてその先から真横に伸びる曲刃。
これならあるいは目の前の奇獣を討伐できるのではないか、そう思える。
「―――――――――――!!!!!!!!――――――――――――――――――!!」
が、そんなものは幻想だと分かる。
目の前の存在は明らかに私よりも数段、いや数十段上の存在だ。
ルカさんならあるいは、単独でもこれを地に伏せることができただろう。
「ルカさんは、もはや人外ですから……」
まあ、もともと人ではないのは承知の上だが。
今回の件でルカが関わってこなかったのは、これがひとつの試練であるという見方ができるからだ。
ましてや問題の原因となっているのは私のパートナーのことで。
これを他人に解決してもらったのでは意味がない。
だから、ルカに頼んだのはふたつ。
一、私たちがあたりをつけている魂を呼び寄せてもらうこと。
二、夜が明けてから、私たちの安否を確認すること。
それだけだ。
それ以外のことは自分でやる。やらなければならない。
身体を低くし、突撃に備える。
今までソテツが命がけで戦ってくれていたから、コイツの動きは大体分かる。
基本は犬と同じ。
多少のカーブと、あとは直進。
ソテツが惑わされていたのはそれがただ早すぎるのと、いわゆる緩急というものがすさまじいからだ。
遅く進んでいた物体が急に早くなると人間の目にはそれが消えたように映るという原理がある。
つまりそういうことだろう。
そのことだけ頭に入れて、後はわずかばかりの実力と、大いなる運。
こんなときばかりは神に頼りたくなる。なんて、死神に聞かれたら怒られるだろうか。いや、そうでもないだろう。
神でも何でも、利用するものはする。
それが最善なのだ。
奇獣の前足―ソテツに潰されているほうは他よりも貧弱ながら元の形に近くなっている―が一歩下がる。
鎌を深く握り、早い動きに反応できるようにする。
一瞬、奇獣の身体が沈み込む。
「……見える」
3時の方角水平から15度。
その位置に向かって鎌を振るう。
赤い火花と腕に痺れが走る。
重い。
が、いける。
当てられる。
よく見ていれば、勝てる。
深呼吸。
「……さぁ、そこの犬っころ。ワタクシを倒せるとお思い? 大切な人を傷つけた報い、しっかりと受けてもらいますわよ!」
2週間・・・。長いようで短かったです。
毎年この時期になるといろいろ忙しくなります。
しかしなぜかこの時期になると仲間内で新しいことを始めてしまいます。
何ででしょうね?
輪音s七不思議のひとつとして数えておきましょう。
え、あとの6つ?
まあ、いずれ ニヤリ
で、いつまでバトルが続くのでしょうか?
いい加減休ませてあげてもいいとか思ってしまいます。
しかし、これまだプロローグの一環なのです。
漫画とかラノベとかの0巻なわけですよ。たぶん。
ですから、順番間違ってるのですよ作者は。
誰だこんなの書いたやつ!出てこい!!!
・・・はい、すいません。
まあ、こんなマイペースな輪音ですがこれからも見守っていただけると幸いです。
では、これからもよろしくお願い申し上げます。
追伸
ちょうど世間では夏期休暇にあたるころですかね、ある企画を考えております。
このサイトで公開する予定なので、まあ待っていてくださいな。
今っぽくなくて素敵な企画だと思いますよ。
ではでは。